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豊岡演劇祭2021中止を受けて、かまどキッチンよりおしらせ

はじめに

本日17時ごろ、兵庫県の緊急事態宣言発出を受け、豊岡演劇祭2021の中止が発表されました。

これに則り、かまどキッチンは演劇祭にて上演予定だった「人人人人人←波打って流れる川っぽい/人人人人人←揺らめいて湧き立つ湯気っぽい」のクリエイションを中止します。詳しくは下記画像をご覧ください。

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また本ページには作演出担当の児玉健吾と、ドラマトゥルク担当の佃直哉の代表二人によるコメントを掲載します。併せてご覧いただけますと幸いです。

上演予定作品と中止に至った経緯について(児玉)

noteにこういった記事を公開するのはもう何度目でしょう。豊岡での本格的なクリエイションが始まった頃には他公演や滞在地周辺のレポートを投稿するつもりでした。言葉には尽くしがたい無念さがあります。何度目だろうと慣れるものではありません

かまどキッチンの児玉健吾です。最初に、ご来場をご検討くださった皆さま、そして、日頃かまどキッチンを応援してくださる皆さまには大変申し訳ありませんでした。

ここではかまどキッチンがどういった作品を演劇として上演する予定だったのか、作演出の僕から少しお話をさせていただきます。よろしければお付き合いください。#子ども向け としていた作品ですが、この文章は少し大人向けです。ご了承ください。

今回実施される予定であった豊岡演劇際2021、もとい、他地方での滞在創作はかまどキッチンにとって念願でした。風景をモチーフに擬人化を行う僕らの作風にとって、できあがった作品という再構築された風景を別の地に旅立たせる(再演を行う)システムは何年も前から構想されていたものであり、演劇に取り組んでいくうえで一つの目標だったと思います。

今回上演を行う二つのうち一つ『人人人人人←波打って流れる川っぽい』は、創作を行なった海のない岐阜県から川の水を演じることで海の風景を想像させるといったものでした。豊岡でのリクリエーションでは、演劇祭を取り行うこの地が港町の側面を持つことに着目し、多くの人々が演劇祭のためにやってきては元の土地へ帰っていく流れを、この土地から川を通し海を経て各地に繋がっていく作品のイメージとして重ねる想定でした。

劇場ではない開かれた環境下であえて子ども向けにパッケージングすることによって、より多くの方にこの演劇祭から世界を想像できるような、「この川を通じていろんな国や地方に行けるんだよ」とか「空ってどこにでも繋がってるよね」みたいな、そういうチープだけど小さなハッピーに昇華したいと考えていました。人と集うことが困難な現在の情勢下において、目には見えない繋がりのイメージを喚起させる。これは演劇が担う役割として非常に意義があることだと考えています。

主なコンセプトは新作『人人人人人←揺らめいて湧き立つ湯気っぽい』も同様です。豊岡の城崎温泉という地から湧き上がった感情が、各地を巡っていく。恋をキーワードにシンプルにロードムービー的な短編に仕上げる……予定でした。「空ってどこにでも繋がってるよね」です。しかし、この作品においてさらに非常に重要だったのは、豊岡の地で創作を行うことです。僕は豊岡の地で湧き上がった作品が、さらに言えばこの演劇祭をもって完成したこの作品が、東京に帰り、再び練り上げられ各地を旅することに夢を見ていたのです。

無観客配信や別会場での上演、日程を変更し演劇祭の枠を離れての実施も検討されましたが、それは全く別の企画の別の作品になってしまうということで断念しました。ここで別のフォーマットを用意してしまうことは、特に今回の企画において演劇をこれからも続けていくための判断にはならないのではないかと思います。身勝手にも感じられるかもしれませんが、これが僕の今回の判断です。

改めまして、ご来場を検討くださった皆さま、日頃かまどキッチンを応援してくださる皆さまには大変申し訳ありません。最後まで支えてくれた豊岡演劇際関係の皆さまには頭が上がりません。本当にありがとうございました。

そして、念願の参加だったMr.パワフル神田初音ファレル。君のためにプランを組んだといっても過言ではない北原州真。いつもありがとう君といると楽しい土屋康平。佃さん、黒澤さん、坂田さん、おにぎり。クレジット外で尽力してくれた仲間たち。近い日に会いましょう。

最後に、また豊岡の地でともに呼吸することを夢見て。世界が平和でありますように。(児玉健吾)

中止の経緯について(佃)

かまどキッチンの佃直哉です。

作品についてのコメントは児玉が書いてくれているので、公演を行うにあたってわたしたちが設定していたコンセプトと豊岡演劇祭に参加するにあたって抱いていた展望やちょっとしたお気持ちみたいなものをお話しさせていただきます。二人とも同じタイミングで急いで書いているので被っている箇所などは微笑ましく読み飛ばしていただければ幸いです。

・豊岡を旅して変わる作品。
・豊岡を旅立って回る作品。

企画書や公式HPに書いていた文句なのですが、今回はこの二つを作ろうと思っていました。いました。という形の挨拶になってしまったことが本当に残念でなりません。

他の土地で上演した作品を豊岡に持っていく。豊岡という土地を意識した作品を新しく創作する。そして、その作品を他の土地にもっていく。土地を扱うという固有性を意識しながら、土地を旅して変化していく柔軟さをもったレパートリーを作りたいと思っていました。豊岡では子どもも楽しむことができるような見せ方で、別の機会ではハイコンテクストな現代演劇として、場や機会に基づきクリエイションを行う。新作主義に囚われない持続性を持ち、しかし毎公演新しいものを意識した作品創作。その試金石となる大事な公演でした。

実は今回の二作品は豊岡での上演後、リクリエイションを行い東京で上演することも予定していたのですが、それもお蔵入りとなりました。豊岡という土地で演劇祭にいらっしゃる様々な方に作品を観劇いただいた上で再度旅をするからこそ意味がある企画であったので、残念ですが致し方ありません。

とはいえ、なかなか苦しいものがあります。新作『人人人人人←揺らめいて湧き立つ湯気っぽい』は湯気のモチーフから提案させていただいて、それが憧れていた演劇祭での上演を認められたということで、感慨もひとしおだったもので、だからこそなお悔しいです。

予定していた企画二つがお蔵入りになったことで、かまどキッチンの来年の演劇企画は一つもなくなってしまいました。身の振り方も考えなければなりません。

演劇祭の演目として選んでいただいた以上、運営判断で公演が中止となる状況について考えていなかったわけではありません。緊急事態宣言が発出される状況下では仕方がないとも思います。自主的に公演を企画して上演を行うのが難しい状況であるから様々な支援をいただける演劇祭にいっちょ噛みしたという側面もないわけではありません。なにせ今は自分たちで劇場を借りたところで半分の客席で、埋めたところで赤字になってしまうし感染者を出してしまえば公演を途中で中止せざるをえないような状況ですから。

たぶん今は演劇ができないのだと思います。
でもこの言い方は正確でも誠実でもなくて、
少し言い方を直すと、わたしたちがやりたいような演劇ができない、のだと思います。

無観客でも配信でも、やれることなら何でもやんなさいな。配信限定の公演だって聞くし、そういうことをする新しい劇団だって出てきている。お前らがやっているのは政治活動?や既得権益にまみれたなにかでしかなくて、怠慢なやつらである、みたいなこと言う人のことが目に入る瞬間って正直あるし、意識することだってあります。

理想を抱いて溺死しろ。
なんて言葉を昔やったゲームでキャラクターが言ってました。
わたしたちが今あっぷあっぷなのはそういうことなのかなと思うときがあります。

わたしたちは、事前に決めていたコンセプトと大きくずれてしまうからという理由でクリエイションを中止し、展望が崩れてしまったからという理由で公演企画をお蔵入りにしてしまいました。理想と現実で、理想をとってしまいました。わたしたちの判断が正しいのかはわからないですが、理想で飯は食えない。という言葉は空腹の中でしばらく噛みしめようと思います。

そんなあっぷあっぷさを支援しようという動きもあります。例えば「AFF」と呼ばれるものがその一つです。ざっくり言うと文化庁がコロナ禍で活動を行うアーティスト向けにやっている支援で、公演企画を実施する場合の申請と、中止になった企画の赤字を補填してくれる申請の二つがあります。どちらかを選んで申請するもので、基本的に選び直すことはできず、複数回応募することもできません。*1つまりは、申請を行ってそれが通った団体は、企画が中止になった場合、申請が無効となったうえで赤字補填の申請を行うこともできないということに現状なってしまっています。 *2(余談ですが、豊岡演劇祭ではAFFの申請が選択肢の一つとして推奨されていました)

*1 AFF 募集要項p19 4.補助金額 4-1.補助金の額より
*2 AFF 募集要項p40 7.実績報告 7-7.その他の注意事項には、キャンセルの手続きや対応については状況を
踏まえて判断すると記載されていますので、状況次第でこの認識は覆る、あるいは誤りとなる場合があります。

支援を立ち上げるのもルールを設定するのも判断を行うのも、何ごとも大変だとわかってはいますが、このままでは支援がとどめになりかねないということもあり、何卒柔軟な対応をお願いしたいと思うばかりです。

豊岡演劇祭の企画書に「風景に夢をみたい」と団体の児玉とよく話します。と書きました。豊岡演劇祭の風景に夢を見ることはできました。その一端に触れることはできたような気がしています。演劇祭関係者の皆さま、演劇祭への参加を予定されていた皆さま、うちの企画に参加してくれたみんな、そして何よりかまどキッチンのご観劇を検討していただいた皆さまに感謝いたします。ありがとうございました。

今後とも劇団かまどキッチンを何卒よろしくお願いいたします。(佃直哉)

おわりに

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

かまどキッチンの今後の活動については準備でき次第公開していく予定です。今後とも、かまどキッチンをよろしくお願いいたします。

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