見出し画像

セイバリング(味わう)能力を高めて、今を大切にする

起業家と休暇

 起業をしてから、サラリーマン時代との違いを強く感じる場面のひとつが、休暇の過ごし方です。休めない、長い休みが取りづらいなど、時間的制約もさることながら、精神面での違いの方が大きいと感じます。どういうことかというと、起業してからは、休暇中でも、あらゆることを仕事と関連づけて考えてしまいがちになるということです。

 しかし、これはポジティブ心理学でいうセイバリング(Savoring:味わうこと) という概念からは、とても良くないことです。

 「味わうこと(セイバリング)」という概念は、米ロヨラ大学の社会心理学者フレッド・ブライアント博士によって提唱されたもので、学術的には、ポジティブな出来事に対する自分の感情をしっかり意識し、それに対して心を込めて関与することとされます。つまり、ポジティブな出来事をしっかりと噛みしめるということですね。(詳しくは、「今この瞬間を、味わう」をご覧ください)

 休暇中にセイバリングできていたかどうかで、休暇が主観的健康(喜びや幸福感)やウェルビーイング、そして、睡眠に与える効果が違ってくることを明らかにした研究があるので、次にご紹介します。

休暇の効果を左右するセイバリング

 欧米では、2週間以上の長期休暇を取ることが一般的ですが、休暇の長さや休暇の過ごし方が、主観的健康(喜びや幸福感)やウェルビーイングにどう影響するか、オランダのフローニンゲン大学の研究者が調査しました。  
 対象は54人のオランダ人(平均42歳)で、参加者は、休暇の前、休暇中、休暇の後に、複数の質問(過ごし方、喜び、リラックス、味わい(セイバリング)、睡眠の状況など)に回答しました。参加者の平均休暇日数は23日でした。

 分析の結果、休暇8日目で、主観的健康やウェルビーイング(幸福感)の指標がピークに達するものの、仕事に復帰した初日から、これらの指標は休暇前の状態に戻ってしまいました。そして、この現象は、休暇期間の長さには関係がありませんでした。

 しかし、さらに分析すると、興味深いことに、休暇中にその瞬間の経験を味わうこと(セイバリング)ができた人は、主観的健康やウェルビーイングの指標が、仕事復帰後、4週間経っても良い状態で維持され、睡眠時間や睡眠の質に対する良い効果も、2週間維持されたのです。つまり、同じ日数の休暇をとっていても、例えば、休暇中の旅行先で見たものや、一緒に行った人、新たに出会った人との瞬間の経験を大事に味わうことで、休暇の効果を格段に高めることができるということですね。これは自分への戒めでもありますが、休暇中に仕事のことを考えるなど、全くもって、もったいないということです。

セイバリング能力を高める4つの方法

では、セイバリング能力を高めるには、どうしたら良いのでしょうか。ベルギーのリエージュ大学のジョルディ・クオイドバッハ博士は、セイバリング能力を高める方法として、次の4つを挙げています。

ポジティブな表情を作って相手にポジティブな気持ちを伝える

現在の瞬間に注意を向けて感覚を研ぎ澄ます

他の人と自分のポジティブな感情を共有する

④ 過去のポジティブな出来事を鮮明に思い出したり、未来のポジティブな出来事に期待する

 順に解説していくと、まず①ですが、例えば、休暇中の旅先で感動したときに、それを表に出さず、抑制してしまうとセイバリング能力は低下してしまいます。これはとてももったいないことなので、素直に感動を表に出すことが大事ですね。③もこれに通じるものがあると思います。感動を自分の中だけに閉じ込めず、他の人と共有することでセイバリング能力を高めることができるわけですね。

 次に、②ですが、おすすめはマインドフルネスです。例えば、目に見える一つの対象に意識を向けてマインドフルネスを行うのが良いと思います。有名な例として、「マインドフルネス・イーティング」(食べる瞑想)というのがあります。例えば、レーズンを対象にした実験が有名ですが(レーズンは、人の好みが中立のため実験に適している)、食べる前にレーズンの色や形を眺め、次にその香りをゆっくり堪能してから、口の中にレーズンを入れ、レーズンと触れた舌や粘膜の感触を感じる、といった具合です。これによって、現在の瞬間に否が応でも意識が向きますね。
 さらに、時間のはかなさ(今この瞬間はあっという間に過ぎてしまう)を意識すると、目の前のことを味わえるようになります。

 最後に④ですが、休暇で訪れた旅先での楽しい写真をたまに見返すのは効果的でしょう。BGM付きのスライドショーで眺めれば、楽しかった記憶が蘇ってくるので、セイバリング能力を高めるにはうってつけです。

 このようにちょっとした心がけや行動で、セイバリング能力は高めることができるので、ぜひ、実践してみてください。

参考文献:
・De Bloom, J., Geurts, S. A., & Kompier, M. A. (2013). Vacation (after-) effects on employee health and well-being, and the role of vacation activities, experiences and sleep. Journal of Happiness Studies, 14(2), 613-633.
・Quoidbach, J., Berry, E. V., Hansenne, M., & Mikolajczak, M. (2010). Positive emotion regulation and well-being: Comparing the impact of eight savoring and dampening strategies. Personality and individual differences, 49(5), 368-373.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?