見出し画像

エフェクチュエーション -持続可能な産業デザインのための論理

開催日時:2020年6月8日 18:30-20:30
講師:吉田満梨 氏(立命館大学教授)
於:オンライン(ZOOM)

吉田満梨氏による講演

 第一回公開研究会は、日本におけるエフェクチュエーション研究の第一人者である吉田氏による講演とパネルディスカッションを行った。

画像1


 冒頭、100年前の京都の写真やKnightの3つの壺の例が示され、100年先の予測は不確実性が高く困難であるが如何にして行動すべきか、という問いが投げかけられた。そのうえで、起業家は不確実性が高い状況下でいかに行動しているかが、議論の中心的なテーマとなった。

 エフェクチュエーション概念の提唱者であるサラス・サラスバシー氏の研究では、不確実性の高い状況下において成功した起業家は共通の論理・思考プロセスに則った意思決定をしており、どのような人でも学習可能であることがわかっている。その行動様式とは以下の5つである。


手中の鳥の原則(Bird in Hand)
「目的主導」ではなく、既存の「手段主導」で何か新しいものを作る
許容可能な損失の原則(Affordable Loss)

期待利益の最大化ではなく、どこまでに損失(マイナス面)が許容可能かに基づいてコミットする
クレイジーキルトの原則(Crazy-Quilt)
コミットする意思を持つすべての関与者と交渉し、パートナーシップを気付く
レモネードの原則(Lemonade)
予期せぬ事態をさけるのではなく、むしろ偶然をテコとして活用すること
飛行機のパイロットの原則(Pilot-in-the-plane)
コントロール可能な活動に集中し、予測ではなくコントロールによって望ましい成果を帰結させる

 伝統的なマーケティングは、因果性を重視し所与の目的(結果)に対して最適な手段を選択するコーゼーション(Causation)のプロセスである。それに対し、エフェクチュエーション(Effectuation)は、「関与者の特定」「関与者の定義」「セグメントのパートナーの追加」「一つの可能な市場の定義」というステップとその繰り返しを通じて、所与の手段から有意味な結果を生み出すプロセスであり、実効性を重視しているのが特徴的である。

画像3


 手中の鳥の原則の解説では、京都企業であるオムロンや任天堂の例が示された。「私は誰かという自己認識」からスタートし、「限られた手持ちの資源と人的ネットワークの活用」、「行動を通じた資源の拡張」によって、初期のヒット商品が生み出されてきたことが紹介された。

画像2 

 許容可能な損失の原則については、①初期段階で本当に必要な資源の量を考えることで最小限の資源から始めることができる(リスクの最小化) 、②モチベーションの強弱によって許容可能な損失の大きさに違いがあり行動しないことにも機会費用がある(損失は人によって異なる)の2点がポイントである。

 3M社のポストイットと京都着物産業の事例からは、失敗や市場の変化への対応として、新たな顧客・製品の開発や製品のリポジショニングによって、その機会をプラスに転換するレモネードの原則の実践例がみてとれた。

 クレイジーキルトの原則からは、コミットメントを提供できるあらゆるステークホルダーとのパートナーシップを積極的に模索することで、外部との相互作用によって新しい資源・パートナーを継続的に追加し、新しいステークホルダーと共にプロジェクトを再形成するという、エフェクチュエーションのサイクルを回していくことが重要であることが示唆された。

 本研究会のテーマである「100年続くベンチャーが生まれ育つ都」を長期的に構想する上では、自分でコントロールできることに注力するという飛行機のパイロットの原則と、不確実な状況のなかでも偶発性に適応しそれを活用するということが、持続していく仕組みづくりのヒントになるだろう。


質疑やパネルディスカッションを通じて導き出された、エコシステムに関連する仮説

パネルディスカッション(左上より時計回り):
今庄啓二(京都大学経営管理大学院 客員教授)、吉田氏、竹林一(京都大学経営管理大学院 客員教授)、山本光世(京都大学経営管理大学院 客員教授)

画像6


①限られたリスクテイクであっても連続して行動を起こしていくことで、結果的には破壊的なイノベーションが生み出せるのではないか。

創業者や起業当時の文化が残っている企業はエフェクチュエーションが実践されているのではないか。

③大企業であっても、企業内制度によって革新的な事業やイノベーティブな経営者を生み出し続けていくことは可能なのではないか。また、人事制度によって、エフェクチュエーション的人材を増やしていくことができるか。

エフェクチュエーションの翻訳者が重要なのではないか。

⑤伝統産業においては、代替わりによって違う業界を経験し異なる知識ベースをもった人材が入社することで、イノベーションを起こし続けているのではないか。

⑥京都企業の特徴として、競合を避けるため他社と重複しない新しい分野に進出する傾向があり、それによって革新し続けているという面があるのではないか。

⑦環境が整えることで、社内ベンチャー、スピンオフベンチャーといった形で、起業家が生まれる状況を創れるのではないか。


Ⓒ京都ものづくりバレー構想の研究と推進(JOHNAN)講座, Shutaro Namiki(Licensed under CC BY NC 4.0)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?