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「シン・ゴジラ」感想

丁度「シン・仮面ライダー」を見た後なので再び見ました。

やっぱり凄いな……。
現代日本にもし巨大怪獣が現れた時に取るであろう行動を全て網羅されているし、現代日本の行政における問題点を挙げているから、もはやただの怪獣映画とは呼べないぐらい、そのぐらい偉大な映画になってる……。

ありがとう庵野監督。ありがとう樋口監督。

※ネタバレ注意

・良いところ

・行政(内閣)

この「シン・ゴジラ」は第1形態から描かれる訳なのですが、そこからの政府の対応やら全て考えた上で、映像化されている訳だから凄い。

現代の日本政府って無論怪獣が現れるなんて思っていないじゃないですか。だからネット上に怪獣の映像が発見されたとしても、黙殺するしかない。

だって、「怪獣がいます!」って国の機関が言うんだよ? 笑われる。

だから黙殺して、海底火山やら適当な理由を付けて事の天幕を引こうとする。
けど、それは上手くいかなかった。

各社メディアが一斉に(今作品は1つしか出ていないが)怪獣の様子を映し出したことで、政府はそれを容認せざるを得なくなる。
んで、今まで幕引きを引こうとしたのが全部崩れる。

それを見た国民は当然「上陸はするのか?」という疑問を浮かぶはずなので、それに政府は取りかかり、「上陸はあり得ません」と公の場で発表。
そこまでに至る経緯は日本特有の「上から下へ押しつける」スタイルだし、不都合なものは抹消するスタイルだし、もう最高です。

「上陸の可能性があります」→「あり得ない!」「うちの部下が失礼なことを言って申し訳無い」

最高すぎるよ。日本人としての汚さが垣間見えて最高過ぎる。

公の場で「上陸はあり得ません」と発表してしまった直後に怪獣は上陸。そのことに当然世間の人は「は? 上陸してるんじゃん。何嘘を発表してるんだよ」ってなり、信頼を失います。

そして政府は次なる手、つまり自衛隊を使います。

しかし、ここで問題点。

自衛隊には出動要件があり、ここで出てきたのは自衛隊法第76条、第78条。

以下、その文章。

第七十六条 内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては、武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)第九条の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。
 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態
 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態

 内閣総理大臣は、出動の必要がなくなつたときは、直ちに、自衛隊の撤収を命じなければならない。

自衛隊法第76条

第七十八条 内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。

 内閣総理大臣は、前項の規定による出動を命じた場合には、出動を命じた日から二十日以内に国会に付議して、その承認を求めなければならない。ただし、国会が閉会中の場合又は衆議院が解散されている場合には、その後最初に召集される国会において、すみやかに、その承認を求めなければならない。

 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があつたとき、又は出動の必要がなくなつたときは、すみやかに、自衛隊の撤収を命じなければならない。

自衛隊法第78条

劇中の台詞でもあった通り、この法律は「国」を想定としたもの。これを「国」ではなく「生物」として適用して自衛隊を動かすべきなのか。
結果的に自衛隊の出動が動きますが、その後の自衛隊の行動にもリアリティはある。

2016年の東洋経済さんがこの自衛隊の行動について記事を出しているが、まさにその通り。

自衛隊は世界各地の戦力ランキングでは第8位を誇る戦力。だけど、最新型をあまり整備されておらず、その欠点が怪獣との戦いで諸に出てしまった感がある。

大体の方々のイメージは「自衛隊は最新兵器を持っているだろうなぁ」って思っているだろうが、実はそうではないし、国の予算もあるのであまり整備されていないのが現状。(私の推測が混じっていることに申し訳無い)

そんな自衛隊が怪獣=ゴジラに勝てるのか?

勿論答えは「否」

ゴジラファンの方々からすれば「ゴジラは神! だから勝てない!」って言うかも知れないけど、作中の登場人物に合わせて私が言うならば……。

「あまり最新兵器を持たない自衛隊が怪獣に勝つのは無理だと思う」

だってそうでしょ? あまり最新型を持たない自衛隊が怪獣に向かうなんて。

あと、自分たちの庭にまだ民間人がいる場合は撃てない場合とか。

実際他国の軍隊だって同じかも知れないけど、軍を動かすに当たって民間人への副次的被害を計算しなければならないし、それに基づいてどう行動するべきなのかを考えなければならない。
そう考えた上で自衛隊の攻撃計画が成り立つ。

だから撃てないんです。だってあくまで自衛隊の攻撃は「害獣駆除」ですから。

結局自衛隊は撤退、後何故かゴジラは東京湾に戻っていく……。

ああ、書き忘れましたけど。

いちいち会議を挟まないと物事が進まないところ、まさに「民主主義」そのものだなって感じてます。

かのチャーチル元首相だってこう話していますから。

「これまでも多くの政治体制が試みられてきたし、またこれからも過ちと悲哀にみちたこの世界中で試みられていくだろう。民主主義が完全で賢明であると見せかけることは誰にも出来ない。実際のところ、民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが」

近世ヨーロッパでは多くの国が絶対王政が採られていました。その絶対王政は謂わば1人の政治家による独裁。他人の意見なんて関係ありません。全て1人で進められます。

この方が理想的じゃないですか。(詭弁)
だって1人で進めた方が有利ですよ? 誰にも意見を求めず1人で着々と国を動かすことが出来るんだから。

だけどこれには決定的な問題がある。
それは「誰にも意見を求めず1人で着々と国を動かすことが出来る」という点。

世間には沢山の意見がある。その大多数は国を動かす1人に同意を示されるけど、その一方でそれに反対する意見だってある。
それを聞くことが「少数意見の尊重」という考えであり、それが元となって「民主主義」が発展する。

今の時代は「民主主義」が主流だし、これに反対したらさすがに非国民扱いにされそうなので止めますけど……。

民主主義って効率悪くない?

こういうことなんですよ。結果的に。
少数意見の尊重という考えはとっても立派だし、そこから発展した民主主義もとっても重要。だけど、人々の意見にはごまんとあるから全部聞けるかって言われたら無理。

それを伝えたいんだと思います。この作品は。

その後。
自衛隊の総力をもってしても勝てなかったゴジラに対し、米軍が挑みます。世界一の戦力を持つ米軍、さすがにゴジラにダメージを与えます。

なぜさすがって言っても、世界一の戦力を持っているからとしか言いようがない……。

彼らがゴジラに攻撃を加える中、政府は政府官邸に迫るゴジラから逃げようとします。首相は「国民をその場には置いていけん!」と言って頑なに動こうとしませんでしたが、周囲の説得によってヘリに乗ることに。

しかし、これが裏目に。

ゴジラの熱線によって内閣諸とも事実上崩壊してしまいます。
(※運良く農林水産大臣が生き残って臨時の総理になっていますが、あんまり頼りない首相でした。はい。)

ここまでの大河内内閣、現実にいたらまさしくダメな内閣の見本市だと個人的には思います。

というより、現代日本の行政とも表しているかと。

何でかって言うと、何でもかんでも首相や大臣の許可がないと出来ないとこだったり、形式的な会議がなければ物事が先に進まないとこだったり、自衛隊は首相の下でしか動けない【シビリアン・コントロール】の体制を表していたりとか……。

そんな感じのことが第一幕から第二幕にかけて映像化されていたんじゃないかと思います。



・諸外国

特に周辺国である中露、米、国連が良い動きを見せているね。

日米同盟を結んでいる米国としてはこの事態を逃す訳もなく、すぐに米国は動きます。
まあ、米国も動くって事は国連も動くんですが。

んでもってなぜか中露も出てくるんですよね。

「え?」って思う人もいるかも知れない。なんで中露なの? って。

彼らって表向き日本に対していい顔をしていますけど、本当の目的を言えば日本侵略なんです。
だってどさくさに紛れて日本を占領すれば文句言われないやん?

それで、絶対にその動きがあるなって米国はいち早く感づいてゴジラについて調べるんですよ。
だから米国大使の来日が早かった。

だってそうじゃないと中露に負けるんですよ? 当たり前じゃないですか。同盟国ですもの。

中露が日本の支援をする前に同盟国である米国が日本の支援に回らないと、国内で批判が起こったり、政府内でも反発が起こったりする。
実際問題、戦後間もない頃は米国批判が当然のようにあったので、それを回避しているとも言える。



・まとめ

私なりにまとめるとしたら、「シン・ゴジラ」は現代日本に対する批判を込めたパニック映画(怪獣映画)ってこと。

それぞれの登場人物のバックボーンはあまり触れてこなかったけど、それも加味するとなれば、あまり満点は上げられない気がする。

逆に言えば、バックボーンを無視すれば本当に良い映画だったということ。



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