20240520

 文フリ明けで、すっかり気が抜けて何もしないまま一日が終わってしまった。冬乃くじ「火星の音」を読んだ。「IMAGINARC」というピアノ二台の演奏会の全国公演で配布されるパンフレットに掲載される小説の一篇。サクという人物の語りで、高校の同級生だった桜音とSNS上で〝再会〟し、メッセージのやり取りと共に回想が挟まれるという現代的な構造。
 短い掌編という趣ながら、コンパクトに二人の関係性を読者に想起させるエモーショナルな作品で、中でも桜音のある告白を受けてサクと彼のSNSのメッセージのやり取りが行われるシーンは圧巻だった。二人の語りが、まるでピアノの連弾のように合わさって一つの語りのように表現される。言語で音楽的な表現というのはかなり困難なものだが、言語にしかできない表現方法で極めて音楽的な魅力を思わせるものだった。

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