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Sarah Recordsについて vol.3 まだ会ったことがない、異国の親愛なる友”Sarah Records”へ by h-shallows

KKV Neighborhood #149 Column - 2022.10.03
まだ会ったことがない、異国の親愛なる友”Sarah Records”へ by h-shallows
https://h-shallows.com/

ついに、Sarah Recordsについてお話する時がやってきました。
h-shallowsという私の屋号(?)は、「Heavenly+Shallow+S」の略称であり、皆さんお察しの通りSarah Recordsからリリースされた珠玉の名曲「Heavenly – Shallow」から名付けたものです。Sarah Recordsには多大なる影響を受けましたので、Sarah旋風が吹く2022年を祝して一筆添えさせていただきます。

他にも著名な素晴らしいコラム執筆陣がいらっしゃり、詳しい系譜は小出亜佐子さんがまとめてくださっておりますので、私は一音楽を奏でる身としてSarah Recordsについて記したいと思います。

Sarah Recordsは、1987年から1995年までイギリスのブリストルを中心に活動していた音楽レーベルで、物心ついた頃には既に活動停止の状態だった。
ということで、私がSarah Recordsを知ったきっかけは、2007年頃大学時代に幸運にも音楽にものすごく詳しいサークルの先輩にギターを習っており(その方は今、アジアツアーなども行う某有名なバンドのギタリストです)、その方がHeavenlyを薦めてくれたことだった。

当時私が所属していた音楽サークルでは、イギリス音楽ではArctic MonkeysやOasisが流行っており、通な先輩陣の中では、2013年フジロックに出演したMy Bloody Valentineや、The Kinksなどが愛好されていた。
そういった流れの中で、私が様々な文脈をすっ飛ばしてHeavenlyを知ることができたのは幸運としか言いようがないが、Heavenlyの音楽を一聴した瞬間から電撃が走った。演奏は決して上手いとは言えないし、サウンドはロックやグランジに比べると穏やかだが、なんだろうこの迸るピュアなスピリッツと遠い異国の音楽に感じる親近感は…
伸びやかで時にパンキッシュなボーカル、ボーカルと異なるメロディーや歌詞で自由に寄り添うコーラス、まるで歌うようなきらきらとしたギターとベース、カチッとしたリズムとは対極にあるけれど勢いがあって惹きこまれるドラム。
曲の構成も一般的な進行であるA-B-CやVerse-Chorusのようには流れず、急に沢山のBridge(?)が登場したり、アカペラが差し込まれたり。Heavenlyの自由で、溢れんばかりのアイディアが詰め込まれた音楽は、“これまで耳にしたことがない”音楽だった。
ちょうど人より遅く大学に入ってからギターをはじめた私は、持ち前の手の小ささもあってギターが全く上達せず、技巧派の音楽を聴いては途方に暮れていたが、Heavenlyの音楽を聴いて「私が目指したい方向性はこれだ!」と、とても嬉しい気持ちになり、励みにもなった。(ここで技巧派に目覚めていれば、現在もう少しギターが上達していたかもしれない、というミジンコレベルの悔いはあります笑)。

Heavenly(自室のポスター)

そこからは一気にHeavenlyの音楽ならびにリリース元であったSarah Recordsの音楽にのめり込んでいくわけだが、Sarah Recordsからリリースされた音楽にはどれもHeavenlyに感じたスピッツと同じものが流れていて、衝撃的だった。勿論当時、Sarah Recordsを愛好するような稀少な同世代には出会えず、一人で音源を掘り進めていたが、Sarah Recordsからリリースされた音楽には手を広げて万人を受け入れてくれるような温かなムードがあって、新しいSarahの音源に出会うたび、異国の親愛なる友に出会えたような喜びに包まれた。

Sarah Recordsの音源はプレミアとなっているものも多く、学生の私の身には金銭的に堪えるものも多かったけれど、少しずつ集めていく内に、Sarahの発端となったFanzine文化やSarahの影響を受けた現行のバンドにも興味が波及していった。LPのリリースが主流であった時代に、Sarah Recordsは7”とFanzineをセットにした独自のリリース形態をとっていた点も、一貫した美学を感じられて素敵だった。

こうしてすっかり同世代のメインストリームからは外れ、しかし喜々として音楽探求を続けていたところ、Sarah Recordsの音楽がきっかけとなって、後にギターとして加入するwith me!(稀少なSarahを愛する同世代の水戸×東京のindie popバンド)やred go-cart(リアルタイムでSarahの精神を日本で取り入れ活動していた仙台のguitar popバンド)、ハンドメイドでDIY精神溢れる素晴らしい音源をリリースし続けるgalaxy trainやClover Recordsに出会い、音楽を愛する友の輪が広がっていった。with me!では、Heavenly -Starshyのカバーをデジタルリリースしている。

with me!/ love letter e.p (クラウドファンディングの末リリースした、手押しスタンプによるオンリーワンジャケットの 7”)

その後もDJ attagirl(Heavenlyの名シングルより)として時々BGM係を担当したり、h-shallowsという屋号で個人活動を始め、The Field Miceをカバーしたり、HeavenlyのAmeliaとRobが現在duoとして活動しているThe Catenary Wiresの来日に駆けつけるなど、Sarahへの愛が止むことはなかった。特にThe Catenary Wiresの来日公演では、Heavenly – Shallowのセルフカバー披露もあり、二人とも楽器はあまり上達していないけれど(笑)、Heavenly時代から変わらないAmeliaが手を広げて楽しそうに揺れながら歌う姿など、大変感動的だった。

The Catenary Wires
Heavenly – Heavenly vs. Satan(サイン入り)& The Catenary Wires – Red Red Skies(サイン入り)

時は過ぎて、2022年。
Sarah Recordsのドキュメンタリー映画『My Secret World』が、映画チア部大阪支部の皆様の尽力によって日本語訳付で東京&大阪にて上映されたり、Space KellyによるSarah Recordsのカバーアルバム(珠玉の名曲をこれまた素晴らしいアレンジで収録!)がKiliKiliVillaからリリースされるというニュースを目にしたり、レーベルの活動停止から30年が過ぎようとしている今、Sarah旋風が再び巻き起こっている。さらに、Heavenlyが来年イギリスにて解散から27年ぶりの再結成ライブを行うというニュースまで飛び出した…!実に楽しみである。

『My Secret World』は、深夜PC前に待機しながら予約開始と同時にチケットを購入し、スキップするような気持ちで観に行った。当日映画館には知っている顔も多数で、知人の発表会を観に来ているような雰囲気だったが、映画はマットとクレア(レーベルオーナー)の人柄やレーベル立ち上げの経緯、Sarahへの想い、Sarahに所属していた各バンドメンバーの生のコメントや逸話、バンド間の関係性が垣間見える発言などが映像と共に盛り込まれた内容で、後追いの身としては資料としても貴重な映画だった。
マットとクレアは、想像通りの音楽を愛する熱い想いと、とても素直で友好的な心を持った人で、はじめてSarah Recordsの音楽を聴いた際に感じたピュアなスピリッツや親近感は、Sarahを取り巻く素敵な人々の人間性が音楽を通して透けて伝わってきたものだったのだと実感し、嬉しくなった。直接会ったことはないけれど、遠い異国の親愛なる友だち。

『My Secret World』の上映チケット

あの日、Heavenlyの音楽に出会っていなければ、あまり技術のないギター弾きである私が、10を超えるバンドでギターを弾く今日の未来はなかったと思う。
私の音楽人生において、Sarah Recordsは原点であるといっても過言ではないし、Sarahに出会えたことは大きな幸運だったと振り返っている。

たとえレーベルとしての活動は停止しても、マットとクレア、Sarah Recordsで活動したバンドの精神は世代を、国を超えて受け継がれていく。彼らの等身大の音楽は、しっかり人々の心を掴んで離さない。
私の中に根付いているSarahから受け継がれた精神もまた、消えることがないだろう。

最大級の敬意と愛を込めて、Sarah旋風が吹く2022年を祝したい。

Space Kelly 6年ぶりのアルバム・リリースは伝説のインディー・レーベルSarah Recordsに残された楽曲のカバー集!
ギター・ポップ・シーンで長く活動を続けているSpace Kellyが自身のルーツに立ち返ったカバー・アルバム。

10月28日発売
Space Kelly / Come To My World : a tribute to SARAH
KKV-125VL
LP+DLコード
3,850円税込

収録曲
Side A
1. Pristine Christine (The Sea Urchins cover)
2. You Should All Be Murdered (Another Sunny Day cover)
3. Are We Gonna Be Alright (The Springfields cover)
4. Killjoy (Brighter cover)
5. Emma’s House (The Field Mice cover)
Side B
1. Tell Me How It Feels (The Sweetest Ache cover)
2. Shallow (Heavenly cover)
3. Ahpranhran (The Sugargliders cover)
4. Dogman (East River Pipe cover)
5. River (BlueBoy cover)

レーベル予約受付中
https://store.kilikilivilla.com/v2/product/detail/KKV-125VL

90年代中旬から20年以上にわたってヨーロッパのインディー・シーンで活動を続けてきたSpace Kellyが2020年のロックダウンの期間に自身のルーツを振り返った時に再発見したSARAH RECORDSの数々の音源。はじめてギターを手にした日をもう一度思い出しながら振り返った時に輝きだした珠玉の名曲の数々を丁寧に磨きだしたコンセプト・アルバム。

Space Kelly
ヨーロッパを中心に90年代から活動を続ける日系ドイツ人KEN STEENのソロ・ユニット。これまでに8枚のオリジナル。アルバムと数多くのシングルをリリース、そのサウンドはいつもエバー・グリーンなインディー・ポップであり爽快でカラフルなギター・ポップ。UKインディー・シーンとは古くから交流があり、とくにティーンエイジ・ファンクラブを中心としたグラスゴーのシーンとは関係が深い。 これまでに2回の国内ツアーを行っており、彼にとって日本は第二の故郷ともいえる。

SARAH RECORDS
ブリストルを拠点に1987年に活動をスタートし1995年に最後のリリースとなったカタログ・ナンバー100でレーベル活動を停止、その活動は世界中のインディー・ファンに計り知れない影響を与えた。70年代末から80年代中旬にかけてラフトレード、クリエイション、ファクトリーなどのインディー・レーベルが次々と革新的なリリースを行い、インディー・レーベルがイギリスの音楽シーンをリードし、90年代はもはやインディー・レーベルがメイン・ストリームとなる。そんな状況の中、マットとクレアというファンジンを作っていた2人の出会いによってSARAH RECORDSはスタート。完全なD.I.Yスタイルで運営されたレーベルは世界中のギター・ポップ、インディー・ファンを虜にした。サウンドはC86と同世代の素朴なギター・ポップが中心だが、すべての作品に通底する手作りで直接語りかけてくるような感覚は他のレーベルの作品とは違い独特の趣があった。 SARAHからリリースした代表的なバンドはHevenly、The Field Mice、The Orchids、The Sea Urchins、Brighter、Another Sunny Dayなど。 2014年にはSARAH RECORDSのドキュメンタリー映画『My Secret World』が制作され2022年には映画チア部大阪支部により日本でも公開となった。

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