“『スマブラ』とスポーツカーと誠実の怪人。”の文脈

今日、ひとつのインタビュー連載が最終回を迎えた。

『スマブラ』とスポーツカーと誠実の怪人。桜井政博さんに聞く岩田さんの思い出。

https://www.1101.com/about_iwatasan/sakurai/

このインタビューは少し特別で、上のサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』の他に、『ファミ通.com』
でも同じ内容のものが読めるようになっている。

s.famitsu.com/news/202001/27191361.html

内容は【桜井政博】というゲームクリエイターが【岩田さん】という人物の思い出を語るというもの。聞き手は【ほぼ日の永田さん】だ。

さて、このインタビューについてこんなツイートがあった。

twitter.com/tekken8810/status/1221663297595830272?s=21

“永田さんファンとしては「永田さん×ファミ通」「永田さん×桜井さん」「永田さん×岩田さん」と、あらゆる組み合わせで「文脈」が発生してて倒れそう”

私はここで、その「文脈」のうち、私が知っていることについて話したいと思う。

これを読んで、このnote自体は面白くなくても、上のインタビューがより面白く読めたなら私は嬉しい。

まずは、登場人物の説明をしよう。最新のゲームプレイ動画が130万再生のアイドル的ゲーム実況者桜井政博(うそうそ)を除いたら、知らない人物ばかりだという人もいるかもしれないからだ。

【岩田さん】というのは、任天堂の社長だった人物、岩田聡だ。2015年7月に惜しまれながら亡くなった。
岩田社長(故人だが、私にはこう呼ぶのが口に馴染む)のインタビューなどにおける言葉をまとめ、一冊の本にした書籍がほぼ日から発売された。タイトルを『岩田さん』。上のインタビューはその本のプロモーションのひとつとも言える。岩田社長がどんな人物だったかは、そちらを読んでもらえば詳しい。

【桜井政博】は、ゲームクリエイターだ。もっというならば、『大乱闘スマッシュブラザーズ』のディレクターだ。

【ほぼ日の永田さん】は、ほぼ日の永田泰大である。ほぼ日の乗組員だ。(ほぼ日では会社のメンバーのことを乗組員と呼ぶらしい)。役職は「ほぼ日編集部長」、取締役のひとりである。主な仕事としては、雑誌の編集者に近いことをしている(ように見える)。インタビューの聞き手であったり、連載コラムの書籍化であったり。webラジオのようなもののパーソナリティのようなものもやっていたりして、それらをひっくるめてほぼ日の乗組員である。『岩田さん』の編集をしたのも彼だ。

二つのサイトについても説明しておこう

【ほぼ日】は、ほぼ日刊イトイ新聞だ。その名の通り糸井重里が主催するメディアで、1998年創刊というネット上ではかなりの歴史を誇るサイトである。

【ファミ通.com】は日本最大のゲーム雑誌【ファミ通】の運営するウェブサイトだ。

前置きが長くなったが、充分だろう。本題に移ろう。

これらを繋ぐ“文脈”とは何か。

まず桜井さんと岩田社長の間の文脈だ。

桜井さんと岩田社長は「元社長と部下」という関係にある。と、いっても桜井さんがかつて任天堂の社員だった、というわけではない。岩田社長は任天堂の社長となる前に、HAL研究所というゲーム会社の社長だった。『星のカービィ』を作っている会社だ。オリジナルの『大乱闘スマッシュブラザーズ』もここで作られた。

桜井さんは高校を卒業後、このHAL研に入社した。

ここで、別のインタビューを少し引用しよう。

“岩田
『ニンテンドウオールスター!大乱闘スマッシュブラザーズ』
なんですが、そのプロトタイプは、
桜井くんと私がふたりでつくったんですよね。

企画と仕様、デザイン、モデリング、モーション、
すべて桜井くんがやって、
プログラムは私ひとりという、
ある意味、究極の手作り作品で。”

“桜井
ファミコン時代のゲームみたいな体制で(笑)。
サウンドにもうひとりいましたけど。”

“岩田
当時は、いろんなソフトを手がける一方で、
本当に自分たちがつくりたいもの、
アウトプットというのを模索している時期で。
そんなときに、桜井くんが
なにかおもしろいものを考えているというので、
「それはさっさとつくって動かしたほうがいい」
ということで、
「オレがプログラム書くから、企画、書きな」
と桜井くんをうながして。”

これが桜井さんと岩田社長を繋ぐ文脈だ。いまや世界で最も売れたfighting gameとなったスマブラは、このふたり(とサウンド1人)によって作られたのだ。

と、書くと感動的で泣いてしまいそうになるのだけれど、『誠実の怪人』インタビューでは桜井としてはいつもの開発と変わらない感覚だったと言われている。

さて、今引用したインタビューはこれだ。
社長が訊く『スマッシュブラザーズX』

このインタビュー、vol.1の冒頭に次のようなことが書かれている。

“ちなみに、今回の「社長が訊く」の構成は、
初代スマブラの早くからの理解者のひとりでもある
ほぼ日刊イトイ新聞の永田さんにお願いしました。
永田さんにはWii発売前の「社長が訊く」以来、
久しぶりにお手伝いいただくことになりましたが、
みなさんに、スマブラの魅力をお伝えするために
最適の方にお願いできたのではないかと思います。”

ここで【ほぼ日の永田さん】が登場する。しかも、“スマブラの魅力をお伝えするために最適の方”として。これはどういうことか。

そのためにはまず、初代スマブラが発売前にあまり評価されていなかったという話をするべきだろう。

別のインタビューを引用する。

“岩田
もちろん、すぐに「スマブラ」のおもしろみを
理解してくれた人もいるのだけど、
逆にものすごくネガティブに
このソフトを評価してしまったひともいてね。
まあ、こういうひとも、実際に遊んでからは
いい方に印象が変わっていったんだけど、
理解される前はけっこう辛いものがありましたね。
桜井も、発売の前はかなりナーバスになりました。
ネズアナに行って、糸井さんに愚痴聞いてもらったり
しましたっけ(笑)。”

https://www.1101.com/nintendo/nin4/nin4-1.htm

https://www.1101.com/nintendo/nin4/

ファミ通のクロスレビューでは 8/8/8/7 の31点、シルバー殿堂入りだったそうだ(要出典)。40点満点のクロスレビューとして、決して低くはないけれど、のちに一大タイトルとなるスマブラとしては高くもないと言えるだろう。

しかし、作った人間は知っている。スマブラは名作だ。そこで、なんとかその魅力を伝えなくてはいけない。そこで岩田社長が選んだ方法のひとつが、ファミ通の1コーナー『風のように永田の ゲームの話をしよう』に取材を依頼することだった。

“永田
ほぼ日に掲載した「岩田さんの本をつくる」という記事にも書きましたけど、発売当初過小評価されていた『スマブラ』に関してつくり手として伝えたいことがあるということで、岩田さんのほうからあのページに出たいと連絡してくださったんです。あの連載では、いろんなクリエイターの方に取材しましたけど、自分から「出たい」と言ってくださったのは、岩田さんだけだったと思います。”

永田。そう、当時ファミ通に在籍していた【ほぼ日の永田さん】に取材を依頼したのだ。

さらに引用する
“――そもそも、そのきっかけっていうのは、週刊ファミ通の1コーナーで『スマブラ』を紹介する記事を永田さんが書かれたことですかね。

永田
当時のファミ通では速報とクロスレビューとインプレッションでしか、新しいソフトをとらえられなかったんだけど、“紹介記事とクロレビのあいだ”のような意味合いで応援するコーナーを作ろうっていうことで、巻末に新しいコーナーができたんです。その“今週の1本”ってコーナーで『スマブラ』を僕が書いた。それを「やっと話の通じる記事が出た」みたいな感じで岩田さんが読んでくれたんだと思います。”

https://www.famitsu.com/news/201908/09180664.html

岩田社長が永田さんを“初代スマブラの早くからの理解者のひとり”と言っているのはそのためだろう。

ちなみに、岩田社長と永田さんの出会いはここではない。その前段階として『MOTHER3』の開発インタビューに糸井重里の相棒として岩田社長が同行していた、というのが初対面だ。(このニンテンドウ64版『MOTHER3』は開発を頓挫し、発売中止になった)

その後、永田さんは糸井重里が主催する『ほぼ日刊イトイ新聞』に2003年3月に移籍することになる。

ちなみに2003年というと桜井政博がファミ通紙面において連載コラム『ゲームについて思うこと』を連載し始めたタイミングだ。こんなツイートがあった。

https://twitter.com/porcodesu/status/1221633878089093121?s=21

“第一回 拝読しました。

同じ職場で働かれたからこそ語れる岩田さんのお人柄、じーんときます。

また、桜井さんと永田さんが対談しているのが感慨深いです❗”

ファミ通にて、同じページに企画をもち、(ページの)「上の人」「下の人」というやりとりで楽しませてもらったこと、思い出しますw”

あとはほぼ日刊イトイ新聞と岩田社長の関係もあるのだが、それは『岩田さん』を読んでみて欲しい。

まとめると“元ファミ通で現ほぼ日の、スマブラ 初期の理解者である永田さんが、岩田社長のもとふたりでスマブラを作った桜井さんにインタビューし、ほぼ日と古巣ファミ通の両方に掲載されている”となる。

そう考えると、なんとなくエモくない?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?