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ロケット動画投稿ゲームNext Space Rebelsはどのくらいモデルロケットできるのか

Next Space Rebels』は、2021年11月にリリースされたロケット製作シミュレーションゲームです。ユニークな点として、作ったロケットの飛行を動画投稿サイトに載せ、チャンネル登録者を集めることでゲームが進行するようになっています。

打ち上げの瞬間

主人公は趣味としてロケット動画投稿を始めるので、ゲーム序盤では主にモデルロケット(アマチュア向けの模型ロケット)から打ち上げを始めることになります。おなじみの部品が出てきたり、モデルロケット製作の知識がきちんと役立ったりして、モデルロケット経験者にとってもやっていて楽しいゲームに仕上がっていると思いました。

ゲームのストーリーが進むと視聴者を稼ぐためにヘンテコなロケットを作りまくったり、高高度に到達するために液体ロケットエンジンに移行したりするので、まっとうな(?)モデルロケットを作る期間は結構短めです。とはいえ、気軽にモデルロケットを組んでクリック1つで打ち上げ体験ができるということで、どのくらい実際のモデルロケットに沿ったものなのか気になるところです。

本記事の目的

本記事では、Next Space Rebelsで作れるモデルロケットについて、実際のモデルロケットの知識やデータを基に検証・考察します。モデルロケットに興味がある方・経験者の方にとっては、本作でどの程度モデルロケットの製作・打ち上げが楽しめるかの情報が得られると考えられます。また、Next Space Rebelsのプレイヤーの方にとっては、攻略に役立てられるモデルロケット知識があるかもしれません。

ゲーム自体のシナリオもYouTuberの流行や民間企業の急速な宇宙開発といった世相をうまく取り入れていてとても面白いのですが、本記事の趣旨とはあまり関わらないので解説記事等をご覧ください。

モデルロケットとはそもそも何なのかご存じない方向けには、筆者の過去記事で詳しく説明しております。

モデルロケットエンジン

本作で運用できるエンジン。一番右のものは明らかにA8-3という型番が見える

本作では、固体燃料エンジンが4種類用意されています。ゲーム開始直後に最も弱いエンジンを入手し、徐々にパワーのあるエンジンを入手していくことになります。これ以外に液体燃料エンジンも多数出てくるのですが、通常「モデルロケット」というときには固体燃料(火薬)を使うものに限られるので本記事では扱いません。
※ロケットの推進機のことを、燃料や規模に関わらずエンジンと言います。モーターと呼ぶこともあります。

それぞれのエンジンには、ゲームを進めていくと様々なデータが表示されるようになります。この数値や部品の見た目、飛行データをもとに考察していきましょう。

エンジンデータ

ロケットキットのブースター

ゲーム内の画像で「A8-3」らしき型番が見えているので、これはEstes社のモデルロケット用エンジンA8-3だと思っていいでしょう。

左のパッケージがA8-3

ゲーム中「キットのエンジン」として扱われているように、現実でも一番多くの初心者に使われているモデルロケット組み立てキット「Alpha Ⅲ」とセットでよく使われるエンジンです。

現実のA8-3と、ゲーム内で分かるデータを比較してみましょう。

「ロケットキットのブースター」とA8-3の比較

パワーには単位がないのですが、全力積2.5 N·s(エンジンが出せる推力の合計のような数値)と結構近そうにも見えます。他方、重量や燃焼時間などは本物とは少しずれています。火薬量が10 gというのは、A8-3を始めとするA型エンジンより1段上のパワーを持つB型エンジン(火薬量8~9 g程度)に近いスペックです。
サイズについては、筆者が気づいた範囲ではゲーム内に実寸の情報がないので、設計画面に出るグリッドを頼りにするしかありません。ゲーム内で全長がグリッド1/2マス分程度だったので、グリッドの1マスは150 mmくらいなのかもしれません。

それでは、実際に打ち上げたときはどうでしょうか。定番キット「Alpha Ⅲ」をA8-3で打ち上げた場合は72 mくらい飛ぶそうです。同じような重さ(重量約34 g・A8-3を搭載すると約50 g)のロケットを打ち上げてみましょう。

30 gのロケット
打ち上げ

結果は、到達高度119 mとなりました。実際の値よりちょっと飛びすぎていますが、A型エンジンとしてそこまで違和感ない数字ではないでしょうか。

ミドルブースター

スペック表です。キットのブースターから一気にパワーが10倍となります。仮にこの数字がそのまま全力積(N·s)だとすると、E型エンジンというクラスに相当します。
そこで、近そうな製品としてEstes社のE16-6を並べました。

「ミドルブースター」とE型エンジンの比較

E型でモデルロケットを打ち上げるには日本国内ではモデルロケット従事者ライセンス3級が必要ですし、エンジンの購入や打ち上げには都道府県知事の許可や空港への届け出を要します。そのため、国内でこのクラスのエンジンでの打ち上げがあるのは限られた大会・イベントの場合がほとんどです。

重量や火薬量は実際のE型エンジンより大きいようです。このゲームは、エンジン重量が実物より重めに描かれる傾向があるようです。

E16-6での打ち上げを撮影した映像がYouTubeにあったのでご紹介しておきます。かなり迫力ありますね。

ダブルブースター

ここからは一気に現実離れしていきます……。全力積360N·sはI型エンジンに分類されます。Aerotech社のI117FJ-14Aと比較するとこのような感じです。

「ダブルブースター」とI型エンジンの比較

I型エンジンを国内で打ち上げようと思うと、モデルロケット従事者ライセンス2級が必要です。2級・1級の取得条件はかなり厳しく、もし取得したとしても打ち上げの場所確保や手続きが大変なので、国内で打ち上げられる機会はほぼないと思っていいでしょう。

海外のサイトにI型からL型までのエンジンで打ち上げられるロケットキットの動画がありました。到達高度は、I型の場合500~1000 m程度になるそうです。

ビッグブースター

固体燃料では最も強力です。パワーの数値は2080となっています。現実のエンジン区分ではK型エンジンに相当します。Aerotech社のK828FJ-Pと比較するとこのような感じです。

「ビッグブースター」とK型エンジンの比較

国内のモデルロケットライセンスが想定しているのはJ型までで、K型モデルロケットは日本国内では打ち上げられません。
ただし、モデルロケット以外に目を向ければ打ち上げ事例があります。例えば、大学の研究室やサークルが取り組んでいる「ハイブリッドロケット(固体と液体の燃料を組み合わせたロケット)」では、K型相当のパワーを持った機体を打ち上げた実績があります。

動画は東工大のロケットサークルCREATEによるK型ハイブリッドロケット「C-19K」の打ち上げ映像です。うまく行けば到達高度は数kmにもなるようです。

エンジンのまとめ

本作に登場するロケットエンジンは、一見するとだんだん荒唐無稽な性能になっていくように見えますが、ハイパワーなもの含めて現実のモデルロケットに近い性能が再現されています。

ただし、重量が大きめに設定されることが多いので、現実よりもパーツを削ったり、複数のエンジンを束ねたりしなければ希望の高度をクリアできないことが多いでしょう。

モデルロケットの構成要素

モデルロケットと聞いてイメージするのは、だいたいこんな感じの形ではないでしょうか? モデルロケットの各部にはそれぞれに名前と役割があり、本作でもそれは再現されています。

基本的な構成のモデルロケット

ノーズコーン

ロケットの先端についているパーツで、円錐形や滑らかな釣鐘型になっています。これにはロケットの飛行中に空気抵抗をなるべく減らす役割があります。モデルロケットの到達高度を競う高度競技などでは、空気抵抗が最小限になる形状が選ばれます。

本作ではどんな形のロケットでもごり押しすれば飛ぶので忘れがちですが、ノーズ部品を先端に配置すれば空気抵抗が減り、到達高度が伸びます。

空気抵抗を可視化した様子。ノーズコーンがない右のロケットでは空気抵抗が大きい

ボディチューブ

ロケットのメインの構造となるパーツです。初心者向けのものでは紙製が多く、規模が大きくなるとポリ塩化ビニル(PVC)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が使われることもあります。本作ではぶっちゃけそんなものがなくてもエンジンにノーズコーンとフィンを付ければ飛ぶ

フィン

モデルロケットが安定して飛ぶために必須の部品です。本作の最序盤で、ロケットにフィンを取り付けるように教わる展開があるので、「よく分からないけど大事なんだな」と思ったプレイヤーの方も多いでしょう。

ロケットにフィンを付けるようにチャットで教わるシーン

実際に、フィンを先端近くに設置したロケットをゲーム内で飛ばしても、ロケットが回転して上に上がりません。この理由は「モデルロケットの空気力学」の節で詳しく触れます。

フィンの配置が悪いとモデルロケットがまっすぐ飛ばない

ゲーム中にない構成要素

現実のモデルロケットは、パラシュートなどの回収装置を備えて安全に着地させることがルールになっています。数百メートルから自由落下すれば確実に機体が壊れますし、人や物に当たると危険なためです。
ところが、本作では最初から最後まで回収装置を一切使えません。そのため、どんなロケットを打ち上げようが最後には必ず落下して砕け散ります。

無残にも砕け散るロケット

もしゲームにパラシュートが存在したらそのためのシミュレーションも必要ですし、地上に帰ってくるのに時間がかかってしまうためあえて入れない判断をした可能性はあります。ただ、危険なので現実のロケットでは必ず回収装置を準備しましょう。

また、モデルロケットの発射台も本作では使用できず、地面に直接置いての打ち上げになります。もし発射台があれば、ロケットの打ち上げ方向を変えたり、自立しない形状のロケットを支えたりできるのですが……。

モデルロケットの発射台

モデルロケットの空気力学(重心と圧力中心)

モデルロケットは空気中を飛行するので、空気力学と密接な関係があります。本作では、ロケットの安定性や曲がる方向などが空気の影響を受けるので、モデルロケット知識が役立つ部分です。

飛行情報画面

本作のロケット設計画面では、「飛行情報のオーバレイ」という機能を使うと機体上に2つのマークが現れます。緑色のおもりのマークは重心、青色のメーターのマークは圧力中心を表しています。
ゲーム内でマウスを重ねても丁寧な説明が表示されるように、モデルロケットが安定飛行するためには圧力中心が重心の後ろにあることが必要です。

どうしてそうなるかの詳しい説明は拙記事「星屑テレパスで学ぶモデルロケット用語集」に書いたのでここでは簡単に述べます。飛行中のロケットは重心を中心にして回転し、ロケットに加わる空気圧は圧力中心にまとまって作用すると考えることができます。

重心と圧力中心の関係

圧力中心が図(a)のように重心の後方にあれば、ロケットが少し傾いても、傾きを小さくする方向に力がはたらくので安定して飛びます。もし図(b)のように圧力中心が重心より前方にあると、逆に傾きを大きくする力がはたらくためにロケットがすぐ墜落したり、グルグル回転したりしてしまいます。

圧力中心が重心の前方にあるというのは、具体的にはフィンが前方に寄っていたり、先端に比べて後ろ側が重すぎたりする状態です。ゲーム内で空力的に不安定なロケットを設計すると、圧力中心が点滅するなどして警告してくれます。

安定飛行できないロケット

応用的なモデルロケット

モデルロケットには、複数のエンジンを使って性能アップを狙うクラスター式ロケットや多段式ロケットというジャンルがあります。本作ではエンジンを気軽に増やせるので、これらの応用的なモデルロケットも容易に体験できます。

クラスタ―式モデルロケット

エンジンを並列に束ねることで大きな推力を得るロケットです。実物の宇宙ロケットでも、複数のエンジンを使うクラスター方式はよく採用されます。

3本クラスターロケット

クラスターロケットは、エンジン1本のロケットに比べて難しい点がいくつかあります。まず、エンジンが傾いていたり、配置のバランスが悪かったりするとロケットがまっすぐ飛びません。実物なら高い工作精度になるよう頑張って工夫するところですが、本作ではロケットの飛ぶ方向が矢印で可視化されるので、それを見ながら微調整すれば大丈夫です。

また、複数束ねたエンジンの一部が点火に失敗すると、ロケットがバランスを崩してしまうこともあります。ただし、本作ではどんなに複雑なロケットでも工作と打ち上げ準備は100%成功するのでこの点は心配いらないでしょう。

A8-3エンジンの12本クラスター

多段式モデルロケット

エンジンを直列に積み上げて順番に燃焼させる方式です。高高度に到達する宇宙ロケットはほとんど多段式です(ロケット打ち上げの中継を見たことがあれば、「◯段目燃焼修了」「◯段目分離」といった文言に聞き覚えがあることでしょう)。

実物のモデルロケットで多段式を組む場合、下段に専用のエンジンパーツを使うことで、下のエンジンが燃え尽きると同時に上のエンジンへ点火し、同時に下段ごと切り離す機能が実現されます。一方、本作では多段式向けのパーツは用意されていません。

ただ、本作の固体ロケットエンジンには「作動時間」という設定項目があり、打ち上げからエンジンに点火するまでの時間を遅らせることができます。下段が3秒で燃焼終了するなら、上段が3秒後から作動するようにすれば多段式のような燃焼の仕方が擬似再現できるわけです。
また、ロケットの一部を切り離す部品「デカップラー」がストーリーの中盤で手に入ります。1.2 kgと重いので、固体エンジンで最強のビッグブースターを使って実験機を作ってみました。

多段式ロケット実験機。空虚重量3.5 kg、全備重量18.9 kg。下段を切り離す場合は秒数指定で自動分離する。エンジン1本の場合は空力安定性が悪かったためフィンを後ろにずらした

結果はこのようになりました。

  1. エンジン1本のみ
    到達高度1.25 km、最高速度 437 km/h、平均速度164 km/h

  2. エンジン2本・同時点火(クラスター式に近い)
    到達高度2.44 km、最高速度 631 km/h、平均速度197 km/h

  3. エンジン2本・下から順に点火
    到達高度1.91 km、最高速度 566 km/h、平均速度216 km/h

  4. エンジン2本・下から順に点火し第1段は切り離す(多段式)
    到達高度3.16 km、最高速度 783 km/h、平均速度255 km/h

多段式の到達高度が他の方式を大きく引き離して首位となり、ゲーム内でも多段式で高高度に到達できることが示されました。しかしながら、第1段の切り離しがない③のパターンは②のクラスター式に負けています。使い終わったエンジンを捨てて身軽にならなければ、多段式のメリットを活かすのは難しそうです。

モデルロケット競技を再現してみた

モデルロケットの技術を競う競技大会が世界中で開かれています。日本国内では、「モデルロケット全国大会」「種子島ロケットコンテスト」「ロケット甲子園」などがあります。

その中で、ロケット甲子園の大会ルールになるべく準拠したロケットを本作で再現してみましょう。ロケット甲子園は、中高生を対象に毎年行われる大会で、主にF型エンジンを搭載した強力なロケットで競う点や、優勝校がモデルロケット国際大会(International Rocketry Challenge; IRC)に進む点が特徴的です。

ロケット甲子園の主なルールを書き出してみます。

  • 目標高度:800フィート(約244 m)

  • 目標滞空時間:40~43秒

  • 生卵1個を搭載し、損傷なしで回収する

  • 機体全長:650 mm以上

  • 打上総重量:650 g以下

  • エンジン:F型以下(クラスター式の場合は全力積80 N·s以下)

この大会は、目標の高度と滞空時間になるべく近いフライトを実施するのが目標で、高すぎても低すぎても高評価が得られません。また、安全に着地できた証拠として生卵を搭載するミッションが与えられます。本作ではパラシュートがなく滞空時間・生卵の条件はクリアが難しいため、目標高度を合わせることだけを目指します。

ロケット甲子園用?ロケット

というわけでこのようなロケットが完成しました。あまりにもやる気のない感じの見た目ですが、ちゃんと理由があります……。

まず、エンジンはF型に性能が近い「ミドルブースター」を使用します。ただし、ミドルブースターの全力積は30 N·s程度、F型エンジンの全力積は40 N·sから80  N·sと性能が半分くらいのため、2本クラスターにして使用します。

次に、エンジンの節で繰り返し述べたとおりこのゲームは部品が総じて重いです。ミドルブースター2本、ノーズコーン、フィン2枚と小さいボディチューブで620 gに達しました。これ以上重いと高度が稼げないため、ボディチューブを長くして機体全長650 mm以上にするのは諦めざるを得ませんでした。

結局エンジンと総重量のルールしか守れていませんが、とりあえず打ち上げてみましょう。

到達高度は249 m(約817フィート)でした。過去のロケット甲子園優勝校のデータを見ても目標から数十フィートのずれであることが多いので、割と優秀な結果なのではないでしょうか。まあ地面に激突している時点で間違いなく失格ですが

総評

モデルロケットを体験できるゲームとして見たときの総評です。

良かった点

  • 組み立てと打ち上げを繰り返す試行錯誤を手軽に楽しめる

  • 空気力学やクラスターロケットなど、実際のモデルロケットの知識が役立つ

  • 日本では打ち上げが困難な大型ロケットでも気軽に打てる

  • 謎の高性能カメラによってロケットの飛行を一部始終動画に撮れる

  • 全編日本語に対応している(ただ、一部英語だったり中国語だったりとミスはあります)

注意が必要な点

  • 風が考慮されない、どう考えても安定しないロケットでも垂直に上げれば飛ぶなど、物理挙動が現実とイコールではない。まあもし入れたら難易度が理不尽に上がるのでゲームとしては不要だと思います

  • 最初から最後までパラシュートが使えないなど、省略された要素がある。発射台もないので斜めに打つのも困難

  • 主人公に作れないものはなく(設計画面で組めさえすればどんな素材でもくっつけてしまう化け物)工作も一瞬で終わるので、工作や打ち上げ準備の手順は特に味わえない

  • アーリーアクセスゲームのため、バグが散見される(大半は操作をやり直せば解決します)

おわりに

Next Space Rebelsは本格的なロケットシミュレーションソフトより気軽にロケット打ち上げを楽しめる作品です。モデルロケット経験者であれば自前の知識を生かしてバリバリロケットを開発できますし、初心者の方がモデルロケットの雰囲気を味わうのにも向いていると感じました。
また、本記事で紹介しなかった液体燃料エンジンが登場してからは、モデルロケットの範囲を飛び越えて本格的な宇宙ロケット作りも楽しめます。

Next Space Rebels PC版は、Steamの旧正月セールで2月4日まで1,537円に値下げされています。この機会にぜひ。


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