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掌編旅行

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これまでに書いたショートショート集。
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2015年1月の記事一覧

とある戦場の隅っこで ―ショートショート―

お題「世界の中心でアイアイサー!」
(お題提供者 プランニングにゃろ さま)

 走る。僕は走る。

 この足を止めてしまったら、どれだけの人が傷つき、悲しむのだろう。逆に、止めなかったらどれだけの人が傷つき、悲しむのだろう。僕の二本の足はちっぽけで弱いけれど、でもこの足を動かさなければいけない。

 背後からは爆発音。痛くて、心臓まで揺さぶる。次いで悲鳴。叫び声。そこに善なんて見当たらない。飛び

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めくらの絵 ―ショートショート―

本作は、現代とは異なる時代設定を行っております。現在、差別用語として認識されている「めくら」という言葉が作中でしばしば用いているのはそのためです。ご了承ください。

 むかしあるところに盲目(めくら)がいた。

 そのめくらは絵描きであった。盲人の絵であるから、見た目そのままを書き写すなどと言うことは出来なかった。ましてや、色使いと言うべきものも不可思議で、七色を用いて描いたそれを林檎だと言い張っ

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深い穴 ―ショートショート―

 むかし、ある村の外れで、穴を掘り続ける男がいました。

 村の人が気づいた時には人ひとりが入るほどの穴が地に空いていましたので、誰もいつから彼が穴を掘り始めたのかを知る者はいませんでした。そして村の誰も、男の名前を知りませんでした。しかし誰も知ろうとは思いません。

 彼のことは遠巻きに「穴スケ」と呼ぶことにしました。

 穴スケは朝も昼も夜も掘り続けますが、やはり村の人々は「穴スケがまだ愚かな

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