20230719

 雲の多い天気で少し気温も下がったが、三十度は優に超えている。小川洋子の『ホテル・アイリス』(幻冬舎文庫)を読み終えた。亡くなった父に代わり母が経営する「ホテル・アイリス」で受付や宿泊客の送り迎えなど手伝いをしながら暮らす娘が語り手。冒頭からホテルの一室で連れ込んだホテトル嬢と揉め事を起こす初老の翻訳家の男に、亡くなった父を重ねて心惹かれる。始まりから救いのない展開になることが予見されるところ、城壁のある観光地と連絡船で行き来できる翻訳家の男が暮らすF島という閉じられた舞台、底意地の悪い母と、盗み癖のある手伝いのおばさん、舌を病気で失い話すことのできない翻訳家の甥、そして語り手の娘という数少ない登場人物と小川の持つ世界観は相変わらずながら、縛りプレイなどのSM描写を含むエロティシズムに挑戦した意欲作。とは言え、やはり小川は身体をまるで部位ごとに分解可能なモノのように捉えている感がしてエロティックな気分は特に高まるどころか、絶えず流れる死の欲動の方を強く感じた。何を書いても小川作品になるというのは作家として強いと、改めて思った。

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