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掌編旅行

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これまでに書いたショートショート集。
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2014年8月の記事一覧

「とある休日」

外国の方「『日本』はニホンなのですか、ニッポンなのですか」
「えっと、時と場合によるよ」
「それはどのように使い分けを?」
「……応援の時はニッポンって言った方が力強い、から?(小声)」
「オー!」
 数日後、彼が別の外国人にそれを自慢げに語る姿を見る。

「キユウ」

まさか【空】が落ちてくるなんて。
いつから空を「落ちないもの」だと思うようになったのか。
──自分で確かめたわけでもないのに。
そういうように教えられたというだけで、まるまるそれを信じてた。
疑う、ということを私たちは知らなかった。
今日、この日を迎えるまでは……。

「ファーストキスは蜜の味」

カブトムシが、私の部屋で待ち受けていた。
虫が大嫌いな私は、漏れなくカブトムシも大嫌い。そしてそんなカブトムシは、私の枕に鎮座していた。
立派な角をした、雄だった。
目が、合った。
彼はじっと私を見据え、四枚の羽を広げると、飛び上がって――。

「ア・ガール」

彼女には中身がない。
かわいた笑いと何も見ない眼差しと予定調和な意見と無難な服装と規則正しい生活と無趣味と好奇心のなさとだれにも嫌われない空気と、そしていつの間にか皆の記憶から消える存在感。
でもそれが、彼女の彼女らしさなのだ。
そんな彼女を、私は見ている。

「ぼくの戦争」

絵画の目が動いた!
右から左にギョロリ!って。
でもパパもママも信じてくれない。
いけない、このままじゃパパとママが食べられちゃう!
この絵はどろどろぐちゃぐちゃの女の人だから、どろどろぐちゃぐちゃで襲ってくるんだ。
ぼくは密かに、闘う覚悟を決めた。
目つぶし!

「忍者に休みを」

ときたま忍者がトラックに乗る。荷台に。
私は知らぬふりをするけれど、あれは間違いなく忍者。
スピード命の忍者でも、やっぱり疲れはあるみたい。
羽を休めた忍者は煙とともに消えていくんだ。
今日も私は知らぬふり。
でも今度は荷台におにぎりくらいは置いてみよっかな。