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星屑テレパスで学ぶモデルロケット用語集

全宇宙の星テレファンの皆さん、ボナヴー!
『星屑テレパス(星テレ)』2巻はもうお読みになりましたか? 表紙の時点で明らかですが、2巻では小ノ星海果たちが本格的なモデルロケットに挑戦します。

皆さんは、星テレを読む前からモデルロケットをご存じでしたか?
例えばTwitterを「モデルロケット」で検索すると、1日に1~2ツイートあるかどうかという状態です(最近は星テレのお陰でこれより少し増えました)。科学教育に力を入れている学校にいたり、宇宙に普段から興味を持っているのでもなければ、知る機会がこれまでなかったという方も多いのではないでしょうか。逆に言えば、星テレが登場したことでモデルロケットを知る人が増えたとも言えます。ありがたいことです。

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モデルロケット打ち上げの瞬間

星テレでは、モデルロケットの世界がとても緻密かつ分かりやすく描写されています。とはいえ、あくまで教科書ではなく4コマ漫画である以上、ストーリー上触れられる情報には限りがあります。そこで、星テレを読んでモデルロケットをもっと知りたいという方に向け、本記事では作中で登場するモデルロケット関連の用語を解説します。

筆者は、中学・高校時代に所属した天文部においてモデルロケット製作の活動に3年間ほど関わりました。高校を出てからは離れてしまったため、最新の情報を追えていないかもしれない点はご容赦ください。

本記事は、『星屑テレパス』第1巻・第2巻の内容をベースにモデルロケット用語を解説します。記事の性質上、関係する範囲で内容に触れるため「ネタバレ」タグを付けておりますが、ストーリー展開が類推できる表現にはしていません。
ただし、星屑テレパスを未読の方にとっては、ただモデルロケットの解説が並んでいるだけの記事に見える可能性が高いです。『星屑テレパス』第2巻を読了された後に、復習がてら読んでいただけましたら幸いです。

序論:星テレ読者にとってのモデルロケット知識

こんな記事を出してはいますが、筆者は「星テレファンを名乗るならモデルロケットを勉強しろ!」などと思っているわけでは全くありません。星テレはモデルロケットを全然知らなくても十分楽しめる漫画です。海果たち登場人物の関係性や成長、大熊らすこ先生の美麗な絵柄と光の表現、その裏で張り巡らされる宇宙語や明内ユウのおでこぱしー能力の謎……といった要素が見事に重ね合わされているからこそ多くの人の心を掴んだことは、きらら有識者からも指摘されてきたとおりです。

ただ、星テレを楽しんだ上でモデルロケットに少しでもご興味があるなら、ぜひこの記事を活用していただきたいです。モデルロケットの実際を知ることは、モデルロケットに入門した海果たちの活動を追体験することにもなります。作中の出来事の背景や登場人物の思いが、より鮮明に想像できるはずです。そんなわけで、本記事ではあえてモデルロケットの解説に絞った情報提供をさせていただきます。

モデルロケット(初出:第10話 決戦シーサイド)

まずはモデルロケットの打ち上げを見ていただきましょう(できれば音ありで)。

火薬(モデルロケットエンジン)を使用して実際に飛行する模型ロケットをモデルロケット(model rocket)と呼びます。模型とはいえ数十メートルから数百メートルの高度に到達でき、発射時の音も迫力があります。

火薬と聞いて危ないのではと思う方もいるかもしれませんが、世界各国で趣味や科学教育に用いられており、安全に打ち上げる方法が確立されています。火薬類取締法施行規則では、火薬20g以下のモデルロケットのエンジンは「がん具煙火」、すなわち市販のおもちゃ花火と同様の法的扱いがなされています(20gを超えるものもあり、それらは火薬扱いです)。
モデルロケットの打ち上げの法的基準を確実に守って打ち上げできるよう、国内では日本モデルロケット協会自主消費基準の設定、ライセンス発行を行っています。通常、モデルロケットを打ち上げる場合には「従事者ライセンス」を取得し、自主消費基準に沿った手順で打ち上げることになります。

星テレ作中では雷門瞬がモデルロケットの打ち上げを見せてくれる描写があり、発射台や点火装置などきちんと準備したうえで発射していたようです。この場では言及されないものの、瞬はライセンスもきちんと取得済みでした。

なお、第10話までの主題となっていた「水と空気で推進するペットボトルロケット」もロケットの模型なので、モデルロケットの一種と考えることもできます(NASAのウェブサイトでwater rocketをmodel rocketの一種と紹介していたりします)。ただ、少なくとも日本国内で「モデルロケット」と言う時には火薬を使ったものだけを指すことがほとんどです。
また、いわゆる「ロケット花火」も火薬を使用して飛翔する点で原理は同じですが、法的な基準や打ち上げの目的・方法がモデルロケットとは全く異なります。本記事では、これ以降モデルロケットと言うときには火薬を使う模型ロケットを指すものとします。

発射台と点火装置(初出:第10話 決戦シーサイド)

モデルロケットを安全に打ち上げるには、実在のロケットと同様に発射台が必ず必要です。第10話では、雷門瞬が(ノリノリで)モデルロケットを打ち上げたシーンに発射台が描かれました。

図2の左側は、Alpha Ⅲというモデルロケットのスターターセットに同梱される発射台の写真です。右側は、雷門瞬が第10話で用いた発射台と点火装置の構造をイラスト化し、パーツの名称を書き込んだものです。いきなりカタカナ語がたくさん出てきて恐縮ですが、実際のモデルロケット発射台と構造が共通している点を把握していただければ十分です。

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モデルロケット発射台の構造

ランチロッドは、打ち上げ前のモデルロケットを支え、点火直後のロケットを望みの方向に誘導するための棒です。ロケット本体の側面に短い筒(ランチラグパイプ)があり、これをロッドに通して発射台にセットします。
ロケットの下部にある円形の金属板はフレームディフレクタ(ブラストディフレクタ)といい、ロケットから噴射される高温のガスを受け止める目的で使われます(何度か打ち上げていると、この板がだんだんススで汚れていきます………)。

発射台を支える支持脚は、キット付属のものと瞬が使ったものでかなり形状が異なっています。瞬は発射台を自作していて、支持脚としてカメラ用の三脚を代用したと推測されます。支持脚にはロケットの向きを調整する役割もあり、鉛直から±30°の範囲なら傾けて良いことになっています。

モデルロケット専用の発射台には、30°を超えて傾かないようにストッパが付いています。カメラ三脚を改造した自作発射台もモデルロケットの大会やイベントでよく見かけますが、その場合でも傾けすぎないように角度を確認したり、ストッパを設けたりする必要があります。

最後に、点火装置について軽く触れておきます。モデルロケットの打ち上げ時には、安全のため5~15 m離れた場所から点火する決まりになっています(作中で描写はないものの、瞬が発射台から離れたり、海果たちに離れるよう指示する一幕があったことでしょう)。そこで、点火装置から長い導線を伸ばし、イグナイターという点火用の火薬に電流を流して遠隔で発射操作を行います。点火装置には、不意の点火を防げるようセーフティキーの仕組みが備えられ、キーを差し込まなければ回路が繋がりません。

瞬の点火装置も、有名なキットのものとは形が違うため、発射台と同様に自作のようです。もともとモデルロケットの心得があったのか、海果とのロケット勝負が決まってから準備したものかは不明ですが、瞬のこだわりがうかがえる描写です。

エンジンマウントとエンジンフック(初出:第13話 乾杯イニシエーション)

第13話の扉絵や特典に使われていたロケット研究同好会4人の集合絵には、モデルロケットのエンジン取付部が詳しめに描かれていました。モデルロケットエンジンは、火薬などを頑丈な紙筒に収めた状態で売られています。モデルロケットを作る際には、使いたいエンジンがぴったり入る大きさの筒(エンジンマウント)を後部に設けることで、エンジンを交換して繰り返し使えるようにすることが多いです。

さらに、取付後のエンジンが脱落しないように金属製の「エンジンフック」を設けます。13話扉絵のロケットの下端で、折れ曲がった線のように見えているのがエンジンフックです。Alpha Ⅲなど実在のモデルロケット組み立てキットに付属するフックとよく似た形状になっています。

モデルロケットキットと自作モデルロケット(初出:第14話 熱血ロンリーティーチャー)

第14話では、通販のモデルロケットキットを用意したかったが、資金不足で買えなかったという話が出てきました。この記事でもたびたび名前が出るAlpha Ⅲ(図3)のように、モデルロケットの組み立てキットはいろいろと売られています。なかでも米Estes社のものは種類が多く日本国内でも入手が容易です(Amazonなどネット通販でも買えますが、時折在庫が切れていることもあるようです)。なお、Alpha Ⅲは日本国内であれば2,400円から5,000円前後で購入できます。

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組み立て前のAlpha Ⅲ

ただし、モデルロケットを始める時はキットが必須かと言うとそうでもありません。モデルロケットは紙・木・プラスチックなど軽くて加工しやすい素材で作れるため、適切な指導があれば小学生でも自作して打ち上げまで達成できます。宇宙教育の一環として「モデルロケット教室」のような自作・打ち上げの体験会が地域で開かれることもあります。

エンジンの型番(初出:第14話 熱血ロンリーティーチャー)

瞬が、モデルロケットエンジンの型番から読み取れる情報を解説してくれていました。高校物理レベルの内容が詰め込まれているので、4コマで一気に解説されて( ゚д゚)ポカーンとなった人も多いのではないでしょうか。順番に解説します。

まず最初のアルファベットは「全力積」を表します。全力積はエンジンが出す推力を燃焼時間全体で積分したもので、単位はニュートン秒(N·s)です。ざっくり言えばそのエンジンが出せるパワーの合計を表すものと考えてください。
例えば、入門用としてよく使われるA8-3エンジン(図4)は、全力積2.5N·sです。他にもB型・C型・D型とアルファベット順が後になるほど強いエンジンになりますが、取り扱いにはより上級のライセンスが必要になってきます。

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A8-3エンジンとC11-3エンジン

アルファベットの後ろにある2つの数字は「平均推力」と「延時時間」です。平均推力(単位:ニュートン)はエンジンが出せる推力の平均値で、「平均推力 = 全力積 ÷ 燃焼時間」の関係が成り立ちます。従って、瞬の解説にもあるように、全力積を平均推力で割ることでエンジンの燃焼時間が分かるようになっています。

次の延時時間は、推進薬の燃焼終了からパラシュートを開くまでの時間(単位:秒)のことです。このような時間が設けられる理由は、エンジンの推力がなくなってからもモデルロケットが慣性でしばらく上昇するためです。エンジンの内部では、ロケットを持ち上げる推進薬、延時時間の間燃焼する延時薬、逆噴射によりパラシュートなどを押し出す放出薬が順番に燃焼します。

リカバリーワディング(初出:第14話 熱血ロンリーティーチャー)

リカバリーワディング!(腹筋)

リカバリーワディングは、エンジンとパラシュートの間に挟む難燃紙のことです。「エンジンの型番」の節で、エンジンの放出薬が逆噴射することでパラシュートを放出すると書きました。このとき、エンジンからは高温のガスが吹き出るため、何も対策しないとパラシュート(ビニール製が多い)が溶けてくっついてしまいます。

これを防ぐため、打ち上げ前にリカバリーワディングを丸めて数枚ロケット内に詰めることになっています。ギチギチに詰めすぎるとパラシュート放出に失敗してロケットが墜落してしまうこともあるため、詰め方のコツを習得しておくのが重要です。作中で紹介されていた息を吹き込んで入れる方法のほか、鉛筆やペンで弱めに押し込む方法もあります。日本モデルロケット協会の打ち上げ教本には後者の鉛筆を使ったイラストが掲載されています。

イグナイター(初出:第14話 熱血ロンリーティーチャー)

「発射台と点火装置」の項で少し触れたように、モデルロケットは離れた場所から電流を流すことで点火します。そのための導線と少量の火薬を組み合わせた部品をイグナイター(図5、図6)といいます。先端はニクロム線の周囲を黒色火薬が包む構造になっており、ニクロム線の発熱で点火されます。

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イグナイター。下側の黒い部分が火薬、上に伸びているのが点火装置と接続する導線
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イグナイターをエンジンに挿入し、キャップで固定した様子

イグナイターは、モデルロケット用のエンジンパッケージに同梱されています(予備として単体でも買えます)。打ち上げ前にエンジン下端の窪みへイグナイターを差し込み、キャップで固定します。瞬が警告してくれたように、このイグナイターの取り付けでミスがあると点火できずにロケットが飛びません(不点火といいます)。
イグナイターに起因するありがちなミスには次のようなものがあります。

・イグナイター先端のニクロム線が切れて電流が流れない
・イグナイターの火薬とエンジンの推進薬に隙間があり、推進薬の点火に至らない
・イグナイターの導線がねじれてショートし、電流を流しても点火しない
・イグナイターに取り付ける点火装置のクリップが脱落し、回路が切れる

不点火を起こすと初めは焦りますが、慣れてくればミスしがちなポイントが分かってくるはずです。

発射時の掛け声(初出:第14話 熱血ロンリーティーチャー)

モデルロケットの打ち上げ直前には、声に出してカウントダウンをするというルールがあります。日本モデルロケット協会の自主消費基準第16条の2に、「発射台の状態、保安区域内立ち入り者の有無、低空の飛行物の有無を指呼し」確認すること、「周囲の者が確実にわかるように大声でカウントダウンして発射する」ことが定められています。いずれも安全確保に重要ですね。

協会発行の教本『ロケットを飛ばそう!』には具体的な掛け声の例があります。星テレ作中でも同じだったので、海果たちもこの教本を使って勉強したのではないでしょうか。

発射準備 完了!
低空飛行物体 なし!
秒読み開始!
5, 4, 3, 2, 1, 点火!

「低空飛行物体」というのは、射点付近の低空を飛ぶ航空機やドローン、ラジコン飛行機などのことです。万が一ロケットがこれらと衝突すると重大な事故のリスクがあるため、低空飛行物体が見えた場合は打ち上げせずに通過を待つ必要が生じます。

ロケットランチ(初出:第15話 一閃ロケットランチ)

第15話のタイトル「ロケットランチ」は、参加者がロケット打ち上げを披露して交流を楽しむ目的のイベントです。実際の日本では、日本モデルロケット協会が毎年ロケットランチを開催しています。英語で書くとrocket launch(ロケット打ち上げ)で、lunch(昼食)ではありません。

多段式とクラスター式(初出:第15話 一閃ロケットランチ)

モデルロケットでは、複数のエンジンを組み合わせて性能をさらに上げることができます。多段式ロケットではより高高度に到達でき、クラスター式ロケットではより重いロケットを打ち上げられます。

多段式(マルチステージ)モデルロケットは、エンジンを直列に積み上げて順番に燃焼させることで高高度を目指す方式です。現在各国で運用されている宇宙ロケットのほとんどは多段式なので、実物のロケットにより近い仕組みとも言えます。例えば2段式モデルロケットの場合、1段目に延時時間が0秒のエンジン(B6-0など)を、2段目に通常の延時薬と放出薬があるエンジンを使います。1段目エンジンは燃焼を終えるとすぐ2段目エンジンに点火し、同時にロケット本体から切り離されて地上へ戻ります。

(動画5:16:35ごろが2段式の打ち上げ成功例)

Estes社のMongoose(2段式)やMini Comanche 3(3段式)など、多段式のモデルロケット組み立てキットもいくつか市販されています。

一方、クラスター式モデルロケットは、エンジンを並列に束ねて同時に点火することで重量物を打ち上げる方式です。実物のクラスターロケットの例としては、5基のエンジンを束ねたソビエト連邦のR-7ロケットやヴォストークロケットが有名です。
注意すべきは点火回路で、各エンジンのイグナイター全てを並列に繋ぐ必要があるほか、エンジンが増えるほど大電流が必要となるのでそれに見合った電池や電源装置が必要になります。また、工作精度が悪かったり一部のエンジンが点火できなかったりすると、推力が偏り安定した飛行ができません。設計・製作・打ち上げ準備の全てに熟練が要求される方式です。

12本クラスター(!)のソユーズモデルロケットなどを製作されている真弓尚之氏は全国大会でデモ打ち上げをするのが恒例になっており、見た目も音もたいへん迫力があります。

モデルロケットの大会(初出:第15話 一閃ロケットランチ)

作中では「モデルロケット選手権」という大会が登場し、しばらく物語のメインとなっていきます。現実の日本では、全国規模の大会として「モデルロケット全国大会」「種子島ロケットコンテスト」「ロケット甲子園」が開催されています。その他にも、中学生モデルロケット秋田県大会などの地方独自の大会や、国際大会の選抜会が開かれることもあります。

例えば「モデルロケット全国大会」は、日本モデルロケット協会が毎年5月と10月(2013年までは年1回秋)にJAXAつくば宇宙センターにて開催する大会です。モデルロケット従事者ライセンスを所持していれば参加でき、中学校・高等学校・大学に加えてクラブや個人チームも参加します。
大会結果を見ると、個人や学校のチームが混在しています。技術や資金で勝りそうな社会人チームの一強というわけでもなく、年齢や学年問わず活躍できているのが面白いポイントです。

ロケット甲子園」は、毎年9~10月に栃木県小山市の小山総合公園(2022年までは静岡県のあさぎりフードパーク,2018年までは秋田県の能代宇宙イベント内)で行われます。参加者を中高生のチームに限定していることや、競技ルールが星テレ作中の設定と似ているため、ロケット甲子園がモデルロケット選手権のモデルと考えていいでしょう。ただし、現実のロケット甲子園は参加校に全国大会の出場経験が必要であったり、優勝校にはモデルロケット国際大会(International Rocketry Challenge; IRC)の出場権が与えられたりと、かなりハイレベルな大会となっています。

2019年からは、より多くの学校から参加を得ることを目指して、地方大会が予選として開催されるようになりました。作中でロケット研究同好会が参戦したのは「中部予選」となっていたので、もし現実の時間軸に当てはめるとすれば2019年以降の話ということになるでしょうか。2021年5月時点では東北大会・関東大会・関西大会が企画されていて、「中部予選」に該当するものはまだありません。
※その後、ロケット甲子園の大会ルールには様々な変更が加わっており、2023年の大会情報からは地方大会に関する記載が消えています。

モデルロケット従事者ライセンス(初出:第17話 約束スイートメモリー)

モデルロケットの紹介でも触れたように、日本モデルロケット協会は従事者資格(ライセンス)を認定しています。認定されると図7のようなカードが手に入ります。モデルロケット大会では、チームの一部や全員に対してライセンス保有を求めている場合がほとんどです。

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4級従事者ライセンス。3級から上は顔写真が入る

ライセンスは4級から1級までに加え、4級ライセンスの取得講習ができる指導講師ライセンスもあります。作中では、瞬が3級と指導講師ライセンスを保有していましたね。

初心者がライセンスを取得する場合は、C型までのエンジンを扱える4級から始まります。4級取得には指導講師による講習会(講座と実技)を受けるのが原則となっていますが、会場が近くにないなど受講が難しければ自主的に安全な打ち上げを3回行って郵送で申請することでも取得できます。例えば、協会公式の取得講習会は埼玉県ふじみ野市にある協会本部で月に1度行われます。

D型からG型のエンジンを使いたい場合には、試験を受けて4級から3級に昇格します。ロケット甲子園ではF型までのエンジンが使用できるため、1名以上が3級を持っていることが大会参加の条件になっています。

H型より上の大型エンジンを扱える2級・1級も存在します。ただし、「認定クラブ」への所属や多数の打ち上げ実績、取りたいライセンス保有者の推薦などが必要で難易度が一気に上がります。そもそもこのクラスのエンジンで打ち上げをするには広大な空き地が必要で、日本国内で場所を確保するのが困難なことから、3級より上を目指す人自体多くないのが現状です。

エッグリフト競技(初出:第19話 勝敗チキンエッグ)

モデルロケット大会で行われる競技にはいくつかの種類があり、全国大会ではパラシュート滞空時間競技・高度競技・定点着地競技の3つが行われます。一方、ロケット甲子園では目標の滞空時間と到達高度が定められており、目標の数値にどれだけ近づけられるかを競います。

また、搭載物(ペイロード)として生卵を載せ、 割らずに回収できなければ失格となってしまいます。この方式をエッグリフト競技と呼ぶこともあります(作中にもこの名前で登場しました)。パラシュートを確実に開いて安全な速度で着地させることはもちろん、卵に伝わる衝撃が少ない設計を工夫するなど、モデルロケット製作の総合力が問われます。

ロケットの風見効果(初出:第20話 夏雲プレパレーション)

モデルロケットは、飛行や回収の過程で上空の風に大きく影響されます。思い通りの到達高度や滞空時間を目指すにあたって、風とロケットの飛行経路の関係を頭に入れておくことは重要です。第20話で出てきたメモに「ロケットは風に向かう」という記述があったので取り上げておきます。

まず、飛行中のロケットを重心と圧力中心という2つの点で単純化して考えます。
重心は概念としてご存じの方が多いでしょう。高校で習うような物理の問題では、重力が重心の1点にまとまって作用すると扱って計算するはずです。また、空中で物体が回転するときは、重心を中心に回転します。
圧力中心は、物体に加わる空気の圧力がまとまって作用すると扱える点のことです。重心にとっての重力を、空気から受ける力に置き換えて考えれば理解しやすいと思います。モデルロケットを設計するときには、必ず重心が圧力中心より前に来るよう設計しなければなりません。空気中を飛行するモデルロケットが空気抵抗を受けると、その力は圧力中心に作用し、ロケットは重心を中心に回転すると考えられます。
このとき、図8(a)のように圧力中心が重心より後方にあれば、力は重心から離れる方向に作用します。従って、進行方向に対して斜めに力がかかったとしても、ロケットは力の方向に向きを変えて飛行を継続できます。
一方で、図8(b)のように圧力中心が重心より前方にあると、前方からの力に対してロケットがどんどん斜めに傾いてしまいます。このようなロケットは打ち上げてもまっすぐ飛行できずたいへん危険なので、重心と圧力中心の位置はモデルロケット製作で必ず注意すべきだというわけです。

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図8:モデルロケットの重心と圧力中心

さて、ここまでの説明は「ロケットは風に向かって飛ぶ」ことの説明にもなっています。安定飛行するよう設計されたロケット(図8a)であれば、風から力を受けるとその力が来る方向、すなわち風上に向かって姿勢が変わるためです。この現象を風見効果(Weather Cock)と呼びます。

風見効果で飛行経路が変わると到達高度も変わってきますので、狙った高度や滞空時間を達成する競技では風の条件も考慮することが不可欠です。現代ではロケット設計ソフトウェアを用いて、異なる風速や打ち上げ角度でシミュレーションできるようになっています。ただ、自然の風速や風向は刻一刻と変わるのでシミュレーション通りに飛ぶとは限りませんし、上空では地上と異なる風が吹いていることもありえます。このあたりはネットや本に全ての答えが書いてあるわけでもなく、打ち上げのノウハウや経験が物を言う場面のようです。

3Dプリンター(初出:第21話 出陣ウルトラハイパワードリーム)

3Dプリンターで流線型のフィンを造形したというモデルロケットが登場しました。モデルロケットは紙や木などを使って簡単な工作で作れると前に書きましたが、流線型の立体形状ともなると自力で加工するには工作機械の知識や経験が必要……というのがこれまでの状況でした。ここ数年で一気に普及した3Dプリンターは、複雑な形状でもデータさえあれば自動で作ってくれるので、活用すれば製作が楽になることでしょう。

実際、モデルロケットの部品やロケット全体を3Dプリンターで作ってみたという記事はネットにいくつか見られます。

3Dプリンタで出力したロケットを打ち上げる: 目篭のモデルロケットブログ
モデルロケットを3Dプリントしてみた。 : hiroyama777のblog
3D Print Flying Model Rockets : 20 Steps (with Pictures) - Instructables

それにしても、3Dプリンターが導入されていて、それを生徒が使いこなしている高校はまだ決して多くはないはずです。
モデルロケットに限りませんが、技術系の学生活動は機材が揃っているかどうか、適切な指導ができる人材がいるかどうかといった環境の要因で勝ち負けが左右されてしまうところがあります。その意味で海果たちをしっかり指導できる知識と技術を持った雷門瞬はこの作品にとって不可欠でしたし、今後もそれは変わらないと言えるでしょう。

おわりに:もっとモデルロケットを知るには

長々とモデルロケットについて説明をしてきました。モデルロケットの活動がどのようなものか、少しでもお伝えできていれば嬉しく思います。

もっとモデルロケットについて知りたいという方には、まずはモデルロケットの打ち上げを見てみることをお勧めします。直近では、記事中でもご紹介したモデルロケット全国大会が2021年10月16日に開催予定です(5月の大会は中止されましたが、10月については9月26日現在中止のアナウンスがありません)。

全国大会は見学も可能ですが、JAXA筑波宇宙センターの一般公開されていないエリアで開催されるので、事前の見学申込みをしなければ会場に入れません。モデルロケット協会とメールのやり取りをする必要がありますが、熱意のある方は申し込んでみてはいかがでしょうか。

現地での見学が難しい場合は、ライブ中継での観戦がおすすめです。宇宙関係のライブ中継を手掛ける団体「ネコビデオ ビジュアル ソリューションズ(NVS)」により、例年YouTube/ニコニコ生放送で中継が行われます。
(2021/10/17追記)第39回全国大会が行われました。規模縮小のため見学者無しで行われましたが、ライブ中継のアーカイブ映像が視聴できます。

本記事の内容チェックを、星屑テレパスがきっかけで精力的にモデルロケット活動をされているもてぎ(@motegionityan)さんにお手伝いいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。

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