令和6年6月読書②
『幕末 戦慄の絆 ~和宮と有栖川熾仁、そして出口王仁三郎』 加治将一 (2016/04) 祥伝社文庫
副題の「和宮と有栖川熾仁、そして出口王仁三郎」がなんともそそり、買ってしまった。
明治維新最大の禁忌、明治天皇すり替え説。
孝明天皇暗殺があったことは多くの識者が語ることから、史実であろうことは理解しているのだが、その息子である明治天皇まで暗殺され、すり替えられたか否かまではまだ、判断することはできないでいる。
本書はすり替え説を採択していた歴史ミステリー。物語としては物足りない部分が多かったが、こういった挑戦的な題材を取り扱った書物は増えて行って欲しい。
目次
1 不可解な写真と法名
2 消えた左手首
3 「和宮像」のミステリー
4 殺害された皇女
5 謎の神社
6 孝明天皇を拉致せよ
7 力士「旭形」の正体
8 盗まれた歴史
『最新脳科学でついに出た結論 本の読み方で学力は決まる』 川島 隆太【監修】松﨑泰 / 榊浩平 (2018/09) 青春出版社
東北大学の研究者たちが小中学生4万人の脳解析データより、読書と読み聞かせが、能の働き方を変えていることを実証していた。
以下、目次となるが、スマホや動画ではなく、本を読む子ほど脳神経の回路が強化されてゆき、学力の向上が見られたという、まあ、当然と言えば当然の結果ともいえるわけだが、4万人のデータをもとに導きだされた結果を実際に確認するべく、手に取った。
なお、読み聞かせを行うと、言語理解の脳機能だけでなく、情動理解の能機能も発達し、共感能力、非認知能力も高まり、なにより、親子間のコミュニケーションが円滑となり、育児ストレスが軽減されるという。
こどもだけでなく、子育てに疲弊している親たちにとっても、読み聞かせは有益な行為であることが示されていた。
目次
第1章 最新脳解析が実証!読書が学力を左右していた衝撃の事実―なぜ、勉強しているのに平均以下の成績なのか
第2章 スマホやゲーム、睡眠、本の読み方…読書の効果を上げる習慣、下げる習慣―脳を一番効率よく使う「一日の使い方」とは
第3章 本を読まないと脳がダメになる!?―脳の働きだけでなく、脳神経回路まで変わる驚き
第4章 「読み聞かせ」が子どもと大人の脳を鍛える―将来の学力だけじゃない!脳に与える驚くべき効果
第5章 親子関係を変える「読み聞かせ」力―スマホ育児より絵本タイムが子育てをラクにする
第6章 脳の構造を変える!親子コミュニケーションの脳科学―読み聞かせの仕方で、家族みんなの脳にいいことが起こる
『「失敗の本質」を語る なぜ戦史にまなぶのか』 野中郁次郎 (2022/05) 日経BP
言わずと知れた名著『失敗の本質』の出版にいたるまでのプロセスを著者である一橋大学名誉教授、野中郁次郎氏に訊ね、そのインタビューをまとめたものが本書。
「失敗の本質」は日本軍が第二次世界大戦で負けた原因を解析し、軍だけではなく、企業、官僚機構にまでその視野を広げ、日本の組織が持つ構造的な欠陥にまで、浮き彫りにさせ、多くの人に読まれることになったときくが、
この日本軍のもっていた欠陥は現代日本においても、依然として持ち越されていて、本書がベストセラーとなったにもかかわらず、いたる所で、その教訓がいかされていなことがなんとも歯がゆい。
本来はマネージメントや経営学を専門とする著者であるが、こういった戦史や軍の研究から導き出された著者の「知識創造理論」には非常に興味が湧いたので、他の著書もぜひ読んでみようと思った。
目次
序章 探索――失敗研究の題材を求めて
第1章 混沌――新しい戦争研究の型
第2章 実現――『失敗の本質』の要諦
第3章 展開――失敗から強さの解明へ
第4章 難航――20年を要した『戦略の本質』
第5章 総決算――国家レベルの指導力に迫る
終章 挑戦――新たな国家論の構想
『暴走するジェンダーフリー~異論を許さない時代』 橋本琴絵 (2021/08) ワック
本書の帯には「女性の立場から 暴走するフェミニズムにストップをかけなくては、日本の伝統も文化も破壊されてしまう」とあり、「暴走する人権ファナティシズム」「じつは多様性を全く認めないリベラル」「なんでも差別だと煽る「差別主義者」たち」への提言がしるされていた。
一見、過激な内容にも思えたが、行き過ぎた差別禁止、差別反対論が同時に、女性差別を内包し、逆に日本における女性の立場を危険で、危ういもへと変容させてしまう可能性を示唆しており、一聴に値する。
海外留学の実体験を通じて、欧米社会と日本社会のギャップを知る著者の危機感は本物だ。ジェンダー論と共産主義の共通性に関しても語られていたことも印象深かった。
リベラリズムやフェミニズムに関心の強い人たちにこそ、読んでもらい、感想を聞いてみたい。
目次
はじめに──「女」になりたければ「男性器」を切断しなさい!
第1章 暴走するフェミニズム
第2章 暴走する人権ファナティシズム
第3章 暴走する媚中派日本人
第4章 暴走する狂気の独裁国家
おわりに──日本よ、英国の「経験」に学べ
『名画で読み解く イギリス王家 12の物語』 中野京子 (2017/10)光文社
テューダー朝からスタートし、ノルマン朝やプランタジネット朝は含まれていなかったが、歴史的絵画と共に存分に愉しめた。
最も印象に残った君主はヘンリー8世。6人の妃を娶り、臣下及び妃まで処刑しまくったその暴君っぷりに戦慄した。
目次
第1部 テューダー家
(ハンス・ホルバイン『大使たち』;アントニス・モル『メアリ一世像』;アイザック・オリヴァー『エリザベス一世の虹の肖像画』)
第2部 ステュアート家
(ジョン・ギルバート『ジェイムズ王の前のガイ・フォークス』;ポール・ドラローシュ『チャールズ一世の遺体を見るクロムウェル』;ジョン・マイケル・ライト『チャールズ二世』)
第3部 ハノーヴァー家
(ウィリアム・ホガース『南海泡沫事件』;ウィリアム・ビーチー『ジョージ三世』;ウィリアム・ターナー『奴隷船』;フランツ・ヴィンターハルター『ヴィクトリアの家族』;フランツ・ヴィンターハルター『エドワード王子』;ジョン・ラヴェリ『バッキンガム宮殿のロイヤルファミリー』)
『東大生のジレンマ―エリートと最高学府の変容』 中村正史(2023/06)光文社
現在、東大生の就職先の花形だった官僚は激減し、外資系コンサルやITが人気だという。自分の知る東大生も外資系を選択したり、起業するものが多かった。
本書、この10年で倍増した休学者と、起業する卒業生たちへインタビューを通じて、「失われた30年」と言われた日本社会の変容と構造が分析されていた。
しかし、タイトルほど東大生のジレンマを当事者たちの言葉から感じることは少なかった。それはきっと、自ら考え、行動していた学生たちへのインタビューが本書の多くを占めていたからであろう。
目次
はじめに
序 章 変わる東大生
第1章 休学する東大生
第2章 起業する東大生
第3章 東大生のジレンマ
おわりに
『八朔の雪 - みをつくし料理帖』 高田郁 (2009/05)角川春樹事務所
久方ぶりに時代小説を読んだ。人から高田郁作品がおすすめであることを聞いた事と、あの角川春樹が自身の最期の映画監督作品として、製作にあたった作品の原作が本書『みをつくし料理帖』でもあったからだ。
江戸に暮らす女性料理人の人情話であるのだが、「美味しんぼ」をはじめとする料理漫画好きの自分としては、時代小説を読んでいるというよりも、上質な料理漫画を読んでいるかのような心地であっという間に読み終えてしまった。
調べてみると、作者の高田郁さんは元漫画家であったそうだ。どうりで、テンポのよさ、見せ場のもって行き方がコマ運びの如く、なめらかだったのも納得がゆく。
次回作も早速、読んでみたい。いや、しかし、映画の方もまだ見ていないので、見なければ。
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