パンダのプンダ、旅に出る その4

第4話「パンダのプンダ、さみしくなる」(全10話)

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 泥んこでパンダの模様を描いたプンダは、もう意気揚々、帰ったら何をしようかと考えています。笹を食べ、笹を食べ、そして笹に囲まれてお昼寝をしても良いかもしれません。プンダは嬉しくなってスキップをしました。

 さて、あとはもう帰るだけです。

 笹のない世界にはもうおさらばです。なぜなら、プンダはもうパンダに戻れたのですから。兄弟との約束を果たし、無事に黒い模様を取り返しました。

 おや、プンダは何かを考え込みました。もしかすると、自分のしたことは卑怯だ、などと考えているのでしょうか。しかしどうやら、それは違うようです。

「あぁ、今帰ったらお弁当がもったいないや」

 プンダはそう言うと、どってり座り込んで、カバンからお弁当を取り出しました。やっぱりプンダにとって一番大切なのは食べ物のようでした。

 妹のポンダ特製お弁当です。おいしくないわけがありません。その中にはプンダが想像していた通り、笹おにぎりと笹スパゲッティ、そして笹の笹巻きまで入っているではありませんか! これは思わずプンダも「すごいやぁ」と言ってしまいます。

 プンダはじゅるりとよだれを垂らすと、まず笹おにぎりに手を伸ばしました。笹の優しい香りと、ご飯の温かな香りに、プンダはもうくらくらです。がぶり、がぶり、と、ふたくちで食べてしまいました。

 それからプンダは、笹スパゲッティ、笹の笹巻きにまで目を向けました。まったく、プンダは食いしん坊ですね。

 プンダとしましても、もうこれで旅はおしまいなのですから、全部を食べてしまっても困らないと考えていました。だから掃除機のように笹スパゲッティや笹の笹巻きも吸い込んでしまいました。

「ふぅ、おいしかったぁ」

 食べてしまいますと、プンダはごちそうさまをして、お弁当をカバンにしまいました。

 これから森へと帰るはずでしたが、お弁当を食べた後では動きたくありません。プンダはその場にごろんと寝転がると、気持ちよさそうに目を閉じました。そして、すぴ~、すぴ~、と寝息を立てていました。

 どうやら、お昼寝をしてしまったようです。

 プンダが寝ているあいだに、だんだん薄暗くなりました。まだお昼だというのに、どうしたのでしょう。

 どんどん暗くなります。しかしそんな変化にもお構いなしで、プンダは寝息を立て続けました。

 それからどれほど時間が経ったのでしょうか。

 ぽつり、と水滴が落ちてきました。それはプンダのお鼻に当たりました。

 さらに、ぽつり、ぽつり、と落ちてくるではありませんか。水滴は、どんどんと勢いを増して落ちてきます。それらはプンダの鼻だけではなく、お腹や、足、体のいたるところに当たります。

 いくらプンダであっても、目を覚ましました。むにゃむにゃ寝ぼけ眼で見てみますと、プンダは大慌てです。

「わっ、わわ、雨だ!」

 そう、雨が降ってきたのです。

 プンダは急いで起き上がると、雨宿りできるところを探して走り出しました。ざあざあ降る雨は冷たくて、プンダは泣きたくなりました。雨の中、ようやく見つけた雨宿りができるところは、ほら穴でした。

 ほら穴に入ると、プンダはぶるぶる震えます。プンダはどうしたらよいのかわからないまま、小さく座って震えました。

 そのとき、プンダはあることに気がつきました。

「……あ、模様が」

 一生懸命泥んこで描いたパンダの模様が、今の雨できれいになくなっていたのです。もうパンダではありません、シロクマです。

 森へ帰るわけにはいかなくなりました。

 でも、プンダはポンダからのお弁当をもう食べてしまっています。手に持っていたはずの笹は急いでほら穴へ来る途中で落としてしまったようでした。かろうじてカバンは持ってきたことだけが救いでした。

 寒い身体を、兄弟に温めて欲しくなりました。

 プンダは、ほろほろと涙をこぼしました。

「まだ森に帰ることができないんだ……」

 プンダは、ただたださみしくなりました。

(第4話 おわり)


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