見出し画像

「塀の中の情報解析学 中国共産党大解体」

『塀の中の情報解析学 中国共産党大解体』美達大和 2021年11月刊 ビジネス社

本書カバーには「和製レクター博士の無期囚がひも解く中国とのフェアな付き合い方」とありました。

レクター博士とはジョディ・フォスター主演により映画化もされたサイコホラーの傑作「羊たちの沈黙」に登場する囚人でありながら、天才的なプロファイリング能力(犯罪の性質や特徴を行動科学的に分析し、犯人の特徴を推論するスキル)の持ち主です。

本書はレクター博士と同じく、獄の中より、限られた情報をもとに、著者の行ったプロファイリングの結果が記されております。

ただし、その対象はレクター博士と異なり、猟奇殺人者に対してではなく、中国共産党に対してでした。

そして、そのプロファイリングの内容は恐るべきものでした。

はっきりいって、レクター博士が行ってきた猟奇殺人者たちのプロファイリングを軽々と凌駕する中国共産党の脅威の実態と行動原理が詳細に記されておりました。

また、何よりも猟奇殺人者を超える非人道的な行為が国家レベルにて、過去から現在まで行われていることに、多くの人たちが気づいていない、または見て見ぬふりをしている現在の社会の有り様にも恐怖を覚えました。

「大袈裟に何をいっているんだ」「最近、よく目にするヘイト本の一種だろう」という声もあるかもしれませんが、本書は断じて異なります。

過去の日中間の歴史から、現在の尖閣諸島問題まで、右、左の視点に偏ることなく、極めて中立の視点で語られておりました。

また、日中戦争時の新聞記事や関係した人々の回顧録や手記にまであたり、当時の世論や世相、風潮を分析した上で、本書は記されていることもあり、公正さと正確さに関しては、他の近現代史を扱った書物とは一線を画す所でもありました。

本書においても記されておりましたが、日本の近現代史を取り扱った書籍の多くが左右いずれかのイデオロギーに著しく偏向しており、「日本に悪はなく、正義であり、悪は相手にあった」か「何から何まで日本は悪で、加害者だった、相手はどこまでも被害者だった」という前提をもとに書かれております。

書籍だけでなく、マスコミ、テレビでよく見かける名の知れたコメンテーター、政治家たちまで似たようなものなので、「日本の美点のみをことさらにクローズアップしての正義とはニセモノであり、その逆に日本の悪のみを糾弾するのもニセモノ」という著者のスタンスは信頼がおけ、好感が持てました。

現在のかなり歪曲された日中の歴史観を払拭するためにも、まず、本書の中より真っ先に目にしていただきたいのは本書、102ページより始まる「通州事件」についてです。

南京事件、満州事変、盧溝橋事件と日中戦争にまつわる出来事は現在、教科書をはじめ多くの人が知るところですが、現在、この「通州事件」を知る人はどれほどいるのでしょうか。

事件の内容、悲惨さからも当時を生きた日本人の多くが知っていたであろう事件ですが、現在の日本人で「通州事件」というその名を耳にしたこともない人がほとんどではないでしょうか。

現在の北京市通州区において、その事件は起きたのですが、概要はその地に住んでいた婦女子を含めた民間日本人223名の大量虐殺です。

中国人兵士と暴徒化した民衆により、強姦、殺人が行われたとのことでしたが、その惨状は陰惨を極め、鼻に牛の如く針金を通された子供、腹部を銃剣で突き刺された妊婦、隠部に箒(ほうき)を押し込んである者、口中に土砂をつめてある者等、他にも言語に絶する所業が記録されております。

「戦争の狂気」「日本軍も同様の残虐行為を行なったであろう」と言われれば、それまでなのですが、これほどの事件が現在、語られず、知られていない中、議論される日中間の歴史は果たしてフェアなものといえるのでしょうか。

本書、104ページには当時の新聞の記事および、凄惨な事件の写真も掲載されております。

日中間の政治、歴史には興味がないという人にも、この写真だけでも一瞥してもらい、日中間を考えるきっかけとなって欲しいと感じました。

実際に私も仕事において、中国企業との取引、中国人スタッフのマネージメントしていることもあり、日中の歴史観、カルチャーの違いに触れることは少なくありません。

そして、付き合いのある中国の方々のほんとんどが善良で、日本人以上に勤勉でバイタリティに富み、学ぶべきところも多く、良好な関係を築いているかと思います。

しかし、個人と国家は別物で、また、だからこそ、それぞれの国家の背景にあるものをそれぞれが知り、よりよい関係が築けるのであると考えております。

日本にも問題、課題はたくさんあります、ただ、隣国であり、現在、覇権国家の道を突き進む中国の問題を知っておくことは今後、ますます重要となっていくのではないでしょうか。

本書では、両国の問題、課題が一貫して、フェアな姿勢で記されております。

多くは語りませんが、「現在、日本が中国により侵略されている」と言ったら、どれほどの人がその言葉を首肯するのでしょうか。

実弾の飛びかう戦争自体は行われておりませんが、同国によるサイバー攻撃、サイバースパイ、領海侵犯は現在、日常となっております。

これを国家ではなく、家庭に置き換えたら、自宅のPCや電話の内容を盗聴され、庭先に勝手にあがりこまれ、注意をしても、一向にやめようとしない隣人に相当するのではないでしょうか。

自衛のために番犬を増やそうにも、家計や家族全員の同意がとれず、ましてやその隣人からも犬の鳴き声がうるさいので、これ以上、犬は飼うなと言われる始末。

よりによって、家族の中には隣人の肩を持つ者までいるというのです。

これをホラーと言わず、なにをホラーといえばよいのでしょう。

また、本レビューを記している現在、北京においては平和の祭典といわれるオリンピックが開催されております。

現在、ナチスのホロコースト以来、100万人超といわれる最大規模のジェノサイドが進行中の彼の地にての五輪開催。そして、それを視聴する我々は一体、何様なのでしょうか。

歴史的悲劇を繰り返さない為にも、できる限りのことを行い、せめて無関心であることだけは避けていきたいと思います。

「嘘は飛び回り、真実は足を引きずりながら嘘を追っている。人が真実を知ったときにはもう手遅れだ。戯れ言は終わり、嘘が効果をみせている」(ジョナサン・スウィフト) ※本書にて紹介されていた格言です!






この記事が参加している募集

人の世に熱あれ、人間(じんかん)に光りあれ。