ハロウィンにさよならを

[リンク先で内容が分岐する、ささやかなノベルゲームです。結末は、あっけないものも含めて4つ。楽しんでください」

大切な物は大切な人は
目を離さないで 手を離さないで
今日はハロウィンだから

うっかりしたら なくなっちゃうよ

「おかしいでしょ絶対!」
気勢を上げる私を優が眺めている。その手はテーブルの中央にある菓子盆に置かれた、季節感のないおかきの山に伸びている。
「ハロウィンなんて、お盆みたいなもんじゃないか!なんでこんなコスプレしてはしゃぐイベントになってるのさ!」
今日はハロウィン。週末で休日であることも重なって、通りは即席のお化けであふれかえっている。いや、それだけならまだいいけど、ナースやらミニスカポリスやらが紛れているのはどういう了見だ。
「私はいいと思うけどねぇ。これだけ浸透すれば、本物が紛れ込んでも気づかれないだろうし」
そう言って優はおかきをもう一粒噛んだ。
「本物て……第一、ハロウィンに仮装すること自体おかしくない?この世に戻ってきた幽霊から、同類のふりして魂を取られないように身を守るってナンセンスじゃん」
「そういうルールなんだって。死んでる人は死んでる人と一緒には帰れないんだよ。一緒に行くにはどちらかが生きてないと。そういう、おかしなルールのお菓子なイベントなの」
優はそういうとスカートからおかきのかすを払って立ち上がった。
かぼちゃのクラウンと三角帽子、水色に透き通る髪で過剰装飾気味に彩られた頭は、どこかアイスクリームを思わせる。夜色の、ミニ丈のドレスと合わせてハロウィンの女王といったところだろうか。とても良く似合っていた。優はこういう格好がよく似合う可愛らしい、女の子らしい女の子だった。玲、つまり私が男勝りというか、少々がさつなのと対照的だ。私は優のそういう部分にいつも憧れていた。同じ産婦人科で数日違いで生まれてから、私たちふたりはいつも一緒だった。ずっと一緒に生きていたから、死ぬときも一緒だと思っていた。
「それで?うだうだ言ってるけど、玲は行くの?行かないの?」
私はため息をつく。優は数年前から、夏までずっと入院していたので、今日は本当に久しぶりのハロウィンだ。少しくらいわがままに付き合ってもいいだろう。いや、そうでなくても私はきっと一緒に行ったんだろうな。
「わかった。でも私はトリックオアトリートはしないからね」
ロング丈のワンピース、色はブラウン。この服装をハロウィンの仮装と言い張るのには無理があると思うから。
「うん!じゃあ玲は荷物持ちね。」
そう言って優はかぼちゃのカゴを私の手に押しつけた。それから、跳ねるように玄関を飛び出していく。
「あ、ちょっと待ってよ」
追いかけた私の足が何かに引っかかり、顔から転んでしまった。
「ウヲォッ!?」
私の足を引っかけたひも状の何かはそのまま私の足に巻きつき、足を海老反りに持ち上げた。
「ッ痛!痛い痛い痛い、パンツ見える止めろエロガキ!」
一瞬ひるんだ隙に振り払い、立ち上がる。それから足に巻きついていた包帯をはずした。包帯は片側が玄関のドアにくくりつけられ、もう片方が犯人の手にあったようだ。
「キノ、なんのつもり?」
両腕を組み、犯人の正面に仁王立ちになる。犯人、木乃は少したじろいだが、生意気にもこちらをにらみ返した。小学校高学年にしては肝が座っているというか、むしろ相応の生意気さだろうか。季節はずれの半そで半ズボンから見える手足には包帯がぐるぐる巻きになっている。大怪我をしたのかと反射的に心配しかけたけれど、どうせ今日はハロウィンだ。
「ハロウィンだから。トリックオアトリート」
「それはいたずらする前に言え」
「言ってもお菓子なんてくれなかっただろ」
「おう、お前に食わせるお菓子はねえ」
「だからいたずらだ!お前もミイラにしてやる!!」
そういうと木乃は問答無用とばかりに両手で包帯を持って襲いかかってきた。その包帯がウエスト周りをひと巻きしたところで、抱き抱えるように木乃をおさえつけた。
「よしよし、いい子いい子。ママの温もりが恋しくなっちゃったのかな?」
猫なで声であやしながら、木乃の頭を優しくなでる。木乃はあまりの子供扱いに激しく身じろぎして私の腕から抜け、3mくらい飛び退いた。
「バーカ、バーカ!覚えてろ!」
木乃はそう叫ぶと脱兎のごとく逃げ出した。
「いや、捨て台詞がクソ雑魚かよ」
「顔、真っ赤にして逃げていったね」
先に玄関を出て一部始終を見ていた優が言った
「玲、ずいぶん懐かれてるんだねぇ」
「懐かれてるというか、なめられてるというか」
腰に残った包帯を外しながら私は返事をした。とりあえず、包帯はカボチャのかごに入れておく。
「さて、邪魔が入ったけど行こうか。優は、どこに行きたい?」
玄関にカボチャ提灯が飾られているのが、トリックオアトリートをしてもいい家の目印だ。見たところ、街全体の3割程度の家に置かれている。
「えっと、まずは……」

そう言うと優は、手あたり次第とばかりに道行く人に声をかけた。

優には、目当ての場所があるようだった


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?