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ボクラ紀行〜彼女の地元編〜

"ね、月曜日お墓参り行くけど。くる?"

夜の穏やかな時間に彼女はそう言って彼女の地元への旅に誘ってくれた。勿論二つ返事で承諾。どんな場所で彼女が育って、どんなものを見て聞いて、食べたのか。それを少しでも知りたかった。

当日お昼前頃に家を出発し、彼女の地元へ。高速道路を走り1時間と少し。まず初めに彼女のおばあちゃんの家へ行く事となり、道中彼女が前住んでいた家を発見する。

"あれ、前住んでた家!"

久しぶりの地元に心なしか弾んでいる彼女を見て僕もなんだか嬉しくなった。いざおばあちゃん家に着いくと彼女は駆け足で玄関からリビングへ。

"かえったよー!"

鈴の鳴るような声で彼女が言うと、奥の方からおばあちゃんの優しい声でおかえり。と聞こえてきた。僕はそのやり取りに心を暫し綻ばせて、次の瞬間我に帰る。(あ…これ完全に入るタイミング逃したな…)そうこうしていると彼女が奥の方から、早くあがりなー!と声をかけてくれた。では、お邪魔します。

リビングに入るとおばあちゃんがニッコリ笑っていらっしゃい。僕は初めまして。と挨拶してソファの下に膝をたたんだ。なんで正座なんかしてんのと笑う彼女を横目に僕がじいちゃんに教わった作法を思い出す。(どうぞ。足を崩してください)言われるまでは正座だ。(じいちゃん!俺ちゃんと守ってるよ!)

一方彼女はソファを背もたれ代わりに伸びをしている。(いや、それはそうか。ここ彼女のおばあちゃん家だもんな)そんな事を考えているとおばあちゃんが

"お昼食べたの?何か作ろうか?"

久しぶりに会った孫に手料理を振る舞いたい気持ちを不意にする訳にはいかない。彼女と目を合わせると(食べるの?どうする?)の視線。決めてくれ〜〜〜!!!僕じゃなくて君に作りたいんだおばあちゃんは〜!!!

"あ、まだです。頂きます!"

そう答える他無いじゃないか。遠慮や礼儀よりもおばあちゃんの気持ちを汲みたいじゃないか!!!そんな事を考えている間に数品のおかずとご飯を手際よく調理したおばあちゃんは机にそれらを運んで来てくれた。レトルトだとか簡単なものだけどなんて説明されたけど、孫の彼氏とは言え、いきなり来た余所者の僕にも手料理を振る舞ってくれた事が素直に嬉しかった。

おばあちゃんの作ったお昼ご飯を2人で食べていると彼女の叔母さんが帰ってきた。はじめまして。僕がそう言って会釈をすると叔母さんもはじめまして。何やらウォーターサーバーの水を交換したいらしく、彼女も手伝って水の交換が始まる。(この時手伝えば良かったなんていまだに思う)

叔母さんは買い出しの品を冷蔵庫にしまうと僕らの前に座り二、三話をし始めた。出身は?とか出会いは?とか仕事は?とかそんなところだ。その話が終わるとまた叔母さんはキッチンに戻り炊飯器を見て一言。

"ねぇ、彼氏?ご飯もうちょっと食べれる?"

どうやら残りが中途半端だったらしい。既に結構な量を食べていたのだが僕らが食べて中途半端にしたのだから断る理由がない。あ、はい。そう言ってご飯のおかわりを貰うと、叔母さんは追加でコロッケを出してくれた。(い、胃が!爆発する!!)会話をしながらなんとか僕が箸を進めていると、叔母さんが

"しっかりたべなよ?"

(は、はい。もう十分にしっかりと頂いてます……)
彼女の方は本当にもうお腹いっぱいと言った様子でもう食べられない…とお腹をさすっていた。

すると今度は子供連れの彼女の従姉妹。初めましてのオンパレードだ。従姉妹の子供はまだ2歳らしく可愛らしい女の子だったが、どうやら男の人が苦手らしく、僕の顔が見えるとすぐに顔を伏せてしまう。そうなると僕の方もどうしていいか分からずとりあえず見守る形になるのだが、彼女の方はお構いなしでその女の子に近寄り"ねーねー覚えてる?"と首を曲げて聞いていた。

その後その女の子と彼女がベランダで遊んでいる間、叔母さんと僕とで色んな話をしていた。いつの間にか僕もソファに座っていた。(じーちゃんごめん)

そろそろお墓参りに行こうかと言う事になり、話をしているとおばあちゃんの方からお父さんには会いに行くのかと聞かれた。彼女がお店に顔出すよー!と言うとなんと、その日従姉妹が2人お客としてお店を予約しているらしい。大集合だねなんて話をしていたが、実質叔母さんもそこで働いているのでその場にいた全員が再度店で集まる事になった。(そう。彼女のお父さんは飲食店を経営している)

そしてお墓参りへ。線香とマッチ、お供物にお花を買って向かう。道中またいろいろな事を彼女が教えてくれる。あぁ、こんな所で彼女は育ったんだな。なんて思っていると墓地の下の駐車場に着いた。

お墓は坂のきつい山の中程にあり、やはりこの坂を攻略して辿り着かなければならないのだが、途中で桶に水を溜めて持っていかなければならず、僕らは息を切らしてお墓へと辿り着いた。お墓に着くと彼女は手際良くその辺に散らばった落ち葉や雑草を処理し、古いお供物やお花を取り替えた。僕も何かしようと小さな草を見つけ抜いていた所、彼女は楽にしてて良いよ。と次はお墓に水をかけて洗い始めた。きちんと定期的に来ている証拠だ。なんとも清らかな姿だった。

線香を焚き、手を合わせる。僕は僕なりに彼女のご先祖に伝えたい事をひとしきり念じていたのだが、彼女はどんな事を思っていたのだろうか?少しだけその横顔に見惚れてしまった。

お墓参りが終わると彼女が学生の頃から行っていたと言う海辺へ案内された。飛行機の発着場が近くにあり、何度も至近距離で飛行機が離着陸する様は壮観だった。用意してきたチェキでなかなか良い写真も撮れて良かった。海風に靡く彼女の髪が側でさざめく波とどこか似ていて綺麗だった。

良い時間になったので彼女のお父さんのお店へ出向く事に。引き戸を開けると彼女が"来たよー!"と調理場に立つ男性に声を掛けた。男性は小さく頷いてすぐに僕の方を見る。(お父さんだ!)はじめまして!また小さく頷き返されて、僕らは店の奥に進んだ。先に従姉妹達は着いていたようで、僕らは隣の座敷に案内された。店内はまだ新しく、和風の内装が綺麗で、お箸や箸置きも小洒落ていて心地のいい店だった。

僕らはお昼をたんまり食べていた事もあり、数品頼んで僕はお酒を、彼女はコーラを飲んだ。料理もとても美味しく、本当にいいお店だななんて思っていると彼女が

"本当はあんまり連れて来たく無かったんだよね"

なんて言い出した。不思議に思っていると

"だって、料理分かる人じゃん…"

何だそう言うことか。僕が元料理人をやっていた事で何か店の事を判断されるのでは無いかと彼女は心配していたようだ。安心して。本当に掛け値なしにいいお店だから。

しばらく会話をしながら食事を楽しんで店を出る事に。有難い事に物凄く、本当に物凄くサービスしてもらった。また必ず行きます。お父さん、叔母さん。

それから僕らは切れたチェキのフィルムを買いにカメラ屋へ寄って、僕も何度か会った事のある彼女の友人と合流する事になった。合流するや否や彼女が

"無料水族館行こう!"

と言い出した。水族館?時刻は既に20時を回っているのに水族館が開いているはずが無いのだが…そう考えていると着いた先は船着場。え???

船着場に沿って設置された外灯に照らされて水面がよく見える。魚がちらほら泳いでいるのも見えた。あぁ、なるほど。これは確かに無料水族館だ。

"ね!しょぼいでしょ笑"

そう言って笑う彼女の顔があまりにも無邪気で本当に愛らしかった。車の中にあった釣り針と糸、その辺にあった竹を組み合わせて即席の竿を作り魚釣りの真似事もしてみたが、一瞬で地球を釣り上げてしまい、納竿となったのであった。

次に向かったのはうどんの自販機のある場所。どうしてもこのうどんを彼女は食べたかったらしくお墓参りに行くと決めた日からその話をずっとしていた。自販機から出来上がったうどんが出てくるなんて想像だにしなかったが、本当に出来上がったうどんがシャコンッと多少強い勢いで飛び出して来た。車内に持ち帰って食べる。肉うどんだ。何やら柑橘系の皮も入っていていい香りがするし美味しい。何より自販機物とは思えないクオリティで驚いた。

そのままの流れで3人でカラオケに行く事になり友人と彼女が歌うデュエットに僕が勝手にやきもちを妬きながら、僕らは時間目一杯歌って楽しんだ。


こうして僕らの彼女の地元への旅は全行程を終了した。何がかはよく分からないが、より深く彼女の事を知れた気がするしまた会いたい人にも出会えた。何より彼女の親族に会ったり話をしたり、共にお墓参りを出来た事が何だか少し、その輪に近付けた気がして嬉しかった。

帰りの車でお昼からの暴食により、彼女の胃の調子が頗る悪くなった事以外は全部本当に楽しい出来事だった。今度は僕の地元へ行こうと約束してこの日を終えた。


今日はここまで!
またいつか与太話を。
んじゃ、また!!

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