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【絵本 ゼラルダと人喰い鬼】

強烈な風刺の目と、とびきりのユーモアが共演するトミー・ウンゲラーの絵本。

【並べて楽しい絵本の世界】ウンゲラー③

鬼というのは、人の生活のなかでそこかしこに顔を出す、おなじみのモノです。

誰かや、なにかの物ごとに猛烈に怒りを感じている時とか、思わず口をついて 言いたいわけではないことが飛び出す時、私のなかには、奴がいるのだと思います。

愛する人にたいしてさえ、絶対にこれだけはいいたくなかった「言葉」が飛び出してしまうことが 人にはあると思います。

有名なお話し『泣いた赤鬼』は、浜田廣介作の児童文学で、教科書にも出てくるから、みんなが知っていると思います。
あのお話は、ずっと私のこころの片隅に残っていて、鬼というのは、悪者として扱われているけれども、ただやさしいだけなのに、世間の思い込みから、嫌われてしまうということが、人生ではたびたび起こるのだということを、早い時期に私に教えてくれました。

先生が手を焼くほどの クラスの暴れん坊も、ちゃんと 優しい心を持っていて、人の目を盗んで こそこそと野良犬にパンをあげている光景が 遠い昔の記憶にあります。(後日 私の家に連れてこられて困ったけれども。これは、まだ街中を のら犬が歩いたりしていた、遠い昭和のはなしです)

鬼はともすると孤独に描かれていたりします。
(ももたろうなどは違うかも)
その点も、人のこころにはある種、印象深く残ることが多いのではないでしょうか。本を読むというのは、たったひとりですることだから、人の目を気にすることなく、鬼に同調してみてもよいのです。
おとなの読書は絵本においても、そんな楽しみ方ができると思います。

とくにトミー・ウンゲラーにおいては。

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ウンゲラーの描く、いわゆる『悪人』は、泣いた赤鬼を思い出させてくれました。こちらはかなりウンゲラーのユーモアが色濃くでていますが。

絵本「ゼラルダと人喰い鬼」のこの鬼は、”童話にでてくる人喰い鬼のように” と作者に紹介されています。
いや、あなたが描いているのも、「絵本」もしくは「童話」でしょ。

この本が子どもたちがはじめて出会う鬼になる可能性が高いのよ、ウンゲラーさん、と言いたくなります。

するどい歯、ごわごわのひげ、
それに、でっかい鼻と、大きなナイフをもっていて、
とても残酷で、大ぐらい、
朝ごはんに子どもを食べるのが、
なによりも大好き.

毎日町へやってきて、子どもをさらっていくので、ひとびとは子どもたちを隠します。地下室や蔵の中に。

鬼は腹ペコになってしまい、麦のおかゆやら、キャベツなどしか食べられなくて、いたく不機嫌になってしまいます。

さて、遠い谷間の森にすむゼラルダは、鬼の噂など知りません。
ある日お父さんの代わりに、市場にいく途中で人喰い鬼に見つかってしまいます。
ですが、空腹の鬼は岩の上で待ち伏せ中に、足をすべらせてゼラルダの目の前に落ちて気を失ってしまうのです。ユーモラスでどじな鬼です。

「このひと、お腹がぺこぺこで、死にそうなんだわ」とゼラルダは思いました。さっそくゼラルダは、荷物をおろすと、枯れ枝を集めて火をおこし、お料理にかかりました。

なんとおおらかな展開でしょう。

ゼラルダはお料理が大得意でしたから、鬼は、ずらっと並んだごちそうを前にして、それをすべて平らげると、すっかり彼女の料理の腕に魅せられてしまい、自分のお城にスカウトし、ゼラルダのお父さんまでも なんと、材料の調達係として登用されます!

毎日毎日、ゼラルダの作るご馳走を食べて、すっかり幸せな鬼。
お城には 近所の人食い鬼たちも招かれて、この世のものとも思えない美味しいご馳走 にすっかり感激。子どもたちを食べることなど、すっかり忘れてしまいます。

そして、何年か経ち・・・ゼラルダと鬼は素晴らしい家庭を作り・・・

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ハッピーエンドに胸をなでおろすのは、悪くないと思います。

人生は色々あるし、良いことばかりではないかもしれないことを、私たちはみんな知っています。

トミー・ウンゲラーはこの絵本を こういうカタチで終わらせました。

タイトルと表紙の絵をみれば怖いけど、子どもにも読んであげて欲しいと思います。

おとなが読むと、現実的にこういう展開はありえないでしょ、といいたくもなりますが、童話や絵本にとっておとぎ話的な結末は案外大切なものだと、風刺得意なウンゲラーもこの結末を選んだのでしょうか。

架空の鬼という悪者も、人間と友好的な関係を築くことができるのです。

鬼はいつでも誰の中にも、自分の中にも住んでいるんだ、ということを知っているのといないのとでは、生き方が大きく違ってくるのではないか?

自分の中の鬼と 自分の中のゼラルダに気が付いたら、時折り顔を出す鬼に対して、優しくしてあげる方法がわかるのでは?

鬼はただ淋しいだけなのかもしれない。ただお腹がすいて悲しいだけなのかもしれない。

自分も他人もいたわってあげるようになれたら、
生きのびていく上でずいぶん楽になって、結果、幸せになる方法に気づけるかもしれません。

鬼とはなるべく早く出会ったほうがいい
これが筆者の感想です。



トミー・ウンゲラー①②



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s.suzuki
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