見出し画像

JUZU aka MOOCHYインタビュー中編

KKV Neighborhood #207 Interview - 2024.1.26
インタビュー、構成 by 小野田雄
トップ画像 ClubAsia 2023 photo by ZUKKA (VIDEOGRAM)

インドやパキスタンでレコーディングした様々な素材を軸に、国内の音楽家たちの助力を得て、昨年12月にJ.A.K.A.M.名義の新作アルバム『FRAGMENTS』を発表したDJ、プロデューサーのJUZU a.k.a. MOOCHY。世界各地の音楽家たちとセッションを重ねながら、唯一無二のダンストラックを生み出し続けてきた彼の音楽遍歴、キャリアは多岐に渡り、そして濃密濃厚だ。

10代からDJとバンド活動を始め、自身がヴォーカル、ギターを務めたヘヴィジャンクバンド、EVIL POWERS MEの作品は、グラフィックアーティスト、パスヘッドのレーベルからリリースされ、DJとしてはジャングル、ドラムンベースのパーティ『Rhythm Freaks』を主宰。現在も語り継がれる伝説を残すと、その後もNXSやTulululusといった先進的なバンドで活動を行い、ソロアーティストとしてもキューバを皮切りに世界各地で行った現地の音楽家とセッションをもとに、これまでに5枚のアルバムと無数のシングルを発表しながら、トライバルなダンスミュージックの進化を推し進めてきた。

そんなMOOCHYの新作は、“断片”を意味する『FRAGMENTS』というタイトルが示唆するように、MOOCHYが長年培ってきた壮大な音楽世界、その無数のかけらが乱反射し、聴く者それぞれに異なる像をもらたす作品だ。このアルバムをより深く楽しむために、DJの視点とバンドの視点からMOOCHYの音楽観を紐解くインタビューを敢行。中編の今回はバンドの視点から話をうかがった。

ーMOOCHYくんが初めてギターを手にしたのはいつ頃ですか?

ギターを買ったのは中1の時。最初はパンクやロックを真似して弾いてたけど中2の時には、(ヒップホップグループ)Public Enemyの曲She Watch Channel Zero?!という曲でギターを弾く、みたいなこともやってましたね。当時は生と打ち込みの区別もよく分かっていなかったし、中学の最初はBOOWYもStingも、Madonna、U2、あと、George Harrison、Sade、Princeなんかも手当たり次第に聴いていたな。

ージャンルというより、当時、MTVやベストヒットUSAで流行ってた音楽を貪欲に吸収していたわけですね。つまり、MOOCHYくんの中では、そういったメインストリームの音楽とアンダーグラウンドな音楽が混在していた、と。

そう。聴けるものは何でも聴いていたから、小6の時にライブで観て、洗礼を受けたパンク、ハードコアは自分のなかで一部でしかなかったというか、全てが分離することなく繋がり合っていて。だから、自分が16歳の時に始めた最初のバンドの音楽性も、厳密に言うと、グラインドコアとオルタナのクロスオーバーだったと思うんだけど最初のライブから自分で作った曲もやっていて、その曲の中盤でブレイクビーツな展開になるのは既に聴いていたヒップホップの影響だった。もちろん、ハードコア……特にジャパコアの影響は大きくて、高1の時、安全靴を履いて、ジャパコアヘアにしてたことはあるんだけど(笑)、92年にSTUSSYの路面店が東京に初めて出来た時、自分はそういうストリートウェアの方が格好いいと思っていたから、格好自体もパンク、ハードコアお決まりの鋲付き革ジャンは1回も着たことがなくて。むしろ、スニーカーにスケボー持って、グラインドコアやるみたいな感覚というか、S.O.B.に近いノリだったし、自分は東京に生まれて、スケートとかクラブの影響も受けていたから、格好はパンク然とはしていなかったと思う。ともかく、当時の日本でのバンドとDJカルチャーの捉えられ方に関して、分離、乖離しているように感じていました。バンドもDJもやる理由が全て繋がっている自分にとっては、別物として考える捉え方が当時から理解できなかった。

ーその理由というのは?

人それぞれだと思うんだけど、大きく分けたら、何かに憧れているか、心の隙間を埋めるためか、そのどちらかなのかなと。音楽を始めた動機として「女性にモテたいから」って言ってる人がよくいるじゃないですか。それにしたって、音楽やって、モテてる人に憧れているからということだと思うんだけど、自分にはそういう気持ちがなくて、昔も今も心の隙間を埋めるために音楽をやっているというか、そのための手段やスタイルをインプットかアウトプットで選んでいるつもりはないんだと思います。

17歳くらい。最初のバンド @高円寺RITZ


17歳くらい。バンドメンバーと幼馴染と

ーそして、16歳で初めてバンドを組んで、その後の活動は?

初めて組んだバンドでは、学校の文化祭でライブをやったんですけど、ボーカルのやつが持ち込んだアンパン(シンナー)の瓶が割れて、その匂いが充満したことで、ライブ開始から15分で客電を付けられて中止になって(笑)。しばらくはやったけどその後、18歳くらいの時、自分にスケボーを教えてくれた幼馴染がベース、(下北沢のスケートショップ)VIOLENT GRINDで知り合ったケンちゃん(斉藤健介:後に9DWを結成)がドラムで、新たなバンドを始めて。1年くらい活動したんだけど、幼馴染みは不良だったというか笑、音楽に対してのテンションに違いがあって解散してちょうどその頃、知り合ったCOZY(佐藤幸司:のちにNXS、9dwに参加)が参加することになり、自分がボーカル、ギター、ケンちゃんがベース、COZYがドラムという3人編成でEVIL POWERS MEの活動が始まったんです。


下奥のテープが1994年自主製作のEVIL POERS MEのアルバムテープ


右はEVIL POWERS MEドラマーCOZI(服部さん提供)

ーEVIL POWERS MEは、USのレーベル、アンフェタミン・レプタイル(HELMETやJESUS LIZARD、UNSANE、COWSらを輩出)が打ち出したジャンク、ノイズロックとも通じる激烈な作風が今も伝説的に語り継がれていますよね。

自分は中学生の頃に西新宿にあるレコード屋EDISONで働いていたCOCOBATの坂本くん(TAKE-SHIT)と知り合っていて、EVIL POWERS MEを組む前から「COCOBATの前座をやってよ」って言われていたり、BORISやプログレのバンド、WARPマガジンをやってた大野さんだったり、色んな人たちがバンドメンバー全員が10代のスケーターで、一風変わった激しいバンドを面白がってライブに誘ってくれてましたね。だから、その頃はDJもやりながら、バンドでも月に何回もライブをやっていたし、そのCOCOBATの坂本君の計らいで、自分たちで作ったアルバムテープをパスヘッド(メタリカやミスフィッツをはじめ、数々のハードコア/メタル/スケートボード系アートワークを手掛けた伝説的なグラフィックアーティスト)に送ってくれて、彼から「作品を出したい」って手紙がすぐに来て。「アメリカツアーとかアルバムも考えているから曲が出来たらすぐ送ってくれ」って。かなりとんとん拍子に好転しそうだったんですが、、当時、精神が病んでいて(笑)、返事を返すのが億劫で、そのままになってしまって。そうこうしているうちにCOZIがバンドを辞めることになって、そのまま、EVIL POWERS MEは解散。だから、実質的に活動していたのは1年ちょいなのかな。当時、自分は『RHYTHM FREAKS』も並行してやってたから、サイケデリックな方向性とか実験的な方向性とか、バンドとしてやれることも沢山あったと思うんだけど、その時、まぁ、それが活動の限界だったんでしょうね。


下のCDがPusheadのコンピレーションCD。2曲収録。https://www.discogs.com/ja/master/2851177-Various-Taste


上記がEVIL POWERS MEの7インチヴァイナル。スプリットに収録された爆走車(バクソーカー)のドラムは現Mouse On The Keysの川崎昭。もう1枚は今も高円寺のパンクスピリットを継承するレコードショップBASEのオーナー飯島氏のレーベルから。https://www.discogs.com/ja/release/6608898-Bakusocar-Evil-Powers-Me-Split
https://www.discogs.com/ja/release/2388662-Evil-Powers-Me-Given-Swipe-Dub

ーそして、1999年にはフリーフォームな形態のエレクトロニック・ジャムバンド、NXSとしての活動が始まるわけですが、このバンドはどういう経緯で結成されたんですか?

新宿LIQUID ROOMの山根さんから「Mad Professor来日公演のフロントアクトとして、何かライブ的なことがやれないか?」と言われたことがきっかけ。当時、『RHYTHM FREAK』を主宰するDJとして注目されていたから、話題性を考えてのオファーだったんだろうな。そこでメンバーを集めて、AOAというバンドにもその後参加するMIYAちゃんがディジリドゥー、IZPON(Kingdom Afrocks,The Flamenco A Go Go、AOAほか)がパーカッション、(その後HIFANAになる)のKEIZO(machine!)がジャンベとMPC、自分がトラックを出して、そこでダブっぽいことをやるという編成で初ライブに臨みました。

ーライブを行うにあたっては、事前にスタジオに入って、プレイヤーと構成を話し合いながら、アレンジを固めていったんですか?

そうですね。EVIL POWERS MEもほぼほぼ自分がアレンジしていましたし、バンドを仕切る作業はすでにやっていたので、NXSでもその作業にどぎまぎすることはなかったですね。プレイヤーと構成を話し合う、ということはあまりなかったですが、抽象的なイメージからそれぞれの無垢なインスピレーションを引き出すというか、、その当時はライブに関してはその場で起こる奇跡を信じるというか、、逆に常に余白を作るアレンジが多かったですね。EVIL POWERS MEとNXSの大きな違いは、NXSでは民族楽器が入ってきたこと、さらに打ち込みを用いるようになったこと。生楽器と打ち込みという相反する要素をぶつけるというのは、今の音楽制作でも常に実践していますね。


おそらく2001年頃のNXSのライブ。ガムランはマドモワゼル朱鷺、奥はMIYA。 @新宿LIQUID ROOM with Holger Czukay (ジャーマンプログレの伝説、元CANのベーシスト) (その時の楽屋でホルガー・シューカイ から20年ぶりに面白いバンドを見た、と言われたらしい)

ー最新作『FRAGMENTS』は、(アフガニスタンの弦楽器)アフガンルバーブや(ネパールの竹笛)バンスリ、(モロッコのカスタネット)カルカベ、(モロッコの弦楽器)ゲンブリ、(インドの弦楽器)サーランギ、タブラや尺八、ヴァイオリンなど、多数の生楽器が散りばめられています。そうした多彩な楽器を1曲のトラックにまとめあげる作業は、EVIL POWERS MEやNXSでやっていたことの発展形でもあると。

そうですね。楽曲を作るうえでは、曲の構成をある程度イメージしながら録音するから、楽器演奏者にそのイメージを伝えることを含め、バンドをやってきた経験がかなり活かされていると思います。EVIL POWERS MEの頃から安直なパクリに逃げず、オリジナルにこだわって活動してきたので、CANとD'Angeloの『VooDoo』を掛け合わせるというコンセプトだったTulululusの活動がそうであったように、曲作りをする際には一つのアイデアだけでなく、複数のアイデアを組み合わせることを意識していました。あと、学生時代にTASAKAとカセットテープに好きな曲を入れたコンピレーションを渡し合っていて、お互いの好きな音楽を伝え合ったりしていたんだけど、今でいうDJ的な感覚、大きな流れ、ストーリー性やコラージュ・サンプリング的な発想を前提に、コミュニケーションを取ってきた経験がその後曲作りの際に意思疎通を図るうえでプラスに作用しているんだと思いますね

GOK STUDIO吉祥寺 2001 NXSレコーディング時


KOKO-130

NOW ON SALE
J.A.K.A.M. / FRAGMENTS
CD ¥3,300 (TaxIn)
日本のみならず世界中からも評価の高い、アンダーグラウンド·ダンスシーンのDJ、プロデューサーの、JUZU a.k.a. MOOCHYによるJ.A.K.A.M.名義では、実に3年半ぶりの新作「FRAGMENTS」は、近年の彼の充実した活動が反映された重厚かつ、自由な空間性が強調された、どこにも属さないがトライバルなダンスビートに、どこか記憶の片隅では覚えているようなエスニックなメロディラインが乗っかった、組曲のようなアルバム。
全12曲が夢見心地のまま、流れていく。いや、ただ流れていくだけではなく、あくまで目線は土着で、生活音に混ざり、そこではっきりと意思となり蓄積されていく音が存在している。
2020年にインド、2023年にパキスタンに出向き、土地土地で人びとと生活を交えながらフィールドレコーディングや伝統楽器を収録。それらを国内の腕の立つ演奏陣を交えミックスし、またダブ処理することにより産まれた、オーケストレーションの妙というべき作品。さながら、ON-Uの伝説的アルバム、CREATION REBELのStarship Africaにも似た感触が味わえる、2023年アジアから産み落とされた強烈なアンサーとしても愛聴して欲しい。まさにストリートから逸品の誕生である。
なお、今回のアルバムのデジタル配信に合わせ、JUZU a.k.a. MOOCHYが90年代末から2000年代初頭に在籍、プロデュースしていたグループ、「NXS(ネクサス)」「Tulululus」の過去のタイトルも同時に、初デジタル解禁となる。
新作「FRAGMENTS」のリリースに合わせ、1月11日にはDOMMUNEにて、新作のトピックを中心としたスペシャルプログラムもオンエアされる。1月28日に下北沢SPREADに於けるリリースパーティーも決定。
収録曲
01. JUSTICE
02. MOON DANCE
03. HIDDEN ESSENCE
04. PURPOSE OF LIFE
05. CHAIN
06. NEUTRAL PLACE
07. ME & COUNTRY
08. PLANET OF DREAM
09. WIND
10. NIGHT
11. FAMILY
12. NEW ASIA

各サブスクリプションサービス、各配信サイト、BANDCAMP

同時配信中
NXS「Sleeper」

「Pearl, Snake, Bird, Dawn」

「PSBD RMX」

Tulululus「ゲーテへの感謝」

J.A.K.A.M. (JUZU a.k.a. MOOCHY)
東京出身。15歳からバンドとDJの活動を並行して始め、スケートボードを通して知り合ったメンバーで結成されたバンドEvilPowersMeの音源は、結成後すぐにアメリカのイラストレイターPusheadのレーベル等からリリースされる。DJとしてもその革新的でオリジナルなスタイルが一世を風靡し、瞬く間に国内外の巨大なフェスからアンダーグランドなパーティまで活動が展開される。 ソロの楽曲制作としても米Grand RoyalからのBuffalo Daughterのリミックスを皮切りに、Boredoms等のリミックス等メジャー、インディー問わず様々なレーベルからリリースされる。2003年にキューバで現地ミュージシャンとレコーディングツアーを敢行したのを皮切りに、その後世界各地で録音を重ね、新たなWorld Musicの指針として、立ち上げたレーベルCROSSPOINTを始動。
2015年から始まった怒濤の9ヶ月連続ヴァイナルリリースは大きな話題になり、その影響でベルリン/イスラエルのレーベルMalka Tutiなどからワールドワイドにリリースされ、DJ TASAKAとのHIGHTIME Inc.、Nitro Microphone UndergroundのMACKA-CHINとPART2STYLEのMaLとのユニットZEN RYDAZ、Minilogue/Son KiteのMarcus HenrikssonとKuniyukiとのユニットMYSTICSなど、そのオリジナルなヴィジョンは、あらゆるジャンルをまたぎ、拡散し続けている。また音楽制作のみならず、映像作品、絵本や画集 のプロデュース、野外フェスOoneness Camp"縄文と再生”を企画するなど活動は多岐に渡る。
http://www.nxs.jp
https://linktr.ee/JAKAM

J.A.K.A.M. NEW ALBUM “FRAGMENTS” Release Party
2024年1月28日(日)17時~23時
DJ: JUZU a.k.a. MOOCHY ゲスト:COMPUMA
Venue:下北沢SPREAD


“FRAGMENTS” Release Party


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?