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20231016 / Uchronie

1. あとがきが終わり、次のまえがきへと連なる空白の根底にひそみ、沈み込んだ意識が放棄した僕の肉体は、停車中の列車の中で横たわり、無関心な喪失を静かに語り出した。 空っぽな意識の中で宙吊りになった僕自身は感覚というこの空間との交差において、頑なにこの肉体と手を繋ぎ、決して離れる様相を見せないでいる。 やがて動き出した列車は、住宅裏に連なった先で、多数の吊り革を従えて流動し、後方車両へ押し込まれた情熱は、息絶え絶えと呼気を鳴らしている。 流れる時間に囚われた僕は、少しず

20230108 / 白線から飛び出したときの胸の苦しさを,もう何年も感じていない気がする.

それは,夜も更けた冬の,冷たく重い寒空の下で. 月明かりに見つめられながら僕は,誰が決めたわけでもないのに,落ちたら負けだと思いながら,ぼんやりと照らされた白線の上を辿った. 総じて,道は自分が行きたい場所には続いていないから,いっそ負けでもいいやって,線の上から飛び出したときの胸の苦しさを,もう何年も感じていない気がする. 帰るべき家は,途切れた白線の向こう側.いつかのように飛び出そうとしたその時,どこからともなく現れた幽霊が,僕の手をそっと引いた. どこか僕の姿に

20221127 / おはよう-おやすみ

sequence process execute..."Hello, World-/-Good, night" input:>> import os>> import humanity>> import language.model as model>> humanity.init(model.ja)>> humanity.monologue.exe() output:突然息ができなくなって、視界が真っ暗になる。たまらずアスファルトの上に吐いたら、吐瀉物の液溜まりに幼虫が

20220827 / 不埒な様相

いつもより広くなった部屋の中から外の景色を拝めば、どっかの誰かとは相対的に、勇敢に見えた空が、蒸し暑いアスファルトの駐車場と対峙しているようだった。 身軽になったカーテンレールも。床に転がるエアコンのスイッチも。去るものを引き止めてくれなどはせず。 真っ黒になった換気扇と、うす暗い水場に別れを告げようとしたが、やけに荷物が重いのだ。 あなたは考えすぎだから、見えないものしか見えないの。 そんな声が聞こえた気がした。 鍵穴を回す音が気持ちよかった。そのまま勢いにまかせて、鍵

20220320 / レゾンデートル

兵士の骸に咲いた花に、安寧の幻想を過剰摂取した少女が重なって。 被害者面をした悪意も今は遠い。赤色、赤色、赤色。 傍観するしかない世界に生きる人々さえ幻に見えて、自分の考えや表現が、この確かな現実に耐えうる自信がないから、半ば理不尽な八つ当たり。 あらゆる自分の行動に対して、存在理由の不在を憂いることもなく、虚無を感じることもなく、淡々と快楽に投じているだけの人間を嫌う。 生きることが簡単な国に生まれて、幸福という言葉も、快楽という言葉も、嫌悪と恐怖を伴う。 そうい

20200715 / わたしはわたしという静謐な空間に閉じこもる.

わたしは,わたし. 差し込んだ夕日と,風に揺れるカーテンがわたし.紅茶に浸したマドレーヌがわたし.桜が香る川のせせらぎがわたし. 外の野球部の掛け声が,窓越しに聞こえる,わたしただ一人しかいない図書室がわたし.青い鳥文庫の行間に潜む狂気と優しさがわたし.ここにいない誰かがわたし. 人は本来,なんでもないものなのだろう.性格,物の考え,善と悪.人は言葉によって,規定されて,そこで初めて自己を得る. 尊くて,なによりも大切にされなければならないもの. 自分という存在は,

20201129 / 過去を失った僕らは,太陽を直視した.「象は静かに座っている | An Elephant Sitting Still」

 僕の嗚咽を,吐いた血を,発狂して叫びちらした醜い怒号と嘆きとを,彼がそれらを吸収し,見えない暗闇の中でそれらを結んで紡ぎ,そして憧憬を醸し出した.僕はそれがこの世界の美しさなのだと理解したんだ. 過去を失った僕らは,太陽を直視した.  そういう感傷が妙に心地良いから,いや,それはたぶん,彼がそういうやり方で,僕を蝕んでいったんだろう.僕だけでなく,彼は彼の中にいる多くの人々をそういうやり方で蝕んでいって,そして還すんだ.僕らが生きているここは,たぶん,もとからそういう仕組

20210217 / 自動共感装置と人形

 腹から溢れる臓腑に,欠損した肉体に,僕が痛めるのは自らの心なのか,魂なのか,あるいは身体そのものなのか.崩れ行く人形達に内側が痛むのはなにがどうして.ひょっとすれば,僕の大いなる理性が,肉体が,僕に「痛め」と命じ,僕はそれに呼応しているだけなのだとすれば,僕はその内側をほじくり出して,人形達に還すのだろう.それよりも僕は,自分自身がその臓腑に,肉体に,人形に,虚無に還ることを望むのだから.  友達の人形作家の作品を見に行ったお話.展示された彼の作品を見て少し驚いたのは,そ

20220101 / 追慕、受胎。

疾うに沈んだ夕日の残響が、黄昏に反射して照らす紅色の惨禍。今日も今日とて、僕は何も成せずして過ぎ去った今日に置いていかれる。 護岸ブロックに染み出した影が、僕を見限ってコンクリートの壁の向こう側へと歩き出した。残された僕は辛くなる前に、そいつのことを見限って返す。川に不法投棄された自転車を見て、途端に、信じることと期待しないことの違いが分からなくなる。 僕が僕であるということを、いくら僕が理解しているとしても、君が誰だか分からないと言われれば、それを説明するのは難しい。愛

20220110 / Error.

目を瞑って、もう二度とそれを開きたくない。 何もかもやめたいけど、いろんな期待と好意を投げ捨てるわけにはいかない。 殺してほしいって思うのは、生きなきゃいけない責任から逃れたいっていう弱い心の裏返し。 求めてばかりの自分に愛想が尽きて、これ以上求められないって思ったら、もうなにも見えなくなってしまった。真っ暗闇の中で彷徨う。 自分の身体の中の臓腑を想像すると、それがとても気持ちの悪いものに思えてきて、お腹を割いて、それらを全部きれいに取り除いたらすっきりするかな、とか