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株主総会「出席」か「傍聴」か? ~関西スーパー事件を題材に①

関西スーパーとオーケーストアの係争(関西スーパー事件)は、総会での議決権行使に関する題材が沢山含まれており、大変興味深い事例となりました。裁判所のウェブサイトに、オーケー側の差止仮処分を認めた神戸地裁の決定を覆し、会社側の主張を認めた大阪高裁の決定文がアップされましたので、この決定文を素材として、実務家の視点で、個々のトピックについて考えてみようと思います。

今回は、株主総会の「出席」と「傍聴」に関する問題について、コメントしたいと思います。

本件株主の議決権行使

報道のとおり、本件の係争は、関西スーパーの大口株主(本件株主)が、事前に委任状を提出して議決権行使をしたにもかかわらず、総会当日、総会に出席して議決権行使を行ったことが発端となっています。この事前の委任状提出については、高裁決定でも以下のとおり認定されています。

本件株主は,同月22日付けで,本件招集通知に同封されていた議決権行使書と委任状が一体となった書面を使用して,委任状及び議決権行使書の各賛否表示欄の本件議案を含めた全ての議案の賛成欄に「○」印を記載し,委任先の記入はせずに,代表者であるDの署名及び代表者印による押印がされた書面を作成の上,委任状と議決権行使書を切り離さない状態で,抗告人に郵送した。

決定文5頁より(※本件株主=大口の株主、抗告人=会社(関西スーパー))

会社側の本件臨時株主総会の招集通知5頁に、事前の議決権行使に関する案内が掲載されています。ここでは「委任状による議決権行使」と整理されて、会社法上の議決権行使書面と切り離さずに、会社側に送付するよう呼びかけがされています。本件株主は、この案内に従って、委任状及び議決権行使書を会社に送付したようです。

関西スーパー・臨時株主総会の招集通知5頁より抜粋

傍聴希望と担当者の混乱

本件株主総会は、世間の関心も高く、本件株主も総会の様子をぜひ現場で見たい、と考えたようです。しかしながら、既に事前に委任状及び議決権行使書は提出済みのため、「出席」ではなく「傍聴」であれば良いのでないかと考えたようです。

本件株主は,同月27日,抗告人に対し,事前に委任状を提出するが,本件総会の議事の傍聴を希望する旨連絡した。

決定文4頁より

ところが、この辺りから少しずつ、混乱が生じ始めます。

Bは,受付担当者から,事前の連絡どおり傍聴する意向かを聞かれたが,傍聴の場合は別室でモニター越しに見ることになると思い,会場で直に議長や役員の受け答えを聞きたかったことから,受付担当者に対し,傍聴ではなく出席したいと述べた。

決定文5頁より(※B=本件株主の代表取締役副社長で、実際に総会に出席した担当者)

本件株主の出席者(Bさん)が実際に混乱した点ですが、実は、株主総会の「出席」と「傍聴」については、実務上も取扱いに曖昧さがあるところです。

総会出席者は株主に限られる(原則)

株主総会は、株主によって構成される会議体ですから、株主以外の出席は認められません。これが原則です。

定款上、出席する代理人を株主に限る、という条項がある場合が多いかと思いますが、同条項も、株主以外の者は出席不可であることを前提としています。また、同条項を巡っては代理人弁護士の出席を認めるかといった点を巡る裁判例があるところです。

ただ、ここでいう「出席」が、株主総会の議事に参加して議決権を行使することを意味するのか、単に、総会の議場内に立ち入ることを意味するのか、その点を区別した議論ではなかったように思います。むしろ、会社側の立場から、総会の混乱を防止するため、部外者の立ち入りを認めない、すなわち後者の意味での「出席」の可否が議論されていたように思います。

総会議場内での傍聴の可否

では、議事には参加しないし、議決権も行使しない「傍聴人」の存在は許されるのではないか、というのが次の問題です。この点は、

  • 議場内で出席者と傍聴人をどう区別するのか

  • 一部の者にのみ傍聴を許すことが恣意的ではないのか

  • 仮に、傍聴人が発言して議事に影響した場合、株主以外の者が参加したとして、株主総会の決議取消事由を構成するおそれがあるのではないか

といった問題点も指摘されるところです。

以前は、株主総会を外部に公開するという考え方もあまりなく、出席者の限定を比較的厳格に考えており、議場に臨場する形での傍聴は認めるべきではない、という見解の人が多かったように思います。これはどちらかというと会社防衛側からの立論という面もありましたが、今や総会屋が跋扈する時代も過ぎ去っており、議事に影響が生じないのであれば、議長の議事整理権の範囲で傍聴人の存在を認めることは差し支えないと私は考えます。

本件においても、決定文の以下の箇所を見ると、傍聴人の存在を一定範囲で認めていたようです。

抗告人は,事前に傍聴したい旨の連絡を受けた複数名の法人株主に対し,傍聴の意向を確認し,出席の意向を表明した来場者には,本件投票用紙と筆記具が同包されている「株主出席票」を交付し,傍聴の意向を表明した来場者には株主出席票を交付せず,「関係者」と記載されたプレートのついたネックストラップを交付した。

決定文、5頁

「別室傍聴」プラクティス

本件株主の担当者(Bさん)は、「傍聴の場合は別室でモニター越しに見ることになる」と思ったとのことですが、この「別室傍聴」プラクティスはあまり本にも書かれておらず、かなり実務的な取扱いですので、知らないと背景が理解しにくいかもしれません。

このプラクティスは、文字どおり、総会会場に来場しつつ、傍聴を希望する関係者用に用意された会場内の別室でモニター越しに総会の中継を見る、といった取扱いです。その背景には、前述のとおり、傍聴人も含めて、総会内に株主以外の者が立ち入ることを許容しない厳格な考え方があります。

ここで「傍聴を希望する関係者」がどういった存在か、ということについてイメージが湧かないかもしれません。典型的には、取引先の金融機関なのですが、委任状を提出した大口の株主の場合もあり、両者がイコールだったりもするわけです。そして、何故このような大口の株主が議場ではなく別室で中継を観ているかというと、比較的会社に近い存在であるため、会社に対して包括的に権限を委任する(委任状を提出する)ことに協力してもらえるからです。これらの株主は議場に入って普通に出席すれば良いではないかとも思えますが、各株主ごとに保有する議決権数が異なるので、議場内で各株主の議決権数を個別にカウントするのは大変です。そこで、会社か協力株主にあらかじめ委任状を出してもらっておけば、会社側としては、その株主の分についてあらかじめ計算に入れることができ、万が一、議場において手続的動議が提出されても、スムーズに対応することができる、ということになります。

以上のような背景の下、委任状を提出してもらうものの、議場内に傍聴人は入れない建前である以上、議場には入れられない、一方で総会の議場の様子は見てもらいたいので、別室でモニター越しに傍聴してもらう、というプラクティスが成立したわけです。本件株主の担当者(Bさん)は、過去にこのようなプラクティスに触れられていたのではないかと推察します。

もっとも、最近は、インターネットで議事の様子を公開することも増えていますし、ハイブリッド型バーチャル株主総会も一般的なものとなりました。したがって、わざわざ会場にまで行って別室でモニターを観る、という必要性がほぼなくなってきているかもしれません。

なお、前述のとおり、本件では、傍聴人にも議場への入場を認めていたようです。本件株主のBさんが最初から「関係者」(傍聴人)として入場しておけば問題は生じなかったようにも思いますが、このような取扱いがあることが大口の株主である本件株主に伝わっていなかったとすれば、やや事前の連絡が不足していたという面はあるかもしれません。

つづく

以上、総会の傍聴に関する話題についてまとめてみましたが、初回なので長くなってしまいました。メールでも、Twitterでも、ご意見、ご感想などお寄せいただけますと嬉しく思います。

なお、委任状争奪戦に関する記事については、以下もご参照ください(少しだけですが)。

次回は、職務代行通知書(従業員の代理人資格)について、少し考えてみようと思います。

(続く)

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