見出し画像

ちょっと思い出しただけ

まさに私が見たかった恋愛映画だった。

どれだけ言葉を尽くしても、私の感想はこの一言に尽きる。(以下は言葉を尽くした過程)

エンドロールは妙に爽やかさで、切なさもあるが心地良かった。妙に、とつけてしまうのは、こういった類の恋愛映画のエンドロールで、そんな感覚になると思っていなかったからである。

出会いから別れまでを描いた映画は、「なぜ彼らは別れることになったのか」という過程を細かく描写する。そしてそこには生々しさが宿り、「彼らは本当に愛し合っていたのか?」というテーマにぶつかったりする。すると、〈愛情ではなく自己愛や執着だった〉〈実は不倫をしていた〉〈元々相性がいい2人ではなかった〉など、様々な影が見えてくる。

「ちょっと思い出しただけ」ではそういったテーマに焦点を当てていない。

つまり、別れたからといって彼らが愛し合っていたという事実は揺るがないのだ。

一方で、別れ際に葉は「ずっと会話になんてなってなかったのかもね、ずっと」といった発言をする。

©︎2022「ちょっと思い出しただけ」製作委員会

しかし、この台詞を元に彼らの会話がどれだけ一方的だったか、といった議論は無意味に思える。なぜなら、如何に葉の言う通りだったとしても、当時の彼らはお互いを大切に思い合い、本当に好きだったことが伝わってくるからだ。
また、照夫の誕生日を2人が出会う6年前まで遡っていく構成によって、彼らの日常はテンポ良く軽やかに過ぎ去っていく。だからこそ恋愛の嫌な生々しさはなく、心地良い時間が過ぎていった。

そして2人は、別れたことを異様に肯定して今を生きているわけでも、未練ばかり残っていて過去に囚われて生きているわけでもない。ただ彼らは今を生きていくし、たまに過去を思い出す。過去も未来も等しく愛を持って過ごしていくところに好感が持てる。

©︎2022「ちょっと思い出しただけ」製作委員会

わたしはこういう映画が見たかったのだと思った。

好きなポイント

①心地良い距離感と映像

©︎2022「ちょっと思い出しただけ」製作委員会

照夫のアルバイト先の水族館に不法(?)侵入のシーン。

©︎2022「ちょっと思い出しただけ」製作委員会

2人が初めて出会った日に路地裏で踊るシーン。

印象的なシーンほど、遠くから2人を眺めているような引き画の長回しである。こっそり2人だけの時間を覗かせてもらっているようなこの距離感が、見ていて心地よかった。

②自然体な演技と会話

©︎2022「ちょっと思い出しただけ」製作委員会

この映画、かなりロマンチックな展開が多い。2人にとって都合が良すぎる非日常的な出来事がよく起こるのだ。それに、タクシードライバーやダンサーなど設定も、個人的にはあまり馴染みがない。しかし自然体な演技や会話で、それらも日常的に感じられる。また、2人のやりとりは、客観的に見ていたら照れくさいようなものばかりだが、恋してる時なんてみんなこんなもんだと思う。ただ「好きな人と過ごす時間って最高だよね」という気持ちを湧き上がらせてくれるような温度感を再現している。池松壮亮(敬称略)と伊藤沙莉(敬称略)の演技に感服。

ちょっと思ってること

「ちょっと思い出しただけ」はよくある恋愛映画であればあるほど価値があると思う。なぜなら、よくある大衆的な恋愛映画で池松壮亮(敬称略)を見ることはなかなかできないからだ。また、松居大悟監督がストレートで分かりやすい恋愛映画を作ったことに意外性があることも挙げられる。映画を通して、素敵な恋愛を追体験できる時間はかなり贅沢だった。また劇場で観たいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?