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NO NO NO~You Don't Know Me!~vol.0アップデートされ続けるパンクの最前線のアルバム by 長谷川文彦

KKV Neighborhood #56 Review - 2021.01.05

3月24日にNO NO NOのアルバム『NO NO NO』が通常のLP、クリア・ヴァイナルそしてCDと3タイプのフォーマットで発売となる。このリリースにあたりアートワークや音源制作で多くの人が関わってくれた方々の紹介やインタビューを発売までの約3ヶ月のあいだに『You Don't Know Me!』というタイトルで連載します。バンドがこのリリースに込めた思いや世界観を感じとる助けになれば幸いです、まずはvol.0として長谷川文彦によるバンドの紹介からスタートです。

「アップデートされ続けるパンクの最前線のアルバム - NO NO NO "NO NO NO"」

異論もあるとは思うけど、パンクというものが始まったのはセックス・ピストルズがデビューした1976年ということにしておきたい。以来40年以上、どれくらい「パンクは死んだ」とか「パンクなんてもう古い」とか言われたことだろうか。自分がパンクというものを本格的に聴くようになったのは1980年代半ばだけど、その頃すでに「まだパンクなんて聴いてるんすか?」なんて言われたものだ。そんなことを言っていた奴の聴いていた音楽は今はどうなっているだろうか。パンクの方は2021年になっても元気に健在だ。エクスプロイテッドのアルバム『Punks Not Dead』ではないけれど、パンクというものは今も死んでいない。しかし、何で死んでいないのだろうか。不思議な気もする。

2017年の暮れに経血のファースト・アルバムが出た。80年代の日本のパンク・バンドを現代にリニューアルさせたような暗くて湿り気のある音が好きでよく聴いた。年が明けて、NOTHIN'というバンドのミニ・アルバムが出たので買った。その後、NO NO NOというバンドのCDを発見してこれも買った。どちらも日本の今どきのパンク・バンドにありがちな90年代のメロコアの延長線上ではないカッコいい音でびっくりした。
これがみんな茨城のバンドだったのだ。

茨城のシーンってどうなってんだ?という気になって仕方なくなった。調べようと思えばネットでなんでも調べられるけど、パンクなんていうものはライブを観るのが一番早いのである。

2018年の5月、6月にこの三つのバンドのライブを観る機会が訪れた。早稲田のZONE-B。実際にライブを観てどのバンドもカッコよかったけど、ひときわよかったのがNO NO NOだった。ものすごくスピード感のある演奏なんだけど、リフやフレーズがとてもセンスがあって速いだけで終わっていなかった。ギターの音のキレの良さがすごいし、速いというだけではおさまらないとんでもなくブラストするドラムの躍動感、高速で動いてメロディ楽器になっているようなベース、最初から最後まで叫び続けるボーカル、これらがガッチリと組み合わさってすごくカッコいい!、、、一目惚れしてしまった。ライブハウスでバンドに惚れる、幸せな瞬間だった。
こういうバンドはなかなかいそうでいないのだ。また自分の中でパンクという音楽がアップデートされたと思った。

パンクという音楽(だか信条だか思想だかスタイルだか)が死ぬ死ぬ言われても消えないのは、新しい若い人たちが出てきて「パンクをやるぞ!」という勢いで音を鳴らすと、もう古くなりかけた「パンク」というものがアップデートされて新しくなるからだと思う。もちろんベテラン勢の長年やってきたが故の凄さもリスペクトするんだけど、そのジャンルが生き生きし続けるには新しい血が必要なのだと思う。

今の日本ではまさにそのアップデートが行われていて、その最前線がNO NO NOであり、YALLAであり、KLONNSであり、経血であり、ILL JOEであり、CRUNKであり、今たくさんいるパンク・バンドたちだ。彼らの持っているダイナミックな躍動感やキレのいい音や巧みなリフやフレーズの構成は、「今」という時代の中の最先端のパンクの形と言って間違いない。
世界には同じように新しい感覚を持ったバンドがたくさんいる。韓国のSLANTやアメリカのKRIMEWATCH、シンガポールの<<<30Sなどもそうだ。NO NO NOはKRIMEWATCHや<<<30Sが来日した時に共演している。横浜のEL PUENTEでのKRIMEWATCHのライブは最高だった。NO NO NOとEYESCREAMと経血が出ていたんだけど、ものすごくいい組み合わせだったと思う。今の「パンク」を的確に切り取ったライブだった。日本だけでなく、世界中でパンクというものが更新され続けているのだ。そう思うとなんだか楽しくなってくる。

NO NO NOのフル・アルバムが完成した。予想通りというか、予想以上にすごい。「いい!」と大声で言いたい。これまでのシングルやコンピの音源もよかったけど、アルバムになると気合いが違う。NO NO NOの躍動感とキレのよさと迫力が完璧に記録されているだけでなく、曲や音のバリエーションが豊富で一本調子になっていない。あっという間に終わってしまい、もう一回!ってなるアルバムだ。
歌詞が日本語なのもすごくいい。簡単に聞き取れないところもあるけど、がなっているだけでなくてちゃんと歌っているので、言葉の断片は確実に刺さってくる。それが今を生きる人間に間違いなく響くと思う。

10代の頃にダムドのファースト・アルバムを初めて聴いた時、血が逆流したかのように興奮したのを覚えている。それと同じ気持ちでこのアルバムを聴いている。アップデートされ続けるパンクの最前線にいるバンドの最新の姿がこのアルバムだ。

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