節目の目標地点にて
国家試験を受け終えて2週間が過ぎた。先月から当日まで、起きたら真っ先にテキストを開き、寝る前は頭の中で覚えたことを復唱しながら睡魔を待つ日の繰り返しだった。エネルギーの多くを勉強に充て、少なくとも1年間は勉強を継続していた。だから試験後もそう簡単には習慣が抜けないのではと思っていたけれど、試験を終えてからというもの、一度もテキストを開いていない。意外と未練なく勉強漬けからは解放できたみたいだ。当日まで頭の中は薬品名でいっぱいだったのに。清々しいまでに今は脳内がクリアだ。
当日は人生最大の緊張感が幾度となく襲ってきた。きっと普段と違うことをすれば余計に不安になるからと、いつも通りを心掛けよう。ひとつひとつ、丁寧に。そう思って出発したけれど、家を出るときにたまたま鍵を落としたり、電子マネーを入れているスマホの接触不良でたまたま改札が通り抜けられなかったりして、偶然の連続がその日はやけに目についた。
元々は大学生活の延長線上にあるものとしか考えていなかった試験だった。卒業をしなければそもそも受けることが叶わない試験で、卒業要件は国家試験に合格足りうる学力。だから私の学部はフル単でも卒論卒研に励んでも容易に留年するし卒延する。私は何度もその波に足をとられた身なので、大きな口では言えないけれど、そういう仕組みを入学後に知ったあと、それを受け入れいち早く攻略していく者が乗り越えられる荒波なんだと今ならわかる。
しかし曲がりなりにも何とかここまで辿り着いたわけだ。会場に迎う手前、まだ終わってもないのに涙腺は緩み鼓動が激しくなった。勉強を続けることが最低限の自分の価値だと思って歩き続け、ゴール目前で全てはたった2日間のためだったのだと思い知らされ、急に緊張感が増していった。
試験中はとにかく余計なことを考えるのはやめた。勉強をしているとき、思考が別世界に飛んでしまうことが多々あったのだけれど、今回ばかりは浮遊している時間はないので、飛びそうになる自分を何とか椅子に座らせて、目の前の問題に集中した。
今年は比較的その場で考える問題が多かったように思う。症例問題や化学構造をステムや薬効から想定したり、他の分野との知識を繋げて考える問題が散見された。そのため見かけ上、普段とか異なる傾向にも思えたけれど、難易度は例年に比べれば平易というのが専門家の結論らしい。実際に試験の平均点は去年よりも20点弱高い異例の結果となり、受験生はたとえ例年の合格ボーダーラインを超えていても、手放しに喜べないのが正直なところ。かくいう私もその一人だ。
ただ試験が終わった以上は、自力でどうすることもできないので、今はその先のことを考えている。こうした受験勉強が本格化する前から考えていたこと、この1年間を経て思い直したこと、それでも手放せない思い。目標地点がリセットされて、人生で初めて何もない状態を経験している。本当に不思議。ゼロの状態で手繰り寄せたものや発想したものが本物だったらいいなと思う。
ありがとうございます!