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[昭和怪事ラボ002]ユーザがあなたのサービスを使わない理由?

「何で、この機能ないの? ほんのちょっとした工夫なのに。。」スマホからアプリを使っている時、社内サービスにアクセスする時、色んな場面で、この素朴な疑問って浮かびますよね。
一方で、大きなプロジェクトの一員として、ソフトウェア開発やサービス構築に携わる人間の脳裏には、「この鳴り物入りの新機能、誰か使うの?」という素朴な疑問が思い浮かぶ時があります。
なぜ、サービスを使う側と、サービスを作る側とで、このような、すれ違いが起こるのでしょうか?

こんにちは。HCI (Human-Computer Interaction)という分野を専門に研究しているnacoです。
この記事では、私たちの次に取り組むプロジェクトがこのような怪事を回避できる、一つの解決策としてユーザ中心のHCIデザインに着目します。今回は、ユーザに関する2つの分析パートの果たしている役割の違いを、見ていこうと思います。



いつ考えますか?ユーザがあなたのサービスを使わない理由

冒頭において、サービスを使う側と、サービスを作る側とで、起こりがちなすれ違いの例を見てみました。サービスを作る側が「鳴り物入りの新機能」としてリリースした機能が、まったく使われない、なんていう話は、本当によくある話です。
サービスを作る側は、話題づくりの為や、競合他社とのカタログ比較で有利になるように、「鳴り物入りの新機能」を実装することがあります。目的を達成しているのであれば、たとえ全くユーザから求められていない新機能であっても、意味はあるのかもしれません。しかし、当然のことながら、サービスを使う側と、サービスを作る側でのすれ違いは、少ないにこしたことはありません。
冒頭のような、すれ違いの問題が起こりがちなケースは、プロジェクトにおいて、ユーザの「サービスを使う理由」「サービスを使わない理由」に関する分析がそっちのけになっている場合です。
あなたの参加しているプロジェクトでは、ユーザが「サービスを使う理由」「サービスを使わない理由」の分析を、いつ行っていますか?サービスの開発が始まる前ですか?もし、そうなら、この記事は不要かもしれません。「サービスを使わない理由」の分析なんて、アクセス数が十分でない時に慌てて行うのが普通じゃない?という方は、この記事の続きに、そんな不本意な事態に陥らない為に、どんな対策ができそうか、考えるヒントがあるかもしれません。

"情報"のパーソナライズだけでは十分ではない理由

ユーザ中心のHCIデザインを考える時、デザインの対象を、大きく2つに分けることができます。1つは、”情報”そのもの。1つは”インタラクション(やり取り)"です。ここでは、この2つのデザインがそれぞれ重要である理由について、みていきたいと思います。

ユーザに関する2つの分析パート

User-Centered(ユーザ中心)な情報デザイン‥ユーザを分析し、システムの提供する情報(テキスト、音声、画像、動画、VR空間等)そのものをユーザの選好やスキルに応じてデザインします。情報そのものが自分にフィットしているかどうかによって、サービス体験が異なることは、皆さんが普段スマホでアクセスする動画アプリの中に、自分の観たいものが全くない場合と、自分の観たいものがリストに並んでいる状態とを、比較して想像すると、イメージしやすいでしょうか?
 
Engagement-Centered(エンゲージメント中心)なインタラクションデザイン‥ユーザの特に動因(アクセスする/しない理由)を分析し、ユーザがそのサービスへ継続的に「アクセスする理由」を増やせるようにサービスのデザインを行います。人がサービスへ「アクセスする理由」「アクセスしない理由」は様々です。感情面、理性的に、環境的に、状況的に、どのような影響が大きいのかを分析し、「アクセスする理由」を増やし「アクセスしない理由」を減らす方法を検討します。

 何故、”情報”をデザインするだけではなく、”インタラクション”のデザインが重要となってくるのでしょうか?もう一歩踏み込んで考えてみましょう。

図中のピンク色の部分がないとすると、ユーザがそのサービスにアクセスする理由が十分にあるのか、ユーザがそのサービスにアクセスしない理由は十分に小さく抑えられているのか、未検討のままです。図中の水色の部分によって、ユーザの選好やスキルにピッタリな情報が届けられるとしても、潜在的に、「ユーザがアクセスしない理由」が横たわっていれば、その情報が見られることはありません。だって、その情報に「アクセスしない理由」が片付いていないわけですから。

ユーザがサービスを使う理由を見つける方法。

「アクセスする理由」「アクセスしない理由」の検討をサービスの開発が始まる前に行う必要がありそうだと、思えてきたでしょうか?
具体的には、どのような方法で、考えていくことができるでしょうか?
ここでは、レストランを例に考えてみたいと思います。あなたが「アクセスする」レストランと、「アクセスしない」レストランを複数思い浮かべてみて下さい。「アクセスする理由」「アクセスしない理由」には、どのようなものが挙げられますか?

例:
「アクセスする理由」‥雰囲気が落ち着く。コストパフォーマンス(コスパ)が良い。タイムパフォーマンス(タイパ)が良い。(レストランに求める料理の質や清潔さといったレベル感に)満足している。
「アクセスしない理由」‥(音楽や内装の)趣味が悪い。コスパが悪い。タイパが悪い。(レストランに求める料理の質や清潔さといったレベル感に)不満がある。不誠実な対応をされたことがある。

色々な理由が思い浮かぶと思います。そして、何が「アクセスする」「アクセスしない」を分けている微妙な、もしくは、決定的な理由であるのかについても考えることができると思います。
こういった具体例を用いて抽出した「アクセスする理由」「アクセスしない理由」は、あなたのサービスについてもそのまま適用できるものも多いと思います。
より、詳細に、あなたのこれから作成するサービスに関する、これらの基礎データを集める場合には、潜在的なサービスの利用者を集めペーパープロトタイピングを用いたユーザインタビューを行うこともあります(例えば、完成後のサービスの形態を利用者と共通認識を持ちやすい状態にする為に、簡単な試作サービスや宣伝素材等を用いながら、インタビュー等を行います)。

この後の[昭和怪事ラボ] PoC止まりの怪事編では?

このシリーズ記事、[昭和怪事ラボ] PoC止まりの怪事編では、“PoC止まり”を増産してしまう怪現象の解決に、システマティックに取り組める一助となるような記事をまとめられたらと思っています。特にユーザ中心のHCIデザインについて、HCI研究者の立場から、皆さんと一緒にその構造を解きほぐしていけたらと思っています。

ここまでの記事では、順を追って、全体の概要に触れてきました。
前回の記事では、システム中心のデザインと、ユーザ中心のHCIデザインとの違いについて。
今回の記事では、ユーザ中心のHCIデザインの2つのパート:User-Centered(ユーザ中心)な情報デザインと、Engagement-Centered(エンゲージメント中心)なインタラクションデザイン、それぞれが重要である理由について。
より、皆さんが、これらの体系について、興味を持って下さり、単にITシステムをつくるのではなく、ユーザの行動をサポートできるサービスをつくるべく、デザインの段階から思考を切り替えていく必要がある、と思って貰えていたら嬉しいです。

次回以降では、より、具体的なデザインツールとして、既存研究(Theory)、 Strategic Decisions、デザイン原則について、皆さんと一緒に、一歩一歩、その構造を解きほぐしていけたらと思います。

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[昭和怪事ラボ001]システム中心のデザイン依存によって失われているもの?
https://note.com/kmcxfujitsu/n/n17a688a2744d

文責:naco
[昭和怪事ラボ]シリーズ全体では、昭和時代から連綿と正体不明のままになっている怪現象に取り組んでいきたいと思っています。“PoC止まりの怪事編”は今のところ5本くらいにまとめようかなと考え中です。リクエストなどあれば、ぜひお願いします~