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『今夜、世界からこの恋が消えても』感想

原作を読んだ後、「面白いなあ」って思っていた頃に劇場公開が終わっていて後悔してた作品です。

それで、配信が始まって速攻見たのですが……。


うーむ。惜しいところを突いた感じ。

全体的に見て綺麗に、感動的な物語になっているけど……。

ちょっとだけ気になる部分がある感じ。

ちょっとだけ、ね?

※ネタバレ注意

・良いところ

・公園でのハプニング

ここ、ヒロインが抱える「前向性健忘」がどういうものか印象づける上でとっても良かった。

「前向性健忘」がどういう症状なのか、あまり知らない人のためにこういうシーンがあると「ああ、そういうことなんだな」と印象づけてその後の物語を感動的にさせやすい。

一応、調べたのをここに記しておきます。

ある時点から以降の記憶が障害されること。たとえばベンゾジアゼピン系睡眠薬では服薬前の記憶は障害されないが、服用後ある一定期間または夜間に中途覚醒したときのことを記憶していないという前向性健忘がみられることがある。用量を増やした時やアルコールとの併用でみられることが多い。

スイミンネットより




原作は小説だから地の文で説明してしまいがちだから、どうしてもその疾患についてイメージがわきにくい。

これより前にも「前向性健忘」について出ていたけど、詳しくは描かれていなかったし、なぁなぁ程度で終わらせていたぐらいだから、「どうして描かれなかったんだろう」と思ってました。

それが、公園のハプニングで回収するとは……。

ヒロインの日野真織がその日の出来事を残すために記している日記に、「一度起きたらその日の記憶を失ってしまう」と書かれていたし、「ああ、あそこもここで回収するんだ」と思った。

公園でヒロインがうっかり寝てしまいました。すると、目を覚ますとそこには(自分にとって)知らない人が隣に居ました。

勿論、透は知ってます。

そして、同時に彼女の疾患について知ることになる。

困った挙げ句、真織は親友である泉に連絡をする。

さて、ここで疑問が生まれます。

「なぜ、真織は泉に連絡することができるのか?」

そこで疑問が生まれた時、同時に先に起きた物語が脳裏に蘇って、それで解決します。

その物語とは、冒頭のシーンのこと。

彼女の前向性健忘が徐々に改善の兆候が見られた時のシーン、何気なく見ていたのですが、あそこもいわゆる伏線だったんだなって。

彼女が事故に遭った時が高一。そこから前向性健忘となって昨日のことも忘れてしまう状態になってしまうけど、それ以前のことは覚えている。
小学生の頃、中学生の頃とかも、全部覚えている。

そのシーンが以下の通り。

泉「記憶が回復するってどんな感じなの?」
真織「うーん……。昨日の事ははっきりと覚えているんだけど。その前の記憶は高校生で、3年間まるっと抜けたまま、一瞬にして大人になったというか……、とにかく不思議な感じ」
泉「抜け落ちた記憶って戻ってくるのかな?」
真織「日記に書いてある3年間の出来事は記録であって、記憶として思い出す事はないだろうって」
泉「そっか」

ここの台詞が公園のハプニングで「ああそういうことなんだな」って考える事が出来ると思います。

・綿矢泉

彼女、真織の親友でかつ彼女の秘密を知るものとして存在していたのですが、結構良い味出てました。はい。

どういうことかって言うと……。

最初は遊びのつもりで透が真織に近づいてきたと思って、ライバル視してきた泉だったのものの、次第に心情が変化して今や二人の関係を見守る存在となっていた。

ここの変化よ。

数少ない彼女の秘密を知る者として、透のことを敵視していた泉。だけど、二人の仲の良さを見る度に二人のことを、透のことを信頼していく。そして、やがて二人の関係を見守る、という存在に。

だけど、私はこうも思います。

公園のハプニングを通して、透のことを信頼してあげたんだな、と。

重複しますけど、うっかりと寝てしまった真織は透から離れ、泉に連絡をします。その時、疾患のことを知っている彼女は冷静になって真織に指示を出します。
同時に、透に電話をしてその場に立ち止まるようにお願いをする。

泉が頼んだ透の願いは無駄になってしまったけど、おかげで透は真織の「前向性健忘」について知ることが出来た。
彼女の口から、知ることが出来た。

だけど、泉はそんなことも知りません。だって遅れてやってきたんだもん。

仕方ないね。

それで、透は真織の疾患について知らないと思い込み、「夢遊病だから」というこじつけで説得します。その時ですよ。

ここで微妙ながらに心情が変化したの。

泉の無理やりなこじつけの後、3人の間で微妙な間が空きます。

これって、何の間か分かります??

──そうです。「透が真織のあのことについて知ってしまったんだ」という泉の心情が隠されているんです。

そして、同時に透も「泉も真織のことを知っているんだ」ということを知ります。

だから、ほんの少しだけ間が空く。

そして、2人の間で暗黙のルールみたいなものが出来上がる。

「真織のことは知っているけど、知らない振りをしておこう」と。

そうすれば「夢遊病みたくなっちゃうんだよ」的な台詞が生まれるわけです。

それで、泉は透のことを信頼していくようになっていきます。

・神谷早苗が作家になった理由

ここの部分、恐らく誰も気づいていないかと思います。

事の経緯を説明するとこうです。

早苗が「西川文乃」名義でプロ作家しているとき、芥川賞を受賞。

その受賞の模様を父で同じくプロ作家を目指していた神谷幸彦が見る。

何やかんや父と透の喧嘩を見ていた早苗が作家になった理由を話す。

こういう背景ですね。

それで、作家になった理由として、彼女が最初に示したのは「家を出たかった」から。

けど、途中で変わって「母親のために」ということになった。

そのように変わったのは、父親の姿を見たから。

「母親のために」という部分が描かれているところとして、最後の墓場のシーン。

よーく見て欲しいけども、神谷家の墓場に「神谷文乃」と書かれてます。

──ん?? これ、どっかで……?

あああああーーー!!!!!!!

早苗のペンネームだぁーーーーーーー!!!!!!!!!!!!

「母親のために」小説を書くために、彼女は下の名前に「文乃」と入れたんですね。納得。


・気になるところ

目を瞑れるところなんですけど、あえて述べさせて頂きます。

・神谷透が真織の日記から消して欲しいと頼んだシーン

ここの部分、びっみょうなんだよね……。

理由づけるとしても、「好き」だから。

「好き」だから、「傷つけたくない」から。

彼は泉にもしものことがあったら消して欲しい、そう頼んだわけです。

……うーん。薄いなぁ……。

感動的な展開にさせるための出来事が原作より少なくなってしまったためか、そんな感じに思えてしまった……。

まあ、あんまり気にはしてません。

・結論

私なりに点数をつけるとするなら……

95点

かな。

全体的に面白かったし、見応えが抜群だった。

気になるところも多少はあったけど、あまり気にせず楽しめたし、このぐらいの点数が妥当じゃないかなって思います。


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