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時計の電池交換してもらった。でもすぐに電池切れになってほしい。

ずいぶん前から止まったままの腕時計がありました。

それはアナログ式の地味な時計でして、決して高価な物ではなく、普通のクオーツ時計です。
おそらく電池が切れて止まっているのだと思います。

以前は電池切れになると交換してもらい、日常的に使っていた時計です。
ところがコロナ禍になり、外出禁止やら自粛やらで電池交換の機会を失っていました。

おそらく3-4年は止まったままだったと思います。

最近は出歩くことも増えまして、今まで放置していた時計をまた動かすことにしました。
時計職人さんのところに持って行き、電池交換するのです。

行き先は創業55年のメガネ屋さんで、町に根づいた老舗です。
そこでは時計の点検や、電池交換もしてくれるので、度々お世話になっているのでした。
と言っても数年に一回行く程度ですから常連とも言えず、顔は覚えられてないです。

久しぶりに訪ねると、店内の隅の方にひっそりと時計コーナーがありました。
そこには創業者でもあるマスターが構えています。
歳はおそらく70歳くらいかと。

「あのー、時計の電池見てほしいんですけど。」

というと、

「はいわかりました。時計は私の仕事です。どれどれ。」

と言ってマスターは時計を手に取りました。
もう3-4年とまったままだと伝えると、

「じゃあ開けてみましょうね。」

前に来た時は、電池交換して頂いている間にメガネコーナーを見ていました。
ですので、マスターの作業は見ていなかったのです。

ですが今回はマスターがどんな風に作業するのか見ていたかったので、時計コーナーのカウンターに座って凝視していました。

マスターは腕時計の専用工具を駆使して時計の裏蓋を開けていきます。

「おおー、慎重な手つきで安心感がある!」

声には出しませんでしたが、そう思いました。
時計からボタン電池を取り出すと、テスターで電圧を測っているようです。

「電池切れですね。まあ液漏れはしていないし、中の機械は綺麗だから問題ないと思いますよ。」

そして新しい電池を取り出して、テスターで問題ないこと確認すると時計に組み込んでくれました。
無事に時計は動き出しました。

「この時計は前に電池交換したの2016年ですね。」

えっ?なぜそんなことがわかるのだろうか⁉︎

なんとマスターは裏蓋に前回作業した日付を書いていたのでした。
2016年から3年くらい電池が持ったとして2019年に止まった。
そこからコロナになって現在2023年ですから3-4年止まったまま、、、計算は合っています。

マスターさすがですね。

私が関心しているとマスターが少し昔話をしてくれました。

ショーケースには幾つかの古い時計が入っていたのですが、それぞれがどのような経緯でここにあるのか。

以前の持ち主はどんな方々だったのか。
粋な芸者さんの話や、戦後からの復興時代の話を聞かせてくれました。

色々なドラマを聞かせてくれたのですが、お店の仕事もあるでしょうし、邪魔をしても申し訳ないので話の続きはまた電池切れになった時にでも。

そう思って支払いをしようとしたら、

「昔話に付き合ってくれたから。」

と言って料金をまけてくれました。
いやいや、マスター逆です。
こちらが多く支払ってもいいくらい面白い話でした。

私が遠慮してもマスターは「いいからいいから」と。

結局お言葉に甘えてしまいました。

また電池が切れるのは2-3年後のはずです。

・・・早く電池切れないかな。

文+イラスト : ケーモティック

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