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Ry『新しい太陽』独創的なミクスチャ―・サウンドをディープに発展させた作品 by 田中亮太

KKV Neighborhood #175 Disc Review - 2023.7.7
Ry『新しい太陽』review by 田中亮太

Ry『新しい太陽』

Terutaka Aritomiを中心に東京で活動する3人組バンド、Ry。彼らは2015年に活動をスタートしたそうで、2019年にはファースト・アルバム『Just Passing Through』をリリースしている。不勉強にも筆者は、最近までこのバンドを知らずにいたが、後追いで『Just Passing Through』を聴いてみて驚いた。ニューエイジ~バレアリックな感触のサウンドスケープ、エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイやMONOの系譜にあたるだろうポスト・ロック的な轟音と静寂のコントラスト、トム・ヨークとジャステイン・ヴァ―ノンの間に生れ落ちたかのような無力さを全能感へと裏返しにしていく歌声――それらを混ぜた独自の音楽性がすでに確立されていた。また、陶酔や自己消失の感覚以上に、たとえば自然の美しさや雄大さを目にしたときに喚起される、心の痛みを伴う圧倒的な実存がサウンドから感じられるのにも惹かれた。Café Del Marと合わせて聴きたいポスト・ハードコアと言うか……。

このたびリリースされるRyのセカンド・アルバム『新しい太陽』は、上記の独創的なミクスチャ―・サウンドを、さらにディープに発展させた作品だ。サポート・メンバーとして、長らくROTH BART BARONの屋台骨を支えていた中原鉄也(2020年にRBBを脱退)が加入したこともあり、リズム・セクションは前作以上にオーガニックかつしなやかになっている印象を受けたが、全編を貫くサンライズ~サンセット・ムードのサイケデリアは変わらない。エレクトロニクスを配した“NewEra”、ギター・アンビエントの“いきもの”、多重コーラスを使った“ひとり”などからは、前作以上のバレアリックへの傾倒を感じ取ることができる。世界の色や形を誰よりもくっきりと感じようとする眼差しは、より澄んだものになっている。

その一方で、疾走感のある“BIG LOVE”からは、8ビートのドラムとシューゲイジングなギターもあいまって、キュアーやエコー&ザ・バニーメン、マガジンあたりを思わせる耽美性が匂い立っているのもおもしろい。このあたりのポスト・パンク~ニューウェイヴなサウンドで別の世界を構築しようとするアティチュードは、NEHANN、Strip Jointとリリースを重ねてきたKiliKiliVillaの新しいカラーだと感じられる。

〈剥き出しの両手と心で/もうとっくに僕ら触れているよ〉(“New Sun”)
〈沢山の命といて/ひとりぼっち〉(“Solar Dance”)
〈輝かしい裸になって/透明なまま満たされていく〉(“こどものちから”)
それにしても本作の言葉の多くが、パーティーやレイヴで喚起されるエモーションを映しているように思えるのは、音のユーフォリアに引っ張られすぎだろうか。やはり僕にとって、Ryはアフター・アワーズに聴くべき音として響く。『新しい太陽』に滲んでいるメランコリアと全能感、〈ひとり〉と〈みんな〉がないまぜになった感覚は、ダンス・カルチャーに触れたことのあるものなら、きっと記憶のどこかで繋がることができるはずだ。
バッキバッキに踊った夜のあと、混沌としたジャーニーを抜け、心身ともに浄化された君は、澄み切った気持ちで朝の光を見つめるだろう。その先にあるものこそが〈新しい太陽〉だ。いや、偉大なる太陽は昨日と変わっていない。メタモルォーゼを遂げ、新しくなったのは君自身なのだ。


Ry『新しい太陽』

Ry『新しい太陽』
Release Date:2023.07.12
Label:KiliKiliVilla

収録曲
1. New Sun
2. Solar Dance
3. BIG LOVE
4. こどものちから
5. Life Force
6. Hell Bell
7. いきもの
8. GIFT
9. NewEra
10. ひとり
11. ふるさと

予約受付中

感情を音に乗せ、未来を見据えて。
エモーショナルでスケールの大きなサウンド、混沌とした現実の中で不安と向き合う人へのメッセージを正面から歌に乗せて、Ryの音楽が始まる

Ry(ライ)はTerutaka Aritomi を中心とした3人組のバンドとして2015年に活動開始。2019年に1stアルバム『just passing through』をリリース。2020年からはドラムにROTH BART BARONでの活動を終えた中原鉄也をサポートに迎え、新体制での活動をスタート。2023年夏には、コロナ禍で制作された2ndアルバムがリリースとなる。
そのスタイルはオルタナティブ、インディー・ロック、エモ、ニューエイジ、クラシカルなどの要素をクロスオーバーさせた豊かな音楽性と、エモーショナルであり俯瞰的な歌詞が融合し、繊細かつ力強いサウンドとなっている。
深みのあるメロディーが織り成す美しいサウンドスケープと、今の社会では見失ってしまいそうな視点を正面から捉えた歌詞が特徴である。また、シンセサイザーやストリングス、エレクトロニックな要素を巧みに組み合わせることで、ドラマチックで壮大な音楽空間を表現している。繊細かつ力強い表現力で、聴く人々の心に届くであろう。
彼が歌う歌詞には現代社会で抱える不安や孤独、そして希望が織り込まれている。
今作は、ヴァイオリンにMartin Johnson (OAU, JOHNSONS MOTORCAR)、トランペットにchan kengがゲスト・ミュージシャンとして参加している。


9/2 THREE

KKV presents Ry『新しい太陽』発売記念ライブ決定!
9月2日(土)

下北沢THREE
open 18:30 start 19:00
出演:Ry、Strip Joint、WOOMAN
前売 3,000円+1D 当日 3,500円+1D
※高校生以下 エントランスフリー ※要ドリンク代
※Admission is free for people from overseas (one drink order is required)

アルバム発売記念ライブのゲストはStrip Jointと3年ぶりのライブ活動を新体制で再開するWOOMANの出演が決定!

チケットの予約はこちら
https://www.toos.co.jp/3/ticket/

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