コーネリアスの歌モノ10曲
2023年1月1日深夜(実質1月2日)、坂本龍一の代役でJ-WAVE『RADIO SAKAMOTO』に出演した小山田圭吾は、”Thatness and Thereness”(坂本龍一『B-2 ユニット』収録曲)を教授のトリビュートアルバムのリモデル曲(≒リミックス曲)に選んだ経緯を次のように説明した。
教授が「歌ってる曲」を小山田が好むように、小山田(コーネリアス)が「歌ってる曲」すなわち「歌モノ」を好む者もファンを中心に多い。私もその一人だ。
本記事では、私の好きなコーネリアスの歌モノ10曲を時系列で紹介したい。
本人はイヤイヤ?
曲紹介に入る前に、コーネリアスの「歌」に関連する本人評や他人評を確認してみる。
はじめに本人評だが、小山田はフリッパーズ時代からリードボーカルとして活躍してきた一方、本人はボーカルというものに対して非常に消極的だったようだ。
続いて他人評である。
小山田自身は前述のようにボーカルに後向きながら、複数の音楽家から「一定」の評価があるのも事実だ。
さらに、後述のように小山田がボーカリストとして招かれ制作された楽曲も複数あるように、彼のボーカルが認められていることに間違いはない。
私も、小山田の「歌い方」もさることながら、「声」そのものに魅力を感じ、彼独特の味わいの歌モノを愛好してきた。
以下、曲紹介に入る。
#01 Perfect Rainbow / Cornelius - 『The First Question Award』(1994)収録
コーネリアスの1stアルバム収録曲。本アルバムはコーネリアス史上もっとも(わかりやすい意味での)ポップな作品で、一部を除き全編で小山田のボーカルを聞ける今となっては貴重な作品。歌い方はフリッパーズ時代の延長線にある。
“パーフェクト・レインボー”はこのアルバムの中でも特に好きな作品。前述のように小西康陽も太鼓判を押す「〜だろう」も頻出している。
#02 今夜はブギー・バック(smooth rap)[Remixed by 小山田圭吾]/ スチャダラパー -『サイクル・ヒッツ〜リミックス・ベスト・コレクション』(1995)収録
1990年代J-Popの代表曲のひとつ、”今夜はブギー・バック”のスチャダラ版のコーネリアス・リミックスである。
リミックスとはいっても、イントロとアウトロにコーネリアスの2ndアルバム『69/96』(1995)の音素材を足した以外はトラックはそのままで、小沢健二のボーカルパートを小山田圭吾が歌うだけという異色作。パロディ好き、悪戯好きな当時の小山田らしさが溢れている。
本人的には「似せて歌った」(出典:思い出せず…)ようで、確かにブギー・バックの小沢っぽい。
#03 Clash / Cornelius - 『Fantasma』(1997)収録
3rdアルバム『Fantasma』の制作において、2ndまではメロディ優先だったのを方針転換して自分の音域を優先したといい、淡々と歌う「ちょっと大人な歌い方」が確立された。
本楽曲”Clash”は、『Fantasma』の中でもそんな小山田の歌い方を特に堪能できる一作である。その呟くような歌唱法は、どことなくジョアン・ジルベルトを思わせる。
なお、本アルバム以降、小山田のボーカル曲は徐々に減少する。小山田の歌モノアルバム復活は、ファンタズマから20年後の6thアルバム『Mellow Waves』(2017)まで待たねばならない。
#04 Lazy / Cornelius - 『PREGO! 99』(1999)収録
※サブスクに音源なし
トラットリアのコンピレーション・アルバム『PREGO! 99』に収録された本作"Lazy"は、サウンドのフォーマットは"Star Fruits Surf Rider"など『Fantasma』の延長線上にあり、ビーチ・ボーイズばりのコーラスワークも健在だ。
ただ、小山田のボーカルはまさに"Lazy"(怠惰)な気怠さがあり、キーもかなり低めに設定されている。そんなボーカルと、破壊的なドリルンベースの融合が興味深い作品である。
#05 Sleep Warm / Cornelius - 『Sensuous』(2006)収録
2001年の4thアルバム『Point』でコーネリアスはミニマルな音楽性に本格移行し、「歌詞」や「歌い方」もミニマル化し、ボーカルがサウンドの構成要素として扱われる傾向が出てきた。
続く2006年の5thアルバム『Sensuous』はミニマリズムをいっそう追究した作品と私は認識しているが、同アルバムの最終曲に収録された本作”Sleep Warm”はやや趣が異なっている。
本作はフランク・シナトラの同名曲をカバーしたもの。父親(故・三原さと志)が蒐集したレコードを整理しながらシナトラを聴き直したことが本作制作のきっかけだった、とアルバム発表当時語っていたように記憶している。
本作はカバー曲ということもありメロディと歌詞がある。それゆえに小山田もきちんと(?)歌っており、当時としては貴重だ。また、揺れのあるサウンドと温かみのある歌唱は、次作『Mellow Waves』に通じる質感があることにも注目したい。
#06 Passionfruit (Recorded at Spotify Studios NYC) / Cornelius - 『Ripple Waves』(2018)収録
コーネリアスの歌モノ回帰に喜んだファンも多い、2017年の7thアルバム『Mellow Waves』に続き2018年にリリースされた派生アルバム、『Ripple Waves』収録の本作。
カナダ出身のラッパー、ドレイク”Passionfruit”のカバーで、「Spotify Singles」向けにニューヨークのSpotifyスタジオで録音された。演奏はコーネリアスグループである。
現地スタッフに細かく指導してもらうなど英語の発音にこだわって歌ったという。コーネリアスがドレイクの曲をカバーすること自体が驚きだが、歌い方はドレイク本人にかなり似ている。
#07 My World ft. Cornelius / Benny Sings - 『City Melody』(2018)収録
オランダのポップ職人ベニー・シングスが小山田をボーカリストとして招き制作された作品。ベニーはもともとコーネリアスの大ファンだそうで、2人の声も歌い方もどこか似ている。普段よりも呟き加減が際立っているクルーナースタイルの小山田の歌声が心地良い。
#08 どうせんうた(うた 小山田圭吾) / Cornelius - 『デザインあ 2』(2018)収録
NHK Eテレ『デザインあ』向けにコーネリアスが制作。『デザインあ』では、ショコラ、青葉市子、Salyu、やつしまるえつこ、高橋幸宏、LEO今井など数多くのボーカリストが参加しているが、本作では小山田自身がボーカルを担っている。
番組のコンセプトゆえであるが、歌詞はあるく、まがる、とまる、のぼる、おりる、をひたすら繰り返すもので、ミニマルかつ前衛的。ただ、サウンドに合わせて声色を変化させており、小山田の声そのものにじっくり向き合うのに最適な作品である。
#09 サウナ好きすぎ / Cornelius (2019)
テレビ東京のドラマ『サ道』主題歌として制作された本作。作詞は原作マンガの作者タナカカツキが担当、作曲とボーカルを小山田が務めている。
小山田特有の呟くような歌唱はここに来て極まっており、とろけるようなサウンドと相まって、小山田の狙いどおり「サウナの恍惚感」が見事に表現されている。
曲途中の小山田によるナレーションも聴き逃せない。
#10 二人の果て / 原田知世 & 小山田圭吾 - 『恋愛小説3 ~ You & Me』(2020)収録
坂本龍一と今井美樹のデュエット曲を、小山田圭吾と原田知世がカバー。
教授=音楽家、今井美樹=歌手とすれば、本作は原田知世=歌手が、音楽家として小山田を選んだともいえ、本記事冒頭で紹介した「作曲家が歌う歌って感じが、すごくいいなと思って」(小山田圭吾)という感慨を、原田知世も小山田に対して抱いているのかもしれない(妄想)。
本作で小山田はボーカルのみで参加しているが、その声はほとんど「地声」のように聞こえる。ここまでキーの低い楽曲を歌うのは珍しいと思うので注意して聴いてみてほしい。
(以上10曲/45分)
おわりに
小山田自身はボーカルに消極的と紹介した手前、こうして歌モノばかりを選ぶのは気がひける部分がないわけではないが、いかがだっただろうか。
さて、この記事を書いている間に朗報が飛び込んできた。
2月22日に”変わる消える”の12インチアナログがリリースされ、さらにA面には同曲のコーネリアス・ボーカル・バージョン、そしてsalyu×salyu”続きを”のセルフカバーが収録されるという。
原曲ではmei ehara、salyuがそれぞれボーカルを務めていたわけだから、本アナログ盤は、小山田が意識してボーカルに臨んだ作品ということになろう。
楽しみに待ちたい。
以上
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