その絵、閲覧注意につき
先週まで東京タワーで行われていた「祝祭の呪物展」を見てきました。
呪物コレクターが集めた珠玉の呪物を展示するというイベント。
呪いの人形とか、ブードゥー教のなんちゃらとか、謎の仮面とかがずらりと並んでしました。
呪物、と言っても悪いことに使うものだけでなく、安産祈願のお守りみたいなものも展示されていました。
ブードゥー教にまつわる呪物がいっぱいあって、南半球の黒人社会で主に信仰されている民間宗教だけど、意外と日本のおまじないに似た部分があって面白いなぁ。
……などと考えながら展示室をまわっている途中に、その絵はありました。
正直、視界に入った時から、なんか不気味な絵だなぁ、とは思っていたのです。
裸婦の絵です。たぶん油絵で、そんなに古い絵じゃない。描かれているのはたぶんアジア系の黒髪の女性です。
大きさは縦1mくらいかな。絵として絵は中型と言ったところ。
裸の女性が部屋の中で水浴びなのか体を洗ってるのか、そんな絵です。
少なくとも、不気味な題材の絵ではない。血とか内臓とかそういうモチーフは一切なく、ただ裸の女性を美しく描いている絵です。
ただ……色遣いがおかしいというか……。背景の色が何だかくすんでいるんですよ。
裸婦を描くからには女性を美しく描きたいという意志が少なからずあるはずなのに、なぜにこんな色遣いなんだ、という不気味な色。
よくよく見ると、絵の中の女性は前かがみになっていて、セミロングの黒髪が顔を完全に隠していました。
そんなに美術史に詳しいわけじゃないけど、裸婦を描いておきながら顔を描かない、という絵はあまりない気が……。
どうにも不気味な印象がぬぐえず、右目を隠して左目だけで見てみました。感性を司る右脳と繋がる左目だけで見れば、絵が放つオーラをもっとよく見ることができるかも……。
そうして左目だけで見て感じたのが、「あ、これ、ヤバいやつだ。これ以上見るのはよくない気がする」。
ただ絵を見ているだけなのに、なんだか急に疲れてしまったのです。
画家の負の感情が絵に込められていて、絵を見ることでその負のオーラを浴びて消耗していく、そんな気がするんですよ。
これはマズいぞと、おめでたい呪物でも見て気分を変えようと思うのだけど、どうしても絵が気になってしまい、視界に入るとそっちを見てしまう。絵を見ているのか、絵に見入られているのか。
解説文によると、この絵は元々どこかの旅館の廊下に飾られていたそうです。
ところが、宿泊客の多くが「気味が悪い」とこの絵を嫌がったそうです(だろうなぁ)。
評判が悪いので、その家の娘さんの部屋に飾ることになったのですが、
今度は娘さんが体調を崩してしまったのです(でしょうねぇ)。
そんなこんなで呪物コレクターのところに巡って来たそうです。
さて、どっと疲れてしまって会場を後にした僕なのですが、東京タワーの外に出ても、撃ち込まれた銃弾が体に残っているみたいに、負の感情のしこりみたいなのが胸に残ってるみたいで、なんとも気分が悪い。
東京タワーから浜松町の駅までの帰り道、2回つまづいて、1回スマホを落っことしました。疲れているのか、憑かれているのか。
あの絵は本物だぁ、と2時間ぐらい気分が悪いのを引きずっていました。おしまい。
……で終わらないんですよ、この話。
SNSで、「あの絵やべぇよぉ」みたいな感想ないかなぁ、と思って見てたんですけど、
出てくる感想が「楽しかった!」「面白かった!」、さらには「呪物、かわいかった!」なんてのばっかり。
……冗談だろ?
いや、イベント自体はすごくよかったんですよ。
ただ、みんな、あの絵を見て何も感じなかったの? そんなバカな……。あんなに負のオーラをバリバリとはなっていたのに……。
それはそれで怖いんですけど……。
僕がおかしいのか、これ?
おかしいおかしいと思いながらSNSを見ていたのですが、ぼくはあることに気づいてしまったんです。
呪物展は展示物の9割が撮影OK、SNSにじゃんじゃんアップしてね! だったんだけど、
あの絵の写真が、ほとんどないんです……。
ぼくより5日前に来た人がアップした写真をようやく見つけたくらいで、ほとんどネットには上がってない……。
1人で何十枚も画像をあげている人もいたけれど、そんな人でもあの絵の画像はあげてないのです。
他の呪物よりもサイズがでかいうえ、エピソードもちゃんとしてるし、絵画としての画力も高い。印象に残らないわけがないんだ。
みんな、「楽しかった!」「かわいかった!」という一方で、無意識にあの絵を話題にしたり、写真を撮ることを避けているんじゃないか、そんな風に僕には思えるのです。
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