ストレスや不安を減らす「マインドフルネス」
マインドフルネスとは?
私たちは、普段、目の前のことに取り組んでいるようでいて、実は過去や未来のことを考えて、「心ここにあらず」の状態になっていることが実に多いことがわかっています。特に、過去の失敗を思い出したり、未来の漠然とした不安が頭をよぎったりと、ネガティブな感情が心に浮かんでいることが多いのです。マインドフルネスは、そのような状況を脱却して、「今ここでの経験に、評価や判断を加えることなく能動的な注意を向けること」を指します。
新しいビジネスを立ち上げようとしている起業家にとっても、マインドフルネスはとても大事です。起業の過程は、トライ&エラーの繰り返しでもあります(少なくとも、私はそうでした)ので、メンタルが弱くなると、過去の失敗を思い出したり(例:あのアプリの不具合が起きなければ、もっと多くのユーザーを獲得できていたのに)、未来への不安が頭をよぎったり(例:今年の売上は大丈夫だろうか、キャッシュフローは回るかなぁ)と、ネガティブな感情になりかけることは多々あります。しかし、前を向いて、目の前のことを一つ一つこなしていかないことには、何も生まれません。その時に、「今ここ」に集中する、マインドフルネスの考え方は大いに助けになります。
「マインドフルネス・ストレス低減法」(MBSR)とは?
「マインドフルネス・ストレス低減法」(MBSR:Mindfulness Based Stress Reduction program)は、マサチューセッツ大学医学部のジョン・カバットジン博士が、1979年にマサチューセッツ大学メディカル・センターに創始したもので、もともとは、疼痛に悩む患者の身体の痛みによるストレスを緩和することを目的としていました。取り除くことが難しい痛みに対し、それとうまく付き合っていくことを学ぶことで、人生をより豊かにしていくことをサポートしていたのです。
現在は、実際の体験やグループ学習を重視した8週間のプログラムになっており、毎週1回、2-3時間のクラスに参加するほか、毎日45分間のマインドフルネス瞑想を日常生活で実践します。このプログラムによって、様々な身体的ストレスや精神的ストレスを低減する効果が研究で明らかになっています。なお、マインドフルネス・ストレス低減法では、テーラワーダ仏教の伝統的な瞑想法が基本的に取り入れられていますが、誰でも気兼ねなく参加できるように、宗教性は注意深く排除されています。
米ウィスコンシン大学のリチャード・デイビッドソン博士は、プログラム開発者のジョン・カバットジン博士らと共に、健康なオフィスワーカーを対象に、8週間の「マインドフルネス・ストレス低減法」を実施した群と、しなかった群(統制群)を比較する調査を行いました。結果は、実施群では、インフルエンザワクチンに対する抗体価が有意に増加しました。このことから、マインドフルネス瞑想の8週間のプログラムが、脳と免疫機能に効果をもたらすことが示されました。また、実施群では、ポジティブな感情と関連する脳の左側前部の活動が有意に増加することもわかりました。
短期間のマインドフルネスでも効果あり
マインドフルネスがストレスや不安の低減に有効だとしても、忙しいビジネスパーソンにとって、そこにたくさん時間を費やすことは現実的でないと思います。しかし、短期間、短時間のマインドフルネスの実践でも、十分に効果があることがいくつかの研究で明らかになっています。そのうちの一つをご紹介します。
米ウェイクフォレスト大学医学部神経生物学科のファデル・ツァイダン博士らは、1日20分、4日間、マインドフルネス・トレーニングを受けるグループと、同じ期間・時間、本の朗読を聞くグループ(統制群)を比較しました。結果は、マインドフルネス・トレーニングを受けたグループは、本の朗読を聞いたグループよりも、不安感、疲労感が大幅に低下しました。それだけでなく、視覚による空間処理能力や、作業記憶(ワーキングメモリ)、脳の実行機能も大幅に改善されました。つまり、仕事の合間などに、マインドフルネスを取り入れることで、注意能力が回復し、その後の仕事の効率アップが期待できそうです。さらに短い時間のマインドフルネスでも効果があるという研究もありますので、それについては、また別の記事で書きたいと思います。