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呪いは私の身には振りかからない

私には好きなライターさんがいる。梨さんという方だ。書いているジャンルはホラーで、オモコロやというWebサイトやnoteを中心に記事を載せている。

その梨さんが最近、初めて本を出した。『かわいそ笑』というタイトルの本だ。2000年代初期のインターネットを題材にしているので、当時2ちゃんねるなどの掲示板に夢中だった人はよりのめり込んで読むことができると思う。

当時のインターネット文化・言葉を知らない人向けの記事↓↓↓

私は梨さんの文章の特徴を知っているので、いつもより長い日数をかけて本を読み終えた。梨さんの文章は、ただ怖いと感じるだけでは無いのだ。

その恐怖はひっそりと、しかし確実に近づいて来る。最初はその気配を感じることができない。読んでいるうちに恐怖に取り込まれ、縛り付けられ、動けなくなる。辺りにはジメジメとした空気が漂い、必ず「読まなきゃよかった」と思わせられる。それでも読むことを、考えることを止められない。そんな感覚の怖さだ。

ここからは第一話〜第五話までを区切りながら感想を書いていく。

【登場人物】(一部)
・筆者…『かわいそ笑』の著者=梨さん

・洋子さん…梨さんに体験談を話しに行った女性

・りん…洋子さんのネット上の知り合い

第一話: これは横次鈴という人が体験した怪談です.docx

梨さんに体験談を話すうちに、少しずつ様子がおかしくなっていく洋子さん。

洋子さんの話の中で、「この人はいったい何を言っているんだろう」という気味の悪いことを喋っているのに、普段と変わらず喋り続けるりん。

この2人の描写が気持ち悪かった。最初は「ん?」という1つのハテナが浮かんでいるだけなのだが、だんだん「もしや…」という疑惑に変わっていく。その疑惑は晴れることなく、第二話へ続く。

第二話: behead-コピー

第二話の内容を非常にマイルドに要約して伝えるとするならば、「『こんな目に遭うくらいならオーバードーズなんて絶対にするもんか』と思わせてくれる教育掲示板」だ。

虫は得意だという人でも、第二話を読めば虫が苦手どころかトラウマになること間違いなし。

第三話:受信トレイ(15)

最初は亡くなった友人を弔う内容だったものが、だんだんと悪意のある内容に変化していく。嫌だなと思ったのは、言葉遣いが変わらず丁寧なままということだ。丁寧だからこそ、言葉の棘が鋭く光って見えるのだ。

まだ生きている人間を自分の中で死んだことにし、弔い、儀式を行うというメール送信者の人間性が恐ろしくなった。

第四話:##name1##

りんから電話がかかってきた後の洋子さんの行動は。あまりにも中途半端な『それ』を見つけたのは。そして見つけた後の一連の行動は。本当に彼女の夢の中の話なのだろうか。

彼女が勝手に「夢の中の話なんですけど」ということにしているだけかもしれない。あまりに想像しない方が良だろう。

第五話:0x00000109

私は梨さんに全てを見透かされていたのだ。もしかしたら今、私の右側に人間としての形を留めていない『何か』がいるのではないか。私は今、右側を見ることができない。今読んでいるこの文章から顔を上げてはいけない。とその時思った。

どうして私はQRコードを読み込んでしまったのだろう。どうしてあの一言をツイートしてしまったのだろう。どうして「本ページに限り無断複製、転載を認可します」と書かれたQRコードをSNSに拡散してしまったのだろう。

呪いはこの時から既に始まっていたのだ。QRコードを読み込んだ時点で、私はあの呪いに加担したのだ。私は呪われた被害者ではなく、呪った加害者なのだ。文章の中のあの5文字が私を縛りつけている。私はこの事実から目を逸らすことができない。仮に私が投稿を削除しても、謝っても、後悔しても、私があの呪いに加担したという事実は変わらない。

私は気に入った作品は何度も読み返す派だ。しかしこの本に関しては、もう二度と開くことはないだろう。

「死んだ人は『かわいそうな被害者』として化けて出ないといけないんですよ。うらめしやって化けて出てきて、生きてる時にはできなかったことをしたり、色んな人を怖がらせたりする。お岩さんの時代からそうなんですから。だからこっちも、死んだ人のことはちゃんと可哀想にしてあげなきゃ駄目でしょう」
『かわいそ笑』185ページより
かわいそ笑