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ティール理論からみるイノベーションを育む組織とは?

第7回公開研究会
日時:2020年12月21日 18:30-20:30
講師:嘉村賢州氏 (東京工業大学 リーダーシップ教育院 特任准教授)
ゲストパネラー:本荘 修二 氏(本荘事務所代表)
於:YouTube Live配信

嘉村氏講演

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ティール組織とは
 ティール組織はフレデリック・ラルーが提唱した概念である。ある時、コンサルティングファームで活躍していた彼は次のような問いをもった。

・お金持ちがさらにお金を稼ぐことに時間を使う必要があるか?
・経営者も働いている人も幸せそうに見えない。何が起こっているのか?
・人類は組織の作り方を間違えているのではないか?
⇒ティール理論の中心的な問い

そして、世界のありとあらゆる分野の歴史を調べ、世界中の仲間に変わった組織(extraordinaly)を聞いて回り、ティール理論を編みだした。

3つジャンプ:世界観・仕組みの変化
 第一の大きな変化は狩猟・採集民族から農耕民族への変化である(Agrarian)。その結果、自然はやり方次第でコントロールできるとい発想で捉えらるようになり、人(組織)のコントロールの手法も開発された。第二の変化は産業革命のパラダイムがある(Scientific/Industrial)。工業のタームで物事が語られるようになり、教育や医療の領域でもインプット/アウトプットの発想で物指が設定された。第三の変化は、新しい社会の出現である(Emerging new Society)。教育の領域では、自由に強化を選ぶことができ、多様な人種・年齢が参加し、自ら意思決定をする教育システムが表れてきた。農業の領域では、パーマカルチャー、共生農法、自然農といった、農薬や定期的な手入れが必ずしも必要ない農法が注目されている。医療の領域では、ホリスティック医療に代表される、個人の体やライフスタイル全体を重視する手法が出てきた。

 ティール理論における組織は5つのレベルに分かれている。力による支配、短期的思考によるRED組織、長期的展望に立つが意思決定は上意下達でヒエラルキーに基づくAMBER組織、イノベーションと科学には注目するものの、依然としてトップと従業員の階層は強固なORANGE組織、多様性を尊重しより権限移譲を意識したGREEN組織、ヒエラルキーが無く一人一人が自由に意思決定するTEAL組織がある。ティールのキーワードは、自主経営、全体性、存在目的である。

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「自主経営」にみるイノベーション
 ザッポス社の創業者トニー・シェイは、「都市は人が増えれば増えるほど、面白くなるのに組織はそうではないのだろうか」という問いを立てた。都市のように経営したいという想いで作られたのがザッポスである。多くの組織は、経営者が大きな木になっているが、自分は温室のオーナーのような存在になりたいと語り、1500人の組織へと成長した。

 階層構造を手放した生命体・生態系のような組織では、一人ひとりがセンサーであり続ける必要があるが、従来型組織では必ずしもそうなっていない。ティール組織であるためには、センサーである個々人の感情が重視し、意思決定においては従来の上司や会議による意思決定ではなく助言プロセスを積極的に活用している。

 インテルの意思決定を対象にした研究では、上部の意思決定よりも、集合的な叡智の方が優れた経営判断をできるという結果が出ている。オランダのビュートゾルフ・プラスの例では、患者の怪我が治癒してもその後のQLOが下がってしまう課題に取り組んだ。その際に有志よるチームを結成し、小さく事業をはじめ、ICTツールで組織内に伝播することで、ボトムアップによる新しい仕組みづくりが行われている。

「存在目的」にみるイノベーション

イノベーションとティールを結びつけるキーワード
Call(Source)  / Deepest potential / Meaningful

 Purposeはミッション・ビジョン・バリューなど表面的な目的とは異なっている。現代の企業では最大化、自己保存が目的化し、目的が人をまとめる手段として使われている。

組織の存在目的を探す問いの例
①私達はこの組織を通じて世界に何を実現したいのか
②世界は私達の組織に何を期待しているのか
③この世界は私達の組織が存在していなかったら、世界は何を失うのだろうか

 真の目的-Purpose-に奉仕して働くとは、組織のエネルギーと方向性をみて「組織は生き物として何になりたいと願っているのか」を探究することであり、組織の一人ひとりがCallに耳を傾けている状態が重要ではないかと、フレデリック・ラルーは主張している。

 存在目的の探し方に①みんなで探求する、②ソース(Source)役が存在目的を聞く、の2種類がある。卓越したプロジェクトや組織にはたった一人のソース役というのが存在し、アイディアではなくイニシアチブと取る人(=ソース役)がいる。ソースの継承は可能だが、継承には儀式が必要である。 ソース役は存在目的をクリアに聞くことができる。周囲は、廻りは初めはソース役を通じて、徐々に自分でも存在目的を聞くことができるようになる。私たちは、ソース役が活躍できる組織の土壌を作っているだろうか?

 従来型組織では、選択と集中、説明責任、再現可能性が重要であった。ティールでは、「個人から始まる物語を重視」、「否定しない」、「自然な生成・消滅」、「実験と標準化の繰り返し」が必要となり、組織の要素すべてがポテンシャルとして捉えられる。ホラクラシー理論では、PurposeをDeepest Potentialと定義し、組織が世界で持続的に表現できる最も深い創造的な可能性であるとされている。人が一人増えただけで組織の存在目的は変わってくる。その際、自分にとって、組織にとって、社会にとって「何か意味のある一歩なのか=Meaningful」を問うことによって、存在目的を問い直し続けることができる。

 ティール理論からイノベーションを考えると、自主経営や存在目的の追求を通じて、Deepest potencialを追求し、Callに耳をすまし、Meaningfulな実験を繰り返すことが重要ではないだろうか。


本荘氏講演

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 Zapposはオンライン・シューズショップからスタートした。靴はオンラインで売れないという常識を覆し、創業から10年足らずで年間売上高は1000億円に達し、2009年にはAmazonに買収された。
 
 Zapposの存在目的は「顧客と社員とコミュニティと取引先と株主のすべてに向けて、長期的かつ持続可能な方法でハピネスを提供すること」と言われているが、端的に表すと「サービスを通してワォ!を届けること」であり、熱狂的なファンを獲得してきた。マネジメント面においてはコア・バリューとの一致が最重視され、研修中に辞める人には4000ドルの退職金が支払われるとしうユニークな仕組みもある。

 2014年には、自己組織化のため、ホラクラシーの全社導入に踏み切った。階層組織からサークルにもとづく組織形態へと変化した。それにより、組織のサイロ化を解消し、自由なアイディアが生まれやすくなった。2015年にはティール組織化を宣言するが、多くの反発を招きメディアの注目を集めた。近年では、マーケット・ベースド・ダイナミクスや顧客がつくる予算編成など、新たな制度を次々に導入し、革新的なサービスを生み出している。


パネルディスカッション

パネラー:嘉村氏、本荘氏、竹林一(京都大学経営管理大学院 客員教授)、山川賢記(京都大学経営管理大学院 客員准教授)

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Q. 個人事業主の集まりとの違いは?
嘉村:一緒に何かを集団で成し遂げるという、存在目的の有無ではないか。

Q.存在目的がかなり広がっているように見えるが、ザッポスのような組織はどう対応しているのか?
本荘:ザッポスは自由な組織に見られるが、外部からの評価もあるため、結果を出せないとその手法や目的は淘汰される。当然だが、やりがいがある一方で、厳しさもある。

Q. 大学では成績、企業では業績で測られるが、ティール組織では?
嘉村:そういった指標は無くなりつつあり、存在目的を達成できているかどうかのモニタリングとフィードバックが重要である。従来は経営層がモニタリングしていたが、最近では現場レベルでの振り返りもされるようになっている。

Q. 従来型組織からティール組織にスムーズに移行するには?
嘉村:トップの判断が重要。ボトムアップで、小さな風船を膨らませるイメージで実験をはじめ賛同者を増やしていくという方法もある。①自分の中の官僚組織に気付く、②ネットワークをつくる、③マネージメントをハッキングする、というのがゲーリー・ハメルの主張である。

Q. 京都ならではの存在目的を考えるとは?
本荘:目的、存在意義を自分ごと化していることが重要ではないか
嘉村:本当に必要なことに確信を持てているかどうか。寺を例にあげれば、「今の時代に必要だ」と確信していることが重要。組織の規模に関しては、1000人以上でも十分可能である。


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