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コーネリアスとYMOを巡る10曲

【追記】本記事は、高橋幸宏、坂本龍一両氏の存命中に公開したものです。両氏のご冥福をお祈りいたします。

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 コーネリアスの4thアルバム『Point』がリリースされた2001年10月、小山田圭吾は細野晴臣のラジオ番組にゲスト出演した。翌2002年10月にも、高橋幸宏・細野晴臣のエレクトロニカユニット「スケッチショウ」がホストを務めるラジオ番組にゲスト出演した。
 これがきっかけとなり、小山田とYMOメンバー(本記事では細野晴臣、高橋幸宏、坂本龍一の三氏を指す)の音楽的交流が始まった。
 同年12月、スケッチショウのライブサポートメンバー参加に始まり(本ライブには坂本龍一もゲスト出演)、YMOのライブサポート、YMOメンバー各氏のレコーディング作品への参画や共作、そして2014年の「高橋幸宏&METAFIVE」結成(高橋幸宏、小山田圭吾、テイ・トウワ、砂原良徳、ゴンドウトモヒコ、LEO今井からなるユニット。2015年にMETAFIVEに改称)。このように、小山田とYMOメンバーはより一体的な活動にシフトしてきた。
 既に上記のラジオゲスト出演から20年以上経過しているが、2022年も高橋幸宏音楽活動50周年ライブへの出演、坂本龍一70歳トリビュートアルバムへの楽曲提供など、交流は継続している。『Point』以降のコーネリアスを語るうえでYMOメンバーとの関わりは不可避な要素となっている。
 本記事では「コーネリアスとYMOを巡る10曲」と題して、筆者の単なる好みに基づいて、小山田が(広義に)関与した作品からYMO関係1曲、細野関係3曲、高橋関係3曲、坂本関係3曲の計10曲を選び、紹介したい。

YMOとコーネリアス 〜YMOなくしてコーネリアスなし?〜

 曲紹介に入る前に、YMOの「散開」から上記ラジオ出演までの流れを年表的に記しておく。

1983  YMO「散開」
1984  細野晴臣、テイチクと業務提携、レーベル「ノン・スタンダード」立ち上げ、制作担当プロデューサーとして牧村憲一が同レーベル参画
1985  小西康陽らピチカート・ファイブ、細野晴臣プロデュースで同レーベルからがデビュー
1986  ピチカート・ファイブ、CBS・ソニーへ移籍
1987  ノン・スタンダードレーベル、実質機能停止
1989  小山田圭吾らフリッパーズ・ギター、牧村憲一プロデュースでポリスターからデビュー
1990  ピチカート・ファイブ、日本コロンビアへ移籍
1991  フリッパーズ・ギター解散
1993  ピチカート・ファイブ、小山田圭吾プロデュースの7thアルバム『Bossa Nova 2001』リリース
1994  コーネリアス、1stアルバム『The First Question Award』をポリスターからリリース / ピチカート・ファイブ、シングル『5×5』を米マタドールから北米リリース
1997 コーネリアス、3rdアルバム『Fantasma』国内リリース /「Fantasmatic World Tour」武道館公演終了後、小西康陽が米マタドールChris Lombardi氏に小山田圭吾を紹介
1998  コーネリアス、『Fantasma』を米マタドールから海外リリース、海外ツアー敢行
2001  コーネリアス、4thアルバム『Point』国内リリース / 小山田圭吾、J-WAVE『細野晴臣 daisyworld』ゲスト出演
2002 小山田圭吾、スケッチショウ(高橋幸宏+細野晴臣)によるNHK-FM『ミュージック・パイロット』ゲスト出演

 こうして見ると、細野晴臣が立ち上げたレーベルから牧村憲一と小西康陽が羽ばたき、牧村は小山田の国内デビュー、小西は海外デビューを実現、海外を経験した小山田は新たな認識を獲得、そうして制作された『Point』を細野が評価し対面を果たす……という流れ、すなわち「細野に始まり細野に終わる」円環が存在することがわかる。
 もちろん、小山田ほどの才能であれば別の誰かの介在によっても世に出たことは間違いないが、過去を振り返る限り少なくとも「細野晴臣なくしてコーネリアスなし」とは言えよう。
 さらに、ノン・スタンダードレーベルの立ち上げ自体、YMOとしての音楽活動を経た細野自身の思いや考え、また当時の細野に対するテイチク幹部の思惑が基盤であったことは間違いなく、「YMOなくしてコーネリアスなし」も言い過ぎではなかろうと思う。
 また、下記発言のように小山田自身が海外リリースが転機であることを認めており、先の流れがなければ、いまの「コーネリアス・サウンド」も存在しなかったのかもしれない。

ー なぜそういう普遍性や抽象性に向かったんですか?

小山田 ひとつは『Fantasma』を出して、聴いてくれる人たちが世界中にいるんだということがわかったから。それまで誰に向けて作っているとかいうつもりもなかったんですけど、普通は日本でしか出さないので、多くは日本の人のことを想定していたと思うんですよ。だけど『Fantasma』のときにいろんな人が聴いてくれていることがわかったので、それまでのサンプリングとかオマージュとか、そういう作り方じゃないもっと独自な作品にしたいなということはすごく思っていました。あとは、言葉だけではないところで伝えられることというか、時代も場所も限定しないで聴かれる音楽みたいなものに興味が移っていった。

『別冊ele-king 続コーネリアスのすべて』(2019年、ele-king編集部)

 前置きが長くなってしまったが、本編(10曲紹介)に入る。

#01 Cue / Cornelius - 『Breezin’』(2006)収録

 「YMOとコーネリアス」と聞いて、真っ先に思い浮かぶのはこの曲ではなかろうか。
 本作は、YMOの1980年のアルバム『BGM』収録曲をコーネリアスがカバーしたもので、コーネリアス5thアルバム『Sensuous』(2006)の先行第2弾シングル『Breezin’』のカップリングとして収録されている。
 原曲は細野・高橋の共同制作。英国のニューウェーブ・バンド「ウルトラ・ヴォックス」から強い影響を受けたと両氏は明言するが、完成時に2人で記念写真を撮ったほど達成感があったという。
 本カバー作はまさに「コーネリアス・サウンド」な隙間と残響を活かした奥行きのある音作り。原曲の高橋に代わる小山田のボーカルも違和感がない。
 高橋不在の中で2022年9月に開催された高橋幸宏50周年ライブ「Love Together 愛こそすべて」ではアンコールに細野晴臣が登場。本カバーバージョンを小山田と共演した。

細野晴臣とコーネリアス

 今日のコーネリアスの成立自体に関わる重要人物中の重要人物、細野晴臣である。小山田に「小山田、YMOを継げ」と発言した事実もあるらしく(動画05:00あたり)、その評価は揺るぎない。2019年リリースの細野晴臣50周年ベスト盤の選者(2名)に小山田が選出されていることもその証左であろう(もう1名は星野源)。


#02 Turn Turn / Cornelius + 坂本龍一 - 『Tribute to Haruomi Hosono』(2007)収録

 高橋・細野によるユニット「スケッチ・ショウ」の楽曲を小山田×坂本龍一がカバー。2007年リリースの細野晴臣トリビュートアルバムに収録されている。
 本作は、コーネリアス・サウンド特有の隙間を活かしたクリアな音作りが清々しい一方、リズムは相当凝っている。坂本龍一のボーカルらしきものは聞こえるが、本作にどう関与しているのか正直なところよくわからない。(後記1)
 とはいえ、高橋・細野の作品を小山田・坂本がカバーしたという意味で、YMOメンバー3名と小山田が一堂に会した記念すべき作品である。(後記2)
 そんなこともあってか、YMOのライブでも本バージョンの「Turn Turn」が披露されている。

後記1:クレジットを確認したところ坂本はコーラス参加のみ。
後記2:2004年坂本ソロアルバム『Chasm』のM1「Undercooled」に、小山田がギター、高橋・細野のスケッチショウがプログラミングで参加していることを確認。少なくとも「Turn Turn」より早い。謹んで訂正する。

#03 Metallic Velocity / Haruomi Hosono + Cornelius - 『EX MACHINA ORIGINAL SOUNDTRACK』(2007)収録

※動画サイト、音楽サブスクに音源なし

 2007年公開のアニメ映画『EX MACHINA』向けに細野晴臣がサウンドトラックを全面監修。本作はその中に収められた細野×小山田の共作であり、小山田にとっては初の映画用サウンドトラック制作となった(はず)。
 クレジットには「作曲:細野晴臣+コーネリアス、編曲:細野晴臣」とある。小山田は編曲に関わっていないようだ。確かに、いつものコーネリアス・サウンドと趣の異なる、サイバーでインダストリアルなテイストに仕上がっている。
 しかし、2007年の本作と、2013年リリースのコーネリアス全編制作によるサウンドトラックアルバム『攻殻機動隊 ARISE O.S.T』とは、醸し出す雰囲気がどこかしら共通しているように感じられる。細野との共作活動から何らかのヒントを掴み取ったのかもしれない。

#04 Cosmic Surfin’ ~ Absolute Ego Dance / Yellow Magic Orchestra - 『NO NUKES 2012』(2015)収録

 これはYMO作品だろうが!とツッコミが入りそうだが、「コズミック・サーフィン」は元々紛れもない細野のソロ作品であることから選出した。
 同曲のオリジナルは、細野、鈴木茂、山下達郎が参加した企画アルバム『PACIFIC』(1978)に収録されたものだ。
 本作は2012年のライブ音源で、小山田はライブサポートメンバーとしてギターを担当。YMOのサポートギタリストといえば、渡辺香津美や大村憲司ら錚々たる伝説的面々が務めてきたが、小山田のギター音は現在のYMOを象徴する音のひとつといえる。
 なお、コズミック・サーフィンに続いて演奏される「アブソリュート・エゴ・ダンス」は、YMOの1stアルバム『Yellow Magic Orchestra』(1978)の収録曲だが、これも細野の手による作品である。


高橋幸宏とコーネリアス

 かつて高橋の誕生日のボーリング大会に小山田が参加したことがあったらしいが、あくまで顔見知り程度の関係だったようだ。
 本記事に何度も出てきている2002年のNHK-FM「ミュージック・パイロット」へのゲスト出演時、小山田は細野・高橋から「コンサートを手伝ってほしい」と番組中で急に言われ、半ばむりやり約束させられてしまったようだが、それが今につながっているのだから何がどう転ぶかわからない。

#05 Emerger(feat. 小山田圭吾) / 高橋幸宏 - 『Page by Page』(2009)収録

 「feat.小山田圭吾」と題された本作。小山田が高橋のレコーディング作品に参加するのは本作が初と思われる。
 一音目からコーネリアスとわかるギターが全面的に使われている。作曲は高橋だが、編曲は高橋+小山田と共同である。楽曲全体に渡って音の定位や響きにこだわったサウンドが構築されており、コーネリアスの作品といっても差し支えのない仕上がりである(言い過ぎか)。

#06 Drip Your Eyes / O/S/T with Valerie Trebeljahr - 『RED DIAMOND: Tribute to Yukihiro Takahashi』(2012)収録

※02:08あたりから本曲「Drip Your Eyes」

 高橋幸宏がサンディのアルバム『イーティング・プレジャー』(1980)に提供した名曲のカバー作である。高橋自身も3rdソロアルバム『ニウロマンティック』(1981)でセルフカバーしている。
 名義のO/S/Tとは小山田圭吾、砂原良徳、テイ・トウワのこと。ボーカルは、ドイツ・ミュンヘンのバンド「Lali Puna」のValerie Trebeljahrが務めている。
 小山田、ティーンエイジャー時代からのYMO愛好家である砂原(カルトキング)とテイ、その3人の音が高橋のメロディと溶け合い、後のMETAFIVEの原型ともいうべき作品になっている。

#07 まつ(うた 高橋幸宏) / Cornelius - 『デザインあ3』(2018)収録

 本作は、小山田が音楽プロデュースを務めたNHK教育テレビ番組「デザインあ」のサウンドトラック第3弾の収録曲である。メインボーカルを高橋が務め、小山田もコーラス的に声を添えている。
 「デザインあ」らしいシンプルで優しいサウンドだ。
 本作のテーマはタイトルの「マツ」(待つ)すなわち「モノの待機状態」と思われるが、「ヒト」に置き換えてもそのまま通じるような歌詞が切なく、高橋の声がいっそう感情を揺さぶる。

坂本龍一とコーネリアス

 小山田とYMOメンバーの交流のきっかけは細野・高橋ながら、レコーディングは坂本が早く、2004年の坂本ソロアルバム『Chasm』にギターやプログラミングで小山田は参加。細野・高橋と比較して、坂本とのコラボでは小山田によるリミックス作が多いことが特徴である。

#08 War&Peace Cornelius Remix / 坂本龍一 - 『Bricolages』(2006)収録

 上記『Chasm』収録曲を小山田がリミックスしたのが本作。
 原曲では比較的オーガニックな音色が使用されているが、本リミックスは5thアルバム『Sensuous』(2006)の頃のコーネリアスらしい、クールなサウンドで構成。そのため、原曲の特徴となっている「人々の問い掛ける声」がいっそう深刻な趣きで伝わってくる。
 このように本作は、坂本が楽曲に込めたであろうメッセージを拡声することに成功している。

#09 二人の果て / 原田知世&小山田圭吾 - 『恋愛小説3-You & Me』(2020)収録

 本作は原田知世によるカバーで、小山田はボーカルで参加。
 原曲は1994年の坂本ソロアルバム『Sweet Revenge』収録曲で、当時同じフォーライフレコードに所属していた今井美樹と坂本がデュエットを披露している。印象的な詞は大貫妙子の作である。
 小山田と原田知世の共演はこれが初と思われるが、そもそも小山田と女性ボーカリストのデュエットは希少。気怠い2人の声を味わっていただきたい。

#10 Thatness and Thereness - Cornelius Remodel / Cornelius - 『A Tribute to Ryuichi Sakamoto - To the Moon and Back 』(2022)収録

 YMO時代にリリースされた坂本の2ndソロアルバム『B-2 UNIT』(1981)。YMOの2ndアルバム『Solid State Surviver』(1979)がメンバーの想像を超えてヒットしてしまったことから、反骨精神溢れる(?)当時の坂本が「YMOを仮想敵」に設定して、ダブやアフロを参照しながら制作したアルバムである。
 その収録曲を小山田がリモデル(リミックス)したのが本作だ。
 原曲のボーカルは坂本だが、リミックスでは小山田のものに置き換わっている。『Mellow Waves』由来の「揺らぎ」のあるサウンドが、原曲の雰囲気を保ったまま、現代的な響きを奏でている。

(以上10曲)

おわりに

 個人的な好みで10曲紹介したがいかがだっただろうか。
 本記事では、METAFIVEからは選曲するまでもないと考え選外としたこと、並びに、YMO自体および細野・高橋・坂本の足跡は私が語るまでもないと考え説明していないこと、これらにつき了承いただきたい。

 こうして振り返ってみて改めて思うのは、「細野・高橋・坂本が小山田の音楽活動の拡がりに多大な影響を与えている」ということだ。
 小山田の「コーネリアス・サウンド」、その発展において、YMOメンバーとの交流を通じて小山田の新たな役割が定義され、新たな音楽性を確立していく……という創造的な営みの影響があったものと推察される。
 本記事を執筆した2022年12月現在、非常に残念なことだが、彼らが以前のように一緒に活動することは困難になってきている。
 しかし、細野、高橋、坂本、そして小山田が同じステージまたはスタジオに集い、再び創造的な時を過ごすことを願う。

以 上

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