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ム・リ・ム・タ・イ


漸くとっかかりが出来た。あとは「17・24・17・5・11」と「5・5・10・11」に合う言葉を閃きさえすれば解ける筈だ。

もともと好きだった。現役時代は隙間時間にコツコツと解いていた。忙しい、そんな理由で辞めてしまった。
定年になって膨大な自由時間を手に入れた。今度はその使い方に困り果てた。そんなときパズルの楽しさを思い出した。本屋に買いに行くところから始めた。それももわずかながら時間潰しになる。解き始めると楽しかった。時間を忘れてのめり込んだ。コロナ禍になって殆ど一日中家にいるようになってさらにハマった。買いに行く僅かな時間も惜しくなった。
ナンクロプラザ、オールナンクロ、特選ナンクロプラザ、オールナンクロSP、ナンクロ太郎の5誌を定期購読にした。前の2冊が各月、後の3冊は三ヶ月に1冊の割合で発行される。

ナンクロは通称で正式にはナンバークロスという。クロスワードパズルに似た白マスと黒マスからなる盤面の、白マス全てをカナ文字で埋めるパズル。クロスワードパズルとの違いはカギ(ヒント)がなく、文字の入る白マスすべてに数字が書いてある。同じ数字の白マスには同じカナ文字が1文字はいる。
最初に何文字かだけ対応が与えられていて、その対応にしたがってマスをカナで埋めていく。黒マスには文字を書き込まない。埋まっていない白マスには、意味のある言葉ができるように他の数字で使われていないカナを当てはめ、他の同じ数字の白マスにも同じカナを入れる。これを繰り返して全ての数字とカナの対応を導き出せば完成となる。パズル盤面の他に数字と対応するカナ文字を記入できる「対応表」がセットになっている。

ルールとして
1.入る単語は名詞に限られる。(固有名詞も使用可)
2.同じ単語を二箇所以上入れてはいけない。
3.黒マスの配置は黒マスルールの慣例に従う。
4.文字と数字は1対1で対応する。
5.登場する文字は2回以上使用する。

黒マスルール
1.黒マスによって白マスの領域が2つ以上に分断されてはならない。
2.黒マスは縦または横に連続しない。

問題の難易度をあげるために、ホワイトナンクロと称して黒マスにも数字が対応している形式もある。この場合黒マスには複数の数字が対応する場合があり、問題に「○個はカナではなく黒マスが入ります」と明記されることもある。

カナ文字ではなく漢字を当てはめる全漢字ナンクロ、ヒントとなる対応が1つも与えられていないノーヒントナンクロ、マス目が渦巻き状に並んだしりとりナンクロなどのバリエーションがある。


タイトルとして「『難しすぎて夜が明けた・・・』超難問ホワイトノーヒントナンクロです。問題が解けないと、布団に入ってからもやもやして眠れませんよね・・・・・。」という問題にチャレンジしている。「いくつかの数字には黒マスが入ります」という注意書きがある。具体的な個数は明記されていない。
縦15マス、横15マス、全225マスのパズル盤面だ。対応表の数字は1から27まで、このうちの何個かが黒マスになる。最終的には「16・3・22・24・18・17・24・5・11・20」に対応するカナで出来上がるフレーズが解答となる。

ナンクロに使われる文字は「ア・イ・ウ」から「ワ・ン」までの45文字と濁点、半濁点がついた「ガ・ギ・グ」から「ブ・ベ・ボ」と「パ・ピ・プ・ペ・ポ」の25文字、それに長音を表す「-」の71文字だ。下の「ヲ」は使われない。促音、拗音を表す小さな文字は区別しない。
例えば「シシャカイ(試写会)はシシヤカイ」「チャヤ(茶屋)はチヤヤ」「シュッパツ(出発)はシユツパツ」と表記される。

タイトルとそれに続くフレーズを読んでも全く言葉が浮かんでこない。「眠れない様子」というキーワードでスマホで検査する。四文字熟語で「オウノウテンテン(懊悩輾転)」というのを探し出した。全部で8文字、2文字目と4文字目が同じ、5文字目、7文字目、6文字目、8文字目が同じ。数字で表してみると「1・2・3・2・4・5・4・5」となる。この特徴的な並びがないかパズル盤面をくまなく見渡す。なかった。

経験値ではナンクロにはとっかかりとなるような出現頻度の高いワードがある。例えば「キツツキ」「イツツイ」。数字にすると「1・2・2・1」。「カタタタキ」「オオオク」「オオオジ」「オオオバ」「オオシオ」こちらは一つの言葉の中に同じカナ文字が3個含まれる言葉。「1・2・2・2・3」「1・1・1・2」「1・1・2・1」このように特徴的な並びとなる。

「1・1・2・3・2・3」「1・2・1・2・3・4」「1・2・1・2・2・3」こんな言葉もでてくる。一番目の方はツツウラウラ、キキカイカイなど、二番目はカイカイシキ、コウコウセイなど、三番目はダイダイイロ。

他にも頻度は高くないが「ツツミガミ」「ツキツキリ」「ウタウタイ」「キユウキユウシヤ」「ユウキユウキユウカ」「ココナツツ」「シンカンセン」「ワンタンメン」などは大きなヒントとなる文字列がある。

どれも見当たらない。「取り付く島もない」とは、こんな状況のことかもしれない。もう何年もナンクロを解いているが、これほど苦労するのは久しぶりだ。ビギナーの頃は書いては消し書いては消しを繰り返して、消しゴムのカスの山が出来たり、パズル盤面の紙が痛んでガサガサになってしまったり、擦り切れて破れてしまったりしたことがあった。しかし、この2~3年はほとんど躓くことなく正解に到達できるようになった。さらに、自分中でハードルを上げて、対応表を1から順番に埋めていく。後半の大きい数字に対応するカナ文字がわかっても書かずに記憶にとどめてとにかく順番に解いていくようなこともできるようになった。

最悪の事態に備えて、擦り切れないうちに3枚ほどコピーをとった。言葉が浮かんでこないので、黒マスを特定する作業をしてみる。少なくとも最終回答となる「16・3・22・24・18・17・24・5・11・20」は黒マスにはならない。また黒マスのルールからパズル盤面に連続している数字も黒マスにはならない。これらを除外して、残りの数字がパズル盤面に何個づつあるか数えてみる。使われる頻度が多いものは黒マスの確率が高いと推測する。このような作業と過去の経験の積み重ねからのイマジネーションで「4」「12」が黒マスだと推理した。パズル盤面の4と12を黒マスにしてみる。その結果が冒頭のシーンとなる。

「5・5・10・11」に思い付くまま、「シシマイ」と入れてみる。「17・24・17・5・11」は「○○○シイ」となる。○○○に入る言葉が浮かんでこない。同じように「シシヤモ」「イイワケ」「キキカン」「カカワリ」など思い付くまま当てはめていく。どれも途中で日本語にならない文字の羅列が出来上がってしまう。流石に超難問となっている問題だ。

時間をおいて考えても閃かなかった。他の問題を先に解いて、2~3日後に再度チャレンジしてもお手上げだった。とっかかりさえ見つけられれば。突破口はどこだろう。この問題を残して全てが解き終わった。確認するために1ページ目からページをめくっていく。どのページの解答欄もうまっている。一問を除いて最後の問題まで終わっていた。何気なくもう1ページめくってみる。「今号のヒント」なる文字が目に飛び込んできた。日常生活では使わないような難しめの言葉を漢字表記できるものは漢字表記し、その意味を解説するコーナーだ。この存在は知っていた。初心者の頃、ここに出ている言葉がヒントになって正解にたどり着いた記憶がある。そして、まさに今解いている超難問にも「ムリムタイ、無理無体/強いて行うこと。無法に強制すること」という大ヒントがあった。


「17・24・17・5・11」に「ムリムタイ」を対応させる。「17」が「ム」「24」が「リ」「5」が「タ」「11」が「イ」となる。これでパズル盤面の同じ数字を埋めていく。「5・5・10・11」は「タタ・10・イ」となる。迷うことなく「10」には「カ」を対応させる。「タタカイ」。

ナンクロを解いていくときに道が見えることがある。出題者が意図して作ってくれた正解に続くルートだ。これを踏み外さなければ、ギリギリ一つの言葉が出来上がり、次に続く文字が想像できるような文字が並ぶ部分が現れる。これを繰り返していると、いつの間にか、どの数字から対応付けようかと迷うくらいに全体像が見えてくる。

解けた。「16・3・22・24・18・17・24・5・11・20」に対応する最終の解答は「グツスリネムリタイヨ」でした。パズル盤面にも「スイミン」「フミンシヨウ」「ネイキ」など眠りに関する言葉が出現しました。

結局コピーした3枚は使わなかった。そして解答には役立たなかったが「懊悩輾転」という四文字熟語を覚えた。ナンクロ、もともとのきっかけは膨大な自由時間を潰すためだったた。そのスタンスは現在でも変わらない。加えて、パズル盤面に出てきた知らない言葉はすぐに調べるようにしている。意味や漢字表記、使い方など一通り目を通す。60年以上生きてきて一度も使ったことがない言葉、日常生活では使うことがない言葉。大半は覚えたつもりでも忘れてしまう。何時の日か、ナンクロで増やした語彙が大好きな「文章を書く」ことの一助となる時がくればいいな。

ナンクロ、単なる時間潰しで終わらない、知的好奇心をくすぐるパズルです。

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