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台詞の情報ウェイトを整理する

 以前、こんなnoteを書いたことがある。

 この時、台詞に感情以外の要素が入ってくるという話にも触れた。
 時間とか、場所とか、状況とか。発話する登場人物周辺の事情たち。
 
 しかし今回は、感情でも事情でもない、新たな要素。台詞の発話ならではの「情報ウェイト」のお話。

情報ウェイトとは

 例として、こんなセリフを用意した。

私が今日からあなたの先生です。

 この台詞にどんな感情を込めて言うかとか、このキャラクターはどんな喋り方をするかとか、そう言ったことは今回の記事では一切触れない。あくまで「この台詞の中で一番情報として重要な部分はどこか」=情報ウェイトが高いか、という分析のみおこなう。

  • 私が →「私」

  • 今日から →「今日」

  • あなたの →「あなた」

  • 先生です。→「先生」

 例文の台詞を文節で分割し、コアになる言葉を抜き出す。コアになりやすいのはある程度多面的な意味を持つ言葉なので名詞・形容詞・形容動詞あたりが対象。
 この中で、一番情報ウェイトが高い言葉はどれだろう。

 答えは、不明です。分かりません。

情報ウェイトは前後の文脈次第

 だって、脚本の前後の文脈が何もわからないのだから。この例文だけで答えが分かるはずがない。

「私が今日からあなたの先生です」この台詞だけとっても、

 直前の台詞で別の人物が「先公ってのはどこのどいつだ、連れてこい」と私に怒鳴っていたりしたら「が今日からあなたの先生です」と、「どいつだ」と「私が」の対比を効かせたくなるだろう。
 一方、もし手前のシーンで時期やタイミングについて話しているような会話があるならば、「私が今日からあなたの先生です」と、今日この瞬間からであることを強調したほうが物語が整理される。
 私が何者なのか、と言う点が重要であれば「先生です」を強調すべきだし、先生がクラスの担任だと思っていたら実は専属の家庭教師だったというフリオチの構造なら「あなたの」が一番重要だ。

 このように、情報ウェイトはひとつひとつの台詞だけを抜き取ってみても分からないことがほとんどだ。それぞれのシーンが、どんな情報を観客に提示し、明らかにするためのものなのか、シーンの目的を掴んでからでないと台詞の情報ウェイトは分からない。

 脚本家が書く台詞に、意味のない台詞はひとつとして存在しない。
 しかし、それぞれの存在意義はまちまちだ。

 伏線を張る・あるいはそれを回収するためのもの、前提となる世界観や状況を説明するためのもの、人間関係を説明するもの、役の感情や考え方を表すもの、作風を強化するためにフレーバーとして添えられたもの……。
 それらの情報ウェイトを整理して、発話の強弱をつけることで物語に緩急を生むことができる。

 たとえば大きな声で「ふざけるなよ」と怒鳴るような台詞。これには発話する登場人物が怒りの感情を持っていることさえ分かればよく「ふざけるなよ」という言葉自体の情報ウェイトは低いことが多い(前述した通り、台詞単体でウェイトは判断できないのだが)
 となると、仮に発話が「ざけんなよ」に崩れても、強い怒りの演技を優先してほしいという演出家もいるだろう。
 反対に「お前が俺の両親を殺したから、俺は復讐したんだ」と言うような台詞があったとする。これが仮に前後の文脈で犯人が動機を初めて告白するような台詞だった場合、何を言っているのか聞き取りづらいのでは、いくら上手に怒れたってよろしくない。怒りの演技もしつつ、しっかりと内容も聞き取れるように演技することが、この台詞を担う俳優には求められる。

 自分が俳優をするときは、自分の台詞に「物語初出の単語」があるかどうかを必ずチェックするようにしている。物語に何度も登場する重要な単語。
 ちょっと強調するだけではなく、いかにも大事な言葉ですよ感を出しておくのだ。覚えておいてね、という観客へのアピールである。

強調の仕方

 情報ウェイトの高い箇所をどのように強調するか。要は、他と違った発話をすればいいだけである。
 他の台詞より、大きい声で言ったり、反対に小さくしてみたり。あるいはテンポを変えてみたり、間を開けてみたり。音の高低を変えてみたり。
 いつも感情の表現で使っている引き出しを割り当てればいいだけだ。しかも、いきなり全部駆使する必要もなくて、まずは自分が一番自由に駆使できる得意な技術だけで充分である。

 このあたりは、色んな方が様々なノウハウを共有しているので私の記事では割愛するが、以前個人のnoteで音の高低について触れたので展開。

 情報ウェイトを整理して台詞を言えるようになると、「あの人の台詞は分かりやすいね」「すっと入ってくるね」と言われるようになるはずです。
 一緒に頑張りましょう。ワーッ。

獣の仕業 The Out of Beast 2023
「改作・日本文學」

文豪たちの古き良き作品を選りすぐり、我々烏滸がましくも少々手を加え、 仕立てましたは輝かしい名作の影のごとき四つの短編たち。
名付けて「改作・日本文學」

残暑の季節にお誂え向きな、仄暗く香り立つ文學オムニバス。

日時

2023年9月15日(金)~9月17日(日)

9/15(金) 20:00
9/16(土) 14:00/17:00/20:00
9/17(日) 14:00/17:00※

  • 上演時間:約70分

  • 受付開始・開場は開演30分前

  • ※9/17(日)17:00回:生配信+配信アーカイブ収録回

チケット予約

【劇場での観劇予約(1ドリンク付き)】

劇場チケット:2,500円
劇場+紙脚本付チケット:3,000円

  • チケット予約開始:7/28(金)20:00

  • 前売・当日同料金

  • 本公演二回目以降のご観劇から1,000円引き※要予約

  • 未就学児童入場不可

【配信での観劇購入(生配信+アーカイブ視聴)】

配信チケット:2,300円
配信+脚本データ付チケット:2,800円

  • 販売期間:7/28(金)20:00~10/16(月)23:59

  • 配信期間:9/17(日)17:00~10/17(火)23:59

  • 応援キャスト指定でのご予約をご希望の方は「備考」欄へのご記入をお願いいたします

演目紹介

脚色・演出:立夏

「待つ」

作:小林龍二 原作:太宰治
出演:手塚優希 雑賀玲衣

その小さい駅。省線の改札口で女は、待つ。
初出1942年6月。戦争が始まった半年後、太宰治はこの「待つ」を世に出した。
これは「女」の独白だが、二人芝居でもあり役者二人が演じる独白でもある。
─いったい、わたしは、誰を待っているのだろう─

「ごんぎつね」

作:きえる 原作:新美南吉
出演:きえる 小林龍二

「おやすみなさい、お月さん」
月に語りかけるひとりぼっちのこぎつね、ごんと、母を亡くしひとりぼっちになった男、兵十。
ごんの無邪気ないたずらからはじまる、一人と一匹の物語。

「藪の中×歯車」

作:雑賀玲衣 原作:芥川龍之介
出演:小林龍二 手塚優希 雑賀玲衣

雨の降る夏の夜、作家Aはタクシーに乗る。運転手はふいに、一年前に石神井公園で起きたある殺人事件のことを口にする。ポツリポツリと……。
「目撃者は何人もいるのに、証言が不思議と食い違う」
そうして運転手は、事件の夜に乗せたというひとりの男の話を語り出した。

「約束」

作:立夏 原作:夢野久作 演出補佐:小林龍二
出演:立夏

ある人は、橋の下で待っていた。
「日暮れ前にこの橋の下で会おう」と約束をしたからだ。
しかし日は暮れ、小さく雨まで降りだした。それでもその人は橋の下から動こうとしない。
約束をしたのだ。約束は、果たされなければならないから……。

会場

レンタルスペース+カフェ「兎亭」
練馬区旭丘1-46-12エイケツビルB1

  • 西武池袋線「江古田」駅より徒歩7分

  • 都営大江戸線「新江古田」駅より徒歩13分

  • 駐車・駐輪はできません。駐車は近くのコインパーキングへ、駐輪は江古田駅近くの公営駐輪場へ(地図参照)お願いいたします

スタッフ

  • 舞台監督:小林龍二

  • 照明プランニング:手塚優希

  • 音響プランニング:立夏

  • 撮影・配信:U-3

  • 衣装スタイリング:きえる

  • 写真撮影:加藤春日

  • 制作:手塚優希


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