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泥酔したい日

「お酒、強いよね」と言われると仰天する。
つい数年前まではしょっちゅう酔っ払ってしょっちゅう吐いていたからだ。

家でひっそり吐くのは良い方で、電車で気持ち悪くなって途中下車した時もあるし、路傍でテロ的にぶちかました時もある。時には男子トイレを占領した(多分判別ができなかった)。

起きたら枕元に、自分で用意したであろうポカリとゴミ袋が置いてあった時は感動した。

でも今は、お酒に酔いにくくなった。喜ばしい反面、少し寂しい。いや、吐かなくなったのは嬉しいんだけど。

公園の地面に寝そべって歌うことも、帰り道のラインで上手く文字が打てなくて、意味不明なメッセージを送り合ってニヤニヤすることも、春先の海に足だけ浸かって「冷たい!」と騒ぐことも、もうない。多分。

理性をかなぐり捨てて、恥も捨てて、全部さらけ出せるのは、泥酔した瞬間だけだ。
解放の機会が減ることの、なんと悲しいことか。

私は、蒸留酒なら酔いにくいことを知ってしまった。深酒は翌日の仕事に差し支えることを知ってしまった。

だからウイスキーばかり注文するし、翌日仕事の日は、日付が変わる前までには必ず家に着く。

だけど時々思い出す。泥酔したときの数々の未熟で愉快な行為を。
脳みそがグズグズに溶けるみたいにアルコールが回っている割に、「楽しかった」という感情だけはハッキリと叩き込まれている。

しっかりした足取りでたどる飲み会の帰り道は、自分を讃えたくなる反面、寂しくなる。

無法地帯みたいな飲み会で、乱痴気騒ぎをして、いつの間にか眠りについて、とんでもない場所で目覚めたりする。そんな大人がいたっていいと思う。正しいばかりじゃ疲れちゃうよね。

#エッセイ #日記 #お酒

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