パンダのプンダ、旅に出る その6

第6話「パンダのプンダ、シロクマに出会う」(全10話)

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 ゼブリはプンダに手を振ります。

「じゃあなプンダ、パンダにもどるためにがんばれよ」

 プンダもまた、手を振ります。

「ゼブリも、うん、がんばってねぇ」

 プンダはまだシロクマです。シマウマのゼブリから黒い模様をもらうという作戦は、けっきょく成功しませんでした。誰かからどうやったら模様をもらえるのか、そういえばプンダはまったくわからないのでした。こういうときこそ、兄のピンダがいてくれたらどれほど助かったことでしょう。

 いつまでもほら穴にいるわけにもいかず、雨も止んだことですし、二人は穴から出るとお別れを言い合いました。

 プンダとしては、森の外で出来た初めての友達でしたから、本当は別れたくありませんでした。でも、プンダは黒い模様を求めて旅をしなきゃいけませんし、ゼブリは恋をしていますから、お別れが必要でした。

 プンダは一生懸命に手を振ります。ゼブリも一生懸命に手を振ってくれました。プンダは、うれしいような、かなしいような、よくわからない気分になりました。

 雨上がりの空は、キラキラ輝いているように思いました。

 そしてあれから30分が経ちました。プンダはのそのそ歩いていますが、運動の苦手なプンダはすぐに疲れてしまいます。あっちの木陰、こっちの木陰というふうに、休み休み歩いていました。でもプンダには、どこへ向かえば良いのかなんてわかりませんでした。とりあえず歩いていました。

 そしてまた、近くの木陰に座り込みました。

「ああ、ボクの模様はどこにいったんだろぉ」

 先ほどの雨で出来た水たまりにはプンダが映っていました。黒い模様なんてない、正真正銘のシロクマです。

 プンダは顔を上げてため息をつくと、そこにもシロクマがいます。「雨ってすごいなぁ、色んなところに自分の顔が映るんだなぁ」とプンダは思いますけれど、どうもそのシロクマは、プンダに比べて凛々しいように思いました。

「おうおう、こんなところでどうした。暑すぎてへばっちまったかぁ?」

 シロクマは、プンダに話しかけました。

 プンダは驚いて「ぬ!」と叫びます。どうやらシロクマは、何かに映ったプンダではなくて、本当のシロクマのようでした。

「あ、あ、え?」プンダはしどろもどろです。

「どうしたよ小僧、たいそうびっくりしてるようじゃねぇか」

 シロクマは近づいてくると、プンダの顔をのぞき込みました。

 初めてシロクマを見ました。シロクマはパンダのようですが、とても怖い動物だとピンダから教えられていましたから、プンダは思わずおしっこを漏らしそうになりました。

「俺の名前はロクマってんだ。お前さんは?」

 シロクマのロクマはプンダに尋ねます。

「ボ、ボクは、プンダだよぉ……」

 プンダは震え声で答えました。ロクマはそれを聞くと、首を傾げて「変な名前だなぁ」と呟きました。そしてロクマは何かをもしゃもしゃと食べていました。

「ん、ああこれか? お前も食べるか?」

 と、ロクマはプンダにそれを手渡します。

 どうやらそれは昆布のようでした。しかしずっと森で暮らしていたプンダにはそれが何かよくわかりません。少しだけかじってみますと「しょっぱい!」と言って吐きだしてしまいました。

 ロクマは「そうかそうか、舌に合わねぇか」と笑うと、プンダから昆布をもらってひとくちでぺろりと食べてしまいました。

「でよぉ、プンダ。お前さんはここで何してんだ?」とロクマは聞きました。

 プンダは意を決して、

「ボ、ボボボボ、ボクは、ほ、本当はパンダ! なんだよぉ!」

 と言いました。

 するとロクマはきょとんとします。口から昆布が落ちました。

 それからプンダは、自分が本当はパンダで、でもある日突然模様がなくなっていたことを話しました。さすがにこれを話すのは二度目なので、少しは話すのが上手になったような気もしました。

「だからボクは、シロクマじゃないんだよぉ。でも食べないでぇ……!」

 今にも泣き出しそうなプンダです。うずくまって小さくなります。こわごわとロクマを見てみますと、彼は腕組みをして「うう~ん」と言っていました。プンダは「食べられちゃう!」と思いました。

 しかしロクマは、「これも縁かもな」と言うのでした。

「え?」プンダは顔を上げました。

 ロクマは腕組みを解くと、言いました。

「俺が住んでいたところでな、ある日突然パンダになっちまったシロクマがいたんだよ」

「そ、それって……」

 プンダが尋ねますと、ロクマは頷きます。


「ああ、”北極”だよ」

(第6話 おわり)

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