新卒、タクシードライバーになるの巻き

※事実をもとにしたフィクションです。社会人が小洒落た喫茶店でアイスコーヒーをしばきながら書いています。

就職活動。
それは時に仲間と助け合いながら、時に仲間をも蹴落とす
現代における血で血を洗う大合戦。
これは私の命を懸けた闘いの記録である。

私はごく普通の大学生。
なんとなく選んだ大学で、それなりに友達を作り
サークル活動に勤しみながら勉強も恋愛も色々な過ちも経験しながら
楽しい日々を過ごしている。
しかし２年生も終わる頃になると周囲には就活という言葉が溢れ始めてくる。

「就活どんな感じ？」
『まだ全然何もしてないよ』
「だよね～私も、ところであれ聞いた？」

最初はみんな、周りの状況を伺いながら
先輩にきいた「何とかなるから大丈夫」という言葉を胸に
少しのソワソワを感じながらも今までと変わらぬ日常を過ごしていた。

しかし、いつからか皆、なんか本格的に始めなきゃやばくね？
もしかして人生懸かってね？
ということに気付き始め、やったこともない業界研究にとりあえず手を付け
自己分析で今まで培ってきた人生の浅さに絶望する。

いつだろう、自分の人生から夢という目標が消え去ったのは。

勉強はしたくない、バイトもできればしたくない、週5で働くなんて考えられない世の社会人みんな努力の天才か？今すぐ野球を始めた方がいい。
そんなことを思いながら生きているうちに、自分が何をしたいのか、どんな人生を歩んでいきたいのか
そんなたいそれたことを考えるのを止めてしまったみたいだった。

…イケメンと付き合いてえな。

絞りだした唯一の願い。なんかもう、今すぐ人間をやめた方がいい。

それでも時間はあっという間に過ぎていく。
こんな私でも、就職はしといた方がいいというのは分かっていた。
フリーターで楽しそうに生きているバイト先の先輩もいるけど、私にはそこまでして追いかけたい趣味も夢もないし、そもそも社会に何となく敷かれているレールから外れる勇気もない。
私なんてそんなもんだ。
20数年生きてきて、辿り着いた答えがこれだった。

いや、くそつまらんくね？

世の中には数えきれないくらいの職業があって、そのどれを選ぶかも自由で、選ばないことだってできる。
仕事に主軸を置かず、趣味に生きるために仕方なく仕事をする人もいれば
仕事に生き、仕事に死んでいく人もいる。
自分の人生を本にしてそれがバカみたいに売れる人だっている。
そんな世界に生きているくせに、自分がどうしたいかを考えもせず
半ば強制で考えさせられたときにはもう手遅れで、そんな自分にどこか悔しさを感じているのだ。

いや、くそださくね？

このままだと自分が腐っていく未来しか見えなかった。
適当に就職してなんとなく嫌になって会社の愚痴を言いながらも辞めることはせず
自伝を書こうものなら3000字で書き終わる大学生のしょうもないレポートみたいなものになると思った。

いや、しゃばくね？

そんなんでいいのか私の人生。
いやだめだろ。
ちゃんとしよう。
とりあえず週休2日で福利厚生のちゃんとした事務職を探すのはやめよう。
とりあえず視野を広げて色んな職業に触れてみよう。
そこから私の本当の就職活動がスタートした。

どんな仕事に就くにしろ、まずは自分の強みを知ることが大事だと思い、
エントリーシートにかけそうなものを書き出してみた。

学歴：4年制大学卒業見込み
趣味：カラオケ
特技：体が柔らかい
資格：普通免許

この世に3兆人おる。

終わったかもしれん。
いや、でもこの世の大学生の大半こんなもんでしょ？
それでもみんな就職できてるんだから大丈夫、いけるいける！盛り上がってこ！へいへい！ピッチャービビってるよ！

何とか自分の気持ちをごまかしながら色んな就活サイトを擦り切れるくらい読み込んで
どんな就活イベントにも参加した。

ある日参加した某就活イベントで
ある一人の女性に話しかけられた。
腕にはKmタクシーと書かれた腕章。

タクシー…。
タクシー……？

正直全く興味はなかったし気にかけたこともない業界だった。
なんかおじさんのイメージあるし。
でも声をかけてきた女性は自然な笑顔で楽しそうに就活生としゃべり
ブースにもちらほら女性の姿が見えた。
幸い普通免許は持っていたし、とりあえず選考を受けてみることにした。

なんか、思ってたんと違う…。

選考はとても楽しかったし、女性社員もけっこういた。
フレンドリーな雰囲気で進んでいく選考に、私はいつしか
受かったらいいなと思うようになっていた。

新卒の女性タクシードライバー。
うん。面白いじゃん。

最終選考の数日後
スマホが鳴った。
画面には“Kmタクシー採用課“の文字。

『…ありがとうございます！』

どこにでもいる大学生の、少し変わった社会人生活が始まった。

妄想にお付き合いいただきありがとうございました。この妄想はコチラの記事を参考に書いています。
→https://www.km-recruit.jp/drivers/drivers-graduate/27708

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