パンダのプンダ、旅に出る その5
第5話「パンダのプンダ、シマウマに出会う」(全10話)
「わっ、わわぁ! シロクマだ!」
ほら穴の中で、さみしくなっていたプンダですが、その声にびっくりして思わず飛び上がってしまいました。
「えっえっ、シロクマどこ……?」とプンダは辺りを見回します。もちろんシロクマというのはプンダのことで、ほら穴にはシロクマはいません。でもそこにはシロクマの代わりに、1匹のシマウマがいました。
ほら穴の奥にどうやらシマウマがいるようでした。プンダ同様、雨宿りのためにほら穴に隠れていたのでしょう。薄暗くってわかりにくいですけれど、彼は見事な縞模様でした。
シマウマは、ビクビクと震えながら後ずさりをします。しかしシマウマは奥の方にいるものですから、逃げ道なんてありません。
「あわわわ、どうしてこんなことになったんだ、俺がどんな悪いことをしちまったっていうんだい、ああ神様ぁ……!」
シマウマはぶつぶつぶつぶつ呟くものですから、プンダはようやく彼が自分を恐れているのだということに気がつきました。なにしろ、今のプンダはシロクマなのですから。
「怖がらないで良いよ、ボクはホントはパンダなんだよぉ」
と、プンダは言いました。
するとシマウマは、「え、それは本当かい……?」とおそるおそる尋ねました。プンダはうなずくと、これまでの旅のあらましをシマウマに語り聞かせました。
といってもプンダはプンダですので、説明は苦手です。うんと時間が経って、ようやく外の雨が小降りになり出した頃、プンダの説明は終わりました。
「ええっと、つまりキミは黒い模様を探して旅に出てるってことかい?」
簡単にシマウマは要約してしまいましたので、なんだかプンダは悔しく思いました。しかし、これでどうやらシマウマは納得してくれたようで、プンダの側へ近づいてきました。
「俺の名前はゼブリっていうんだ。シマウマのゼブリ。よろしくな」
と、シマウマのゼブリは右前足を出しました。立派なひづめにプンダは感動しました。
「ボクはプンダ。パンダのプンダだよぉ。よろしくね」
それからプンダも右手を出すと、ふたりは握手を交しました。
「しっかし、模様をなくすたぁプンダも大変だな。俺も俺で黒模様がある馬だけど、そんなやつは聞いたことがないぞ」
とゼブリは言います。
やっぱり、模様がなくなるということは、とても珍しいことのようでした。プンダは少し困りました。
「ただなぁ――」とゼブリは言います。「俺の縞でよければ、プンダにやるよ」
「えっ?!」
なんということでしょう。ゼブリは自分の縞模様をプンダにあげると言いました。それができるのであれば、プンダはパンダに戻れるかもしれません。誰かからもらうのであれば、その模様は雨では落ちないでしょう。
プンダは「わーい!」と喜びます。これでパンダに戻れます。
でも、どうしてゼブリがそんなことを言ったのか、プンダにはよくわかりませんでした。
するとゼブリは言います。
「やっぱりさ、シマウマよりは白馬の方がかっこいいだろ」
かっこいい――たしかにそうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。プンダにはよくわかりませんでしたが、とりあえずうんうん頷きます。
「じつは俺、好きな子がいて、その子にフラれちゃったんだ。その子が言うには、白馬の方がかっこいいんだってさ……。だから、俺……」
ゼブリは言いながらどんどん暗くなりました。でも、プンダにはどうして彼が落ち込んでいるのか理解できませんでした。プンダも兄のピンダや、弟のペンダ、妹のポンダは好きですが、自分がかっこよくなければいけないということは考えたこともありません。
しかしゼブリは実際に落ち込んでいますから、プンダは慌てて「それじゃあボクにその黒模様をちょうだい。そうすれば、みんなしあわせだよ!」と言いました。
「うん、そうだな!」
ゼブリはやっと明るくなったので、プンダも嬉しくなりました。ふたりで笑い合って、すこしだけ動物ダンスを踊り合いました。踊っているうちに身体がぽかぽかし出しました。そして再び笑いますと、そこでゼブリは言いました。
「……それでプンダ、どうやって模様をあげるんだ……?」
プンダは「知らない」と答えました。
「え……?」とゼブリ。
「え……?」とプンダ。
「……」
「……」
それからふたりは長い間、黙り続けました。
ほら穴の外では雨が止んでいました。
(第5話 おわり)
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