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雨樋(とい)いろいろ

雨樋は何のために設置されているかご存知でしょうか?雨水を排水するためでしょと言えばその通りですが、玄関や正面の目立つ場所にスーッと入ってくるので、その設置には大変を気を使います。極論、本当に必要なのでしょうか?一旦機能的に分解して考えてみましょう。大きく軒の先端に設置される「軒樋」と、そこから地面の排水溝に繋げるための「竪樋」に分類できます。機能(役割)を抑えた上で意匠を考えるという原則に基づいて順番に見ていきましょう。

結論から入りますが、「軒樋」には、

①屋根に降った雨水の集水

②屋根面からの雨水落下の防止

という機能があります。

①の屋根雨水の集水機能について、逆説的に考えてみるとわかりやすいかもしれませんが、例えばそれがない場合、屋根からの雨水が地面に水溜まりや水みちを作ってしまい、外構をぐちゃぐちゃにしてしまったり、人や車の通行に大きく支障してしまうことがありますので、その様な悪さをする前に屋根面で食い止めようという意図です。屋根からの落水により、特に都市部ではその飛び散りが隣家や通行人にかかってしまったり、例えば集中豪雨などの際には集水がうまく機能せず、浸水してしまうなども考えられます。先ほどから屋根面からの水が掛かることを気にしていますが、通常屋根やフラットな面には大気中の排ガスやほこりが堆積していますので、そこを水が通過してくると想像できる様にほこりなどと一緒に落ちてくる為、かかった部分が汚れてしまうことを気にしています。

②屋根面からの雨水落下の防止については、主に人が通行する入り口部分の軒の扱いのことです。機能的には人が通行する部分に滝のような屋根面からの雨が降ってこないようにすれば良いので、対応にはいろいろ選択肢があります。単純にその部分にのみ軒樋を設置する事でも良いし、その先端部分のみに立ち上がりを作るだけでも防ぐことができます(鉄板のみの極限まで薄い庇などでこの方法を見かけたりします)。また、大げさにはなりますが、屋根形状自体を変形させて流れをコントロールすることも可能ですよね。(下写真参照。)そのように選択肢は広いのです。

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「軒樋」の機能や種類がわかったところで、今度は軒樋の意匠的なお話ですが、軒先は屋根の端部であるため、その印象に大きく影響します。屋根のデザインとして薄く見せたい時や、反対に厚みや多層構成を強調したりしたい時などはその意図が表現できる部分でもあるので、設計者としては邪魔になることがあります。そういう際には「内樋」と呼ばれる軒の先端でなく屋根面内に計画される樋もあります。やはりデメリットもあり、樋内の詰まりや想定雨量を超えた際の対応がより難しくもなるため、思案のしどころです。F .L .ライトの水平に延びる屋根端部の扱いは簡易な様でいて、実はその辺り綺麗に処理されている様に思いましたね。下写真の軒(黒色の部分)の上面には浅い軒樋が隠れており、写真右端に少しだけ竪管が垂れているところから、水が落下します。日本の伝統建築ではその地域素材である竹を使用することで、雰囲気をさらに演出していますね。

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さて続いては「竪樋」ですが、これは軒樋と地面の枡とを繋ぐ役目を担っている縦にまっすぐ伸びているアレです。機能を満たす手段としてはこれも選択肢が広いのですが、大きくは

①竪管の様なクローズ型

②竪管などがなく、軒樋などから直接地面や受台に向って放流する放流型

③開放されている開放型

と3種に区別されるかとか思います。(選択肢が広いのは、これらの組み合わせでどのような形にもできるためです。)

①クローズ型は水の跳ね返りなどが気になる場合や確実性が求められる場合に採用されます。公共施設では地面に設置されている集水桝の中まで竪樋を入れる様に設置したりする事でより確実な排水を狙います。住宅などでは、ほぼこの形式が採用されていますが、やはり集水という機能面の確実性が高いので採用されていると思われます。既製品も種類が多く意匠的にも配慮されたものもあります。デメリットとしては負担できる雨量に限界があることです。限界とはつまり管の中で逆流を起こすということです。設計時には日本の過去データから時間雨量最大値に安全率などを掛けて、想定雨量を算出し、そこから必要竪管径と本数を求めていますが、昨今の瞬間最大値はこれを大きく上回ってくることがありますので、想定以上の雨をどの様に逃がすかは計画されておく必要がありますが、対応できている建物はどこまであるのでしょうか。イメージを掴むためにザクッとですが、竪管の途中にクランクがある場合、そこで流量は半減します。つまりクランク部で詰まったと想定してその上流を眺めてみて、水が次に流れ込む先を見つけるんですね。それが外部であれば、問題ないですが、室内や軒裏などに流れ込む様であれば、スコールなどの際は、、、

②放流型で代表的なものは西洋ではガーゴイル、日本ではお寺などで採用されている形式です。ガーゴイルはヨーロッパの教会建築の屋根部分に設置されている魔除けなどのことで、宗教的な理由から悪魔などの外観をしていますが、建築的機能は吐水口です。そもそも西洋建築の主に教会の外壁はレンガやコンクリートブロックにモルタル仕上げといった素材でできていることが多く、それらは素材自体も吸水性が高いため(つまり長期間、雨がかかったらそこから漏水してしまうため)、極力外壁から雨を遠避けるために吐水口が設置されています。竪樋で繋げるにも高さがあるし、本数も多くなってしまうので、意匠的な配慮からもガーゴイルが選択されているかと思います。下写真の壁面から複数飛び出している動物の顔の様な外観をしているモノがガーゴイル。

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日本ではお寺の本堂の正面に左右対称に大きな甕(かめ)の様なものを竪樋下部に設置して(天水受けと言います。)、その上部から雨を落とす様な工夫をしています。因みに、天水受を排水枡として計画することもあれば、雨水貯留槽として計画することもあります。あと分類が難しいですが、「鎖樋」と呼ばれるリングや花びら形状をしたものが縦に連なっている竪樋もあります。それ自体に雨が伝って落ちてくる様に工夫されています。これは意匠的にもいろいろな製品が出ていたり、現場製作したりできるもので、マンションの出入り口などでもよく見かけたりします。流量の制限がない一方、放流先の受けをしっかりと径かうしておく必要があります。下写真の上側から飛び出しているものがそれです。

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③開放型は竪樋の正面側半分がないというイメージを持ってもらうと良いかと思いますが、要は建築外壁の一部を防水して、雨水が流れるルートを建築工事で建物と一体で作る方法です。これは流量の制限がなく、壁面を伝うので、薄いの飛び散りもそれほど気にならないというメリットがありますが、デメリットはコストとその樋部分の漏水リスクへの対応が必要なことと、解放面が汚れるので、その見せ方に注意が必要です。実際の事例も見たことがありますが、意匠的に屋根と外壁を一体的に計画するため、特徴的な意匠を作ることもできます。雨の日が楽しそうな仕掛けにもなると思いました。トップ写真がこれに当たります。

さてそれぞれの役割や種類をザクっと見てきましたが、これらはつまり雨の通り道をどの様に計画するかということです。このテーマは建築のディテールの根本的な思想にも関わりますし、雨の降りかたというその地方独特の気候にも影響しますので、さらに広く深い世界があります。そのため、今回は樋の機能面に限定しましたが、つまりは屋根に降った雨がどの様なみちを通って流れていくか(主に軒樋の設置方法)、またどの様な水の表情をそこで見せることができるか(主に竪樋の計画方法)、その辺りが設計者の腕の見せ所でもあるし、鑑賞の際に気にしてみたいところです。これが最初の疑問への回答でもあります。機能上、雨水を完全にクローズにする事例が多いことが実情ですが、やはり水は落下する際の表情が特徴的ですので、そこに設計側も注意を払うし、見る側もそのポイントに注目することで、楽しさが倍増すると思います。もし上記②③の様な開放系の樋を見つけたら、その構造上必然的に水の流れが見えますので、雨の日に行ってみたり、雨の流れを想像してみてください。同じ建物でも晴れの日と雨の日で見せる表情が変わるとすれば、雨の日も楽しみになりませんか???

#建築 #樋 #とい #雨 #モノ





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