見出し画像

researchmapについて思うところ

最近なぜかresearchmapに関してのつぶやきが話題になっていました。

researchmapは業績管理ツールとしてはかなり便利で、僕も作っています
tayoを運営していく上でかなりresearchmapに関しては色々と考えたので、この機会にresearchmapに関する僕の考えをまとめておきます。

やりたかったことは分かるが、設計と運用がちぐはぐ?

まずresearchmapはJSTが運営し、国立情報学研究所が開発しています。
人工知能「東ロボくん」などで知られる新井 紀子先生が主導して開発を行なっているのはご存じの方も多いのでは。

researchmapは2009年にリリースされているので、13年も続く由緒あるwebサービスとも言えます。

この2009年というのが結構ポイントだと思っていて、2012年にはORCIDという「研究者の業績管理サービスのグローバルスタンダード」というべきサービスがリリースされます。

なので、サービスの開発は早く、非常に先見の明があった一方、後発のサービスでグローバルなものが作られてしまった形です。おそらく先にORCIDが発表され、ある程度のユーザーが付いていれば、researchmapはそもそも開発されていなかったようにも思います。

researchmap側の対応は早く、ORCIDとの連携機能を2013年にリリースしており、「ORCIDで業績管理をすればresearchmapに簡単に取り込めるよ!」という対応を取ります。

しかしこの時点で、「ORCIDで業績管理しているのにresearchmapにわざわざ業績を登録する意味とは?」という問題が生じます。

これに対する答えは分野によって様々です。ORCIDはグローバルなサービスゆえ国内学会での発表や日本語での書籍などの管理には向かず、人文社会型の研究者にはむしろresearchmapが好まれるようです。

一方、ORCIDやGoogle Scholarで充分だと考える理系分野の研究者からすれば、「科研費申請の時に作っておかないと不利という噂があるから更新めんどいけど作っている」という、誰も幸せにならない状況を生んでいます。

これはおそらくresearchmap側も想定しており、「研究者の仕事を増やさないように基本的に大学や研究機関が管理する想定」で研究者データを管理できるAPIを公開しています。

なので本来は「日本全国の大学や研究機関とシステム的に連携し、研究者は動かなくとも大学や事務側で業績を管理してくれる」ことを想定して作られています。

しかしここにも、「全然そんな運用ができていない」という致命的な問題があります。僕の前職は文科省系の国立の研究機関ということでresearchmapの連携が最も強固に取れていないとおかしい組織ですが、「事務の人に報告した受賞歴が僕のresearchmapに追加されている」なんてことはなく、研究者の手動更新が基本でした(僕のチームだけかも知れません)。

新井先生のブログでもこの問題に関しては言及されています。が、恐らく「API公開したらそれだけでかなりの大学が使ってくれてハッピー」になるはずだったのが思ったより導入が進まず、その導入が進まない理由を純粋にエンジニアリングの問題として捉えておられる印象です。しかし、どちらかというとこの課題を解決する方法は運営側にあると思います。

本来であれば運営側のJSTにこのプロジェクトを推し進める強力なリーダーが居て、新井先生とCEO / CTOのような体制で「運営」と「開発」を密結合させて進めるのが理想かと思うのですが、なんとなく外からは「国立情報学研究所が開発したものの運営をJSTに任せている」ような体制に見えてしまいます(新井先生が目立つからかもですが)。技術者・研究者主体でwebプラットフォームを運営しているという体制が、導入の進まない本質的な背景になっている気がしています。

科研費を人質に取るのはやめた方がいいのでは

科研費の審査する側のペインとして「審査する側の業績を知りたい」というのがあるのはわかるのですが、明示的に「科研費取りたければresearchmap」作れよ!」という運用にしているのは悪手なのではないかと思います。

JSTの資料

理由としてはORCIDで管理している人からすると二度手間ですし、そもそも国際的に活躍する研究者を増やすためにはORCIDの利用が進んだ方がいいと思うので国産のプラットフォームを推す意味があんまりないからです。

また、2009年当時はともかく、今ではGoogle ScholarもORCIDもWeb of Scienceもある中でわざわざ血税を使って国産のwebサービスを作り、公的資金を背景に利用を強要するという方針があんまりいけてない気がします。

僕ならどうするか

とか色々言いつつ、なんだかんだ業績管理ツールとしてはresearchmapは便利だと思っています。
ただコミュニティ機能ブログ機能みたいなSNSっぽい機能を国産のプラットフォームで作るのは結構大変だと思うので辞めた方がいいと思いつつ、ちゃんと作れればそれはそれで便利だと思ったりもします。

とか思ったので、僕らは僕らでresearchmapを作りました。

現状では、「おしゃれ」「編集/更新が簡単」ぐらいしかresearchmapに勝てるところはありませんが、民間企業としてのフットワークの軽さを活かしてresearchmapとしてはあんまり達成できなかったSNS寄りの機能を充実させていきたいと思っております。

researchmapとはよしなに連携したいのですが、現状では民間企業にはAPIのアクセスを公開していない(というか所属研究者に関するデータにしかアクセス権がない)ようなのでいつかAPIのアクセス方針に関しても考え直していただけると大変ありがたいです。

あと、論文取得の名寄せのAIはマジですごいと思っているのでオープンソースで公開してくれると嬉しいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?