20240415

 コーマック・マッカーシー『チャイルド・オブ・ゴッド』(黒川敏行訳、早川書房)を読んだ。一九六〇年代と思われるテネシー州の山中、貧困から家と土地を競売にかけられ、住処を失った天涯孤独の男、レスター・バラード。自分の家を取り戻そうと近辺の掘っ立て小屋に住み着きながら草陰からライフルを構えてその機会を窺う。やがて殺人と死姦の禁忌に溺れていく彼を三人称視点で淡々と描く。
 バラードの行動を中心に、保安官や町の人々とのごく短い挨拶程度の会話以外は心象描写も一切描かれずに、殺人や死姦の様子さえも淡々と描写されているにもかかわらず、どこかユーモアを感じる。昨年亡くなってしまって、もう彼の新しい作品が読めなくなったという事実が改めて悔やまれる。

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