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カフェでの仕事は「クリエイティビティ」を高める!?

カフェでの仕事に向くのは・・・?

 
前回、JR東日本の駅構内に設置されている電話ボックス型の作業スペース「駅ナカオフィス」と、一般の「カフェ」を対象に、どちらが作業時の集中力が高まるか、ウェアラブルセンサで測定した実験をご紹介しました。(詳しくは、「働く場所を変えて「集中力」を高める」をご覧ください。)その結果、下図の通り、「駅ナカオフィス」の方が「カフェ」よりも集中力が高まるという結果になりました。

ウェアラブルセンサで測定した心拍変動等のデータから算定した集中度の比較 (
出典:WINフロンティア株式会社)

このように集中力という点ではマイナスの結果になった「カフェ」ですが、仕事は何も集中力を要するものばかりではありません。集中力を要するのは、1つの正解を見つけるようなタスクである場合が多く、この時に必要なのは収束的思考ですが、頭を柔らかくして発想を広げ、アイデアをたくさん出す時に必要な拡散的思考も、仕事においてはとても重要です。そこで今回は、「カフェ」での仕事は、この拡散的思考を要するタスクには向いているのではないかという点にフォーカスを当てたいと思います。

ここで、上述の実験に関して、もう1つ別のデータを掲載します。これはLLE(最大リアプノフ指数:Largest Lyapunov Exponent)という指標で、簡単に言うと、「ココロの柔軟性」を表します。

脈波センサで測定した最大リアプノフ指数(LLE)の比較
(出典:WINフロンティア株式会社)

これは、関西学院大学名誉教授の雄山真弓先生(故人)が生涯を賭して開発された指標を当社(WINフロンティア)が実用化したものです。「ココロの柔軟性」が高いと外部環境に対して気持ちがオープンな状態であり、低いと外部環境に対して気持ちがクローズドな状態であることがわかります。集中している時は、「駅ナカオフィス」のデータのようにこの指標が低くなるのですが、「カフェ」では比較的高い値をキープしています。


クリエイティビティの鍵を握る「ココロの柔軟性」とは?

 
ここで、「ココロの柔軟性」という指標(学術的には「精神的免疫力」といいます)について、もう少し説明したいと思います。先述の通り、「ココロの柔軟性」が高いと外部環境に対して気持ちがオープンな状態であり、低いと外部環境に対して気持ちがクローズドな状態であることがわかるのですが、そのメカニズムは以下の通りです(やや専門的になるので、ご参考まで)。

指先の脈波を測定することによって,心拍変動の情報だけでなく中枢神経系や身体全体の情報を波として測定することができる。これをカオス解析して求められる時系列の最大リアプノフ指数(Largest Lyapunov Exponent:LLE)が,精神的強さ,例えば,コミュニケーションを積極的に出来るか,生きる意欲があるか,外部環境の劇的変化に耐えられる精神的強さがあるか等の、精神的免疫力と関係することが実証されてきた。人間が健康を保つためには肉体的免疫力が重要であるといわれるが,精神的免疫力も人間にとって非常に重要である。精神的免疫力は自己を守り成長すること,そして,対人関係を構築するうえで大変重要な指標であり,個人の精神的免疫力はさまざまな状態でダイナミックに変化させながら自分をコントロールしているといえる。

(出典:今西明, & 雄山真弓. (2008). 生理心理学における新たな解析手法の提案: 生体信号のカオス解析.人文論究, 58(3), 23-42.)

私たちの会社では、脈波センサを活用し、約1分間の測定で自律神経活動と「ココロの柔軟性」(精神的免疫力)の2指標から、ココロのバランスをチェックする「Lifescore Quick」というシステムを開発・提供していますが、今回の実験における「カフェ」での仕事中の状態の結果画面(イメージ)を以下に掲載します。

ココロのバランスチェック「Lifescore Quick」結果画面
(出典:WINフロンティア株式会社)

この画面で、ハートマークが左上を示していますが、これは「リラックス」しているけれど、「ココロの柔軟性」は高い、つまり、気持ちがオープンな状態で、「高揚している」状態と言えます。多くの研究で、「経験に対する開放性」がクリエイティビティを高めるのに有効であることが明らかになっていますので、この結果は、その傾向を示しているともいえます。ちなみに、実験中の「カフェ」での仕事の実際の様子は下記の写真のような感じでした。


この写真を見ると、「集中力」を要する収束的思考のタスクには不向きだが、クリエイティビティを要する拡散的思考のタスクには向いていそうだと思っていただけるのではないでしょうか。

以上をまとめると、普段とは異なる発想や新しいアイデアが必要な時は、ワンポイントで「カフェ」を活用するのは有効だと言えそうです。(もちろん、カフェにも色々な形態があるので、全てに当てはまるわけではありませんが)


注意範囲の広さがクリエイティビティを高める

 
最後に、「カフェ」の話から少し広がりますが、注意範囲を広げる、つまり、少し広い視野に立った方が、クリエイティビティが高まることを示した研究をご紹介します。

ドイツ体育大学ケルンのアレクサンダー・モラル博士らは、人の注意が狭い範囲に向けられているか、広い範囲に向けられているかの違いによって、創造性(クリエイティビティ)に影響があるか、実験を行いました。

実験では、創造性の測定の前に、参加者(57人の大学生)の注意の範囲を広げる、または、狭めるための操作が行われました。具体的には、パソコン画面上に下図のように、多数の小さな文字(H)で構成される1つの大きな文字(F)が表示され、1つのグループは大きい文字だけに注目し、もう1つのグループは小さい文字だけに注目し、それぞれターゲットとなる文字が表示されたらボタンを押すように指示されました。(これを48回繰り返しました)

これによって、大きい文字に注目するように指示されたグループは、注意の範囲が広がり、小さい文字に注目するように指示されたグループは、注意の範囲が狭くなりました。

そして、全員が創造性の課題(ハシゴを使って多くの運動パターンのアイデアを生み出す)に取り組んだ結果、大きい文字に注目したグループは、小さい文字に注目したグループよりも、より柔軟に様々なアイデアを生み出したのです。

この結果から、注意範囲を広げることは、クリエイティビティの向上に有用であることが示されました。「カフェ」での仕事は、オフィス環境よりも、注意の範囲を広げる機会が多いと考えられますが、これを「気が散る」と考えるのでなく、クリエイティビティを高めるのに良いと考えれば、有効活用できるのではないでしょうか。

参考文献:
・今西明, & 雄山真弓. (2008). 生理心理学における新たな解析手法の提案: 生体信号のカオス解析. 人文論究, 58(3), 23-42.
・雄山真弓(2012).心の免疫力を高める「ゆらぎ」の心理学.祥伝社
・ストレス・疲労のセンシングとその評価技術.(2019).第7章 脈波・脈拍・心拍信号の検出技術.第2節 指先の指尖脈波を用いたココロのバランスをチェックするシステムの開発.技術情報協会
・WINフロンティア株式会社,「Lifescore Quick」(https://www.winfrontier.com/wearable-sensing/lifescore-quick/)
・Moraru, A., Memmert, D., & van der Kamp, J. (2016). Motor creativity: the roles of attention breadth and working memory in a divergent doing task. Journal of Cognitive Psychology, 28(7), 856-867.

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