見出し画像

働く場所を変えて「集中力」を高める

場所にとらわれない働き方


働く場所の自由度は、かつてないほど高まっています。業界や職種、個々の会社によって差はあるものの、在宅ワークができたり、自宅近くのシェアオフィスで仕事ができたり、オフィスに出勤してもフリーアドレス(自由席)で仕事ができたりと、一昔前では考えられないほど、働く場所の自由度は高まっているのではないでしょうか。

また、外のカフェで仕事をする人も増えています。スターバックスの実質的な創業者であるハワード・シュルツ氏はスタバを、自宅(ファーストプレイス)でも職場(セカンドプレイス)でもない、自分らしさを取り戻せる「第三の場所」(サードプレイス)と定義しました。(「サードプレイス」という概念は、アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグ博士が、自著『The Great Good Place』(1989年)で提唱した概念です)確かに、自分のライフスタイルに合わせて、自分らしく仕事をしていそうな人をスタバでは多く見かけます。

一方で、仕事の「生産性」という観点からは課題もあります。例えば、集中して仕事をしたい時には、注意が散漫にならず、外部の余計な音もシャットアウトできるような、閉じた空間にこもりたいというニーズもあるでしょう。先進的な会社やシェアオフィスでは、そのような個別の作業ブースを設けているところもあるようですが、そのような環境がなくて困っているビジネスパーソンもかなりいると思われます。

そんな人にぴったりなのが、2019年からJR東日本が始めた「駅ナカオフィス」(STATION WORKS*)です。これは、下の写真のような電話ボックス型の作業スペースです。15分単位で予約できるので、ワンポイントで集中的に作業したい時などにとても有効です。私の会社(WINフロンティア)では、この「駅ナカオフィス」で作業を行った時の集中度をウェアラブルセンサで測定するという実験を行いましたので、その結果を次にご紹介します。

JR東日本の運営する駅ナカオフィス「STATION WORKS」(新宿甲州街道改札内)



「駅ナカオフィス」で集中力は高まるか?


実験では、7名の参加者に、「駅ナカオフィス」と「カフェ」で、それぞれ計算作業(作業能率を測定する「クレペリンテスト」)をPC上で15分ほど実施してもらい、その間の集中力を、ウェアラブルセンサで取得した心拍変動等のデータから算定しました。ここでは、測定の詳細は省略しますが、下の写真のようなセンサデバイスと当社の解析アルゴリズムを使用しています。

「集中力」の測定に使用したデバイスのイメージ(出典:WINフロンティア株式会社)

 
結果を見てみると、下図のように、「駅ナカオフィス」での作業は「カフェ」よりも、心拍変動等の指標からみた集中度が高く、自分の内面に意識が向いていて、気が散っていない状態であることがわかりました。つまり、目の前の作業にかなり没頭できていたということですね。また、作業効率に関しても、量(回答数)および質(正答数)ともに、「駅ナカオフィス」が「カフェ」を上回りました。(今回は被験者が少なく統計的な優位差は無いものの、平均に差が見られました。)




「駅ナカオフィス」は、カプセル状の扉で密閉できる完全個室状態で、パソコンとノートが置ける程度のテーブルだけという限定空間(足元に温風暖房器具あり)ですが、参加者の感想を聞くと、「思った以上に作業に没頭できた」ということでした。やはり空間は大事ですね。  

仕事には、主に「集中力」を要するものと「創造力」を要するものがありますが、この「駅ナカオフィス」のような閉じた空間は、「集中力」を要する仕事の生産性を高めたい時にはとても有効だと思われます。また、15分単位の課金となっているため、時間を有限の資源と捉える意識が高まるので、それも集中力を高める上ではプラスでしょう。


「慣れ」を回避して生産性を高める


私たちは長時間集中して同じ場所で同じ作業をしていると、時間の経過とともにパフォーマンスが下がります。そのため、作業内容を途中で変えてみたり、場所を変えてみることはとても有効であることが、様々な研究で明らかになっていますが、ここでは、アメリカのイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の実験をご紹介します。

この実験では、参加者は、パソコン画面に次々に表示される「縦の棒」に交じって、たまに出現する「短い棒」を発見したらボタンを押すという、とても単純な作業を40分間繰り返すように指示されました。参加者はグループに分けられ、1つのグループは、単純作業の合間に、数字を思い出すという別の課題を一瞬だけ課されました。一方、もう1つのグループは、別の課題は課されず、単純作業をひたすら繰り返しました。

分析の結果、同じ単純作業をひたすら繰り返したグループよりも、別の課題を一瞬だけ課されたグループの方が、後半になっても作業のパフォーマンスが落ちないことが明らかになりました。一方、同じ単純作業をひたすら繰り返したグループは、パフォーマンスが10%以上も低下してしまったのです。

ずっと同じ作業に取り組んでいると、ゴールに対しての慣れ(Goal Habituation)が生じ、ゴールへの意識が低下しますが、合間に別の課題を行うことで、元々のゴールへの意識が一瞬、不活性化します。そして、元の作業に戻った時に、再びゴールへの意識が活性化するため、新たな気持ちで作業に取り組むことができ、パフォーマンスを維持できると考えられます。

このように、ゴールへの慣れを回避するために、別の作業を挟むのも良いですし、上述の「駅ナカオフィス」のような別の場所に移って、環境を変えてみると、パフォーマンスを落とすことなく仕事ができるので、オススメです。

参考文献:
*JR東日本「STATION WORKS」ホームページ
https://www.stationwork.jp/booth-desk-franchise/base-search/base-details/?floorId=8&type=2
・Ariga, A., & Lleras, A. (2011). Brief and rare mental “breaks” keep you focused: Deactivation and reactivation of task goals preempt vigilance decrements. Cognition, 118(3), 439-443.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?