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遺言書を書いてくださいと頼む時に考えること

貴生(たかお)は母親の佳子(よしこ)が一人で住む実家に向かっていた。

7月の初旬の汗ばむ陽気の昼下がり、実家の最寄り駅に着いた。

途中まで妻と子供も一緒に来ていたがターミナル駅で降りた妻と子供は、予定していた水族館へ遊びに行った。
もともと、そのようにスケジュールを取って貴生は母親と二人で今後のことについて話をするつもりでいた。

父親の忠司(ただし)が亡くなってもう3年が経つ。

母親も元気だけどもう74歳だ。

いまは一人暮らしが出来ているが、そのうち病気になったり、痴呆症になったり、介護が必要になったりする日が来ることを想定して対策を練っておかなくてはならない。

もちろん、いつまでも元気な母親で居て欲しいという想いはあるが、それは希望的観測であって現実的ではない。

だからこそ、今から対策を練らなくては…と考えているのだけど、何から手をつけていけばいいか、事前に知識は入れておいたが、貴生は仕事で相続に関わったことなど無いし、そういった資格等も持っていない。

付け焼き刃的な知識がどれだけ役に立つか分からないが、いきなり相続の専門家に依頼して手伝ってもらうのも違うと思っている。

まずは、自らが着手出来るところから始めてみて、その上で専門家のちからを借りられたらと考えている。

実家の玄関に入り、リビングルームで母親の入れてくれた日本茶を飲みながら、貴生はどのタイミングで切り出そうか考えていた。




相続ついては子供から切り出すと話が早いケースが多い

「遺言書を書いてください。」

このメッセージを伝えるためには工夫が求められます。

このメッセージを子供が親に単刀直入に伝えてしまうと、親はこんな風に思うのではないでしょうか?

「わたしが死ぬのを待っているの!」

そこまで反応的ではないとしても、いい気がしない人も少なくありません。
多くの人は、病気で入院したりしているケースを別にして自分が死ぬことはあまり考えないものです。
特に、日本人の死生観はどこか楽観的な側面があります。

今は人生100年の時代だと言われていますので、70歳でもまだまだ現役でバリバリ働いている人も少なくありません。
先日、ネットニュースで80歳でハンバーガー店で元気に働いているご老人の記事を読みました。

そんな、“これからも20年、30年、もっと長く生きよう!”とポジティブな気持ちを持っている人に対して“遺言書”といったキーワードはどこか“死”を連想させるものです。

子供が、“ 親に遺言書を書いてもらっておかないと、後で困る ”と考えるケースでは、だいたいがこのようなケースです。

何故なら、親自身が自らの死生観に基づいて、死後のことを真剣に考えているのであれば、既に遺言書を書いて、子供にその場所や今後のことについて話し合いをしているはずだからです。

では、どのように切り出せばスムーズにいくのか?

ニュアンスを変える


“遺言書”を中心に持ってくることで摩擦が生じるようであれば、例えば、“ エンディングノート ”を書いてもらうことです。
良くないのは、親が死ぬのを待っているような雰囲気を出すことで、そこはリフレーミングして、つまり物事の枠組みを替えてしまって、ポジティブなテーマを持ってくるのです。

提案したい表現は「未来ノート」や「ライフプラン」、「人生計画書」などです。

これらはいわば、この先のライフプランで、例えば80歳まで生きた時、90歳まで生きた時、100歳まで生きた時、110歳まで生きる、120歳まで生きた時、130歳まで生きた時…

それぞれのケースで親と子供がどのように関わり合いを持っていくか、介護のことや財産のことだけではなく、旅行に行くとか、お祝いをするとか、そういったイベント事をピックアップしていき、その中に相続や遺言書を織り交ぜていくわけです。

先に自分自身のライフプランを提案する


のエンディングノート、ライフプランを組み立ていく前に、まずは子ども自身のエンディングノート、ライフプランを組み立ていくことで、親自身も組み立て安くなります。

どんなケースでも、何かに着手しようとした時、それが初めてのことであれば、“ 上手く出来なかったらどうしよう… ”といった気持ちになって気後れしたり、やり方がイマイチよく理解出来ずに、やりたくなくなったりするものです。

ですから、まずは先に子ども自身がエンディングノートを書いたり、これから先のライフプランを組み立てみることです。

その上で、そうやって組み立た自身のライフプランを親に見せながら、それをお手本にしてもらって、親のエンディングノート、ライフプランを組み立てもらって、そして遺言書につなげていくのが理想的な流れだと思います。

相続で受け取るであろう財産は親が稼いだもの


よく、相続トラブルで揉めている時、

「わたしがもらう分が少ない」
「親の介護を頑張ったのに見返りが無い」

といった、フレーズを聞きます。

でも、そういったことを言っている人たちはある重要なことを忘れています。

それは親が亡くなって、相続することになった財産は親が生前稼いだものです。
いくら相続で受け取る権利があるといっても、原資は親の努力だということです。

遺言書を書いてもらう時、トラブルに発展しないように平等に分けてもらうようなことを言う人も少なくありませんが、遺言書を書いてもらっている時点で、親の財産を誰にどのように配分するかは、親の一存で決めてもらうことが大前提にあるということを忘れてはなりません。

死後、もらう権利があるから少しでも多くもらいたいというのは、人の本性として理解出来ますが、親の財産を引き継いだ時、親にその財産はどのように使ってもらいたいか?を遺言書を書いてもらう時に確認しておくのがいいでしょう。

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三茶萬相談:https://sanchay.jp/


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