JUZU aka MOOCHYインタビュー後編
KKV Neighborhood #210 Interview - 2024.2.13
インタビュー、構成 by 小野田雄
インドやパキスタンでレコーディングした様々な素材を軸に、国内の音楽家たちの助力を得て、昨年12月にJ.A.K.A.M.名義の新作アルバム『FRAGMENTS』を発表したDJ、プロデューサーのJUZU a.k.a. MOOCHY。世界各地の音楽家たちとセッションを重ねながら、唯一無二のダンストラックを生み出し続けてきた彼の音楽遍歴、キャリアは多岐に渡り、そして濃密濃厚だ。
10代からDJとバンド活動を始め、自身がヴォーカル、ギターを務めたヘヴィジャンクバンド、EVIL POWERS MEの作品は、グラフィックアーティスト、パスヘッドのレーベルからリリースされ、DJとしてはジャングル、ドラムンベースのパーティ『Rhythm Freaks』を主宰。現在も語り継がれる伝説を残すと、その後もNXSやTulululusといった先進的なバンドで活動を行い、ソロアーティストとしてもキューバを皮切りに世界各地で行った現地の音楽家とセッションをもとに、これまでに5枚のアルバムと無数のシングルを発表しながら、トライバルなダンスミュージックの進化を推し進めてきた。
そんなMOOCHYの新作は、“断片”を意味する『FRAGMENTS』というタイトルが示唆するように、MOOCHYが長年培ってきた壮大な音楽世界、その無数のかけらが乱反射し、聴く者それぞれに異なる像をもらたす作品だ。インタビュー後編の今回は最新アルバム『FRAGMENTS』が映像を喚起する作品世界について、そして、さらにその先に広がる未来について話を聞いた。
─インタビュー前編、中編で、DJ、クラブミュージックのプロデューサーとして培ったセンスや経験と、バンド活動を通じてセッションをまとめ、アレンジを構築してきたキャリアを掘り下げてきましたが、最新アルバム『FRAGMENTS』はそうした全てが分かちがたく融合された作品ですね。
アルバム・タイトルの『FRAGMENTS』は“かけら”という意味なんですけど、今回の制作は聴き手の想像力をかきたてるために、パキスタン、アフガニスタンに実際に出かけていって録音した実音だけでなく、パキスタン、アフガニスタンのレコードからのサンプリングも入っていたりもするし、楽曲から声だけ、ベースだけ、パーカッション、ドラムだけを抜き出すことが出来るRX10という音楽ソフトを使って、作品のあちこちに音の“かけら”を散りばめていて。その目的を具現化するためには手段を選ばなかったですね。
─つまり、今回の作品は“かけら”の集合体であって、その“かけら”一つ一つが聴き手の想像力をかきたてるトリガーになっている?
そう。もっと言ってしまえば、人間そのもの、文化そのもの、言語そのものが“かけら”の集合体でもあると思うんですよ。そして、俯瞰的な視点から見ると、その“かけら”のどれがピュアということもなく、すべてが等しく“かけら”なんですよね。先のインタビューでも言っていたように、自分は心の隙間を埋めるために音楽を作っているんですけど、その“かけら”によって、その隙間を埋めようとしたと言うことも出来るのかなって。他方で、今は膨大な情報に溢れていて、それゆえにオリジナリティを生み出すのが難しくなっているし、音楽を含む文化がグローバリズムによって均質化しているじゃないですか。でも、そこからどんな“かけら”をチョイスして、自分のオリジナリティを生み出していくか。自分たち世代はもちろん、今の世代、これからの世代はその課題に向き合っていく必要があると思います。
─だからこそ、ローカルな音楽やその土地の民族楽器に立ち返る必要があるのかな、と。
シンセサイザーやAbelton Liveのようなソフトも含めた西洋楽器は利便性がいいのに対して、今回使っているアフガンルバーブは手作りで一つ一つ音が違う古い楽器で利便性が悪いんですよ。今回の作品にも参加していただいた(アラブ音楽のスペシャリストでもある)ヴァイオリニストの及川景子さん曰く、今回のアルバムはアフガンルバーブやサーランギーのような不器用な楽器が形成されるまでのその地域の文化、そこに生きてきた人々の気配が以前の作品より濃密に感じられると。極端にいえば、不器用な民族楽器はグローバリゼーションの進行と共に滅ぼされる運命にあると思うんですけど、そのことを前提に、自分は使命感をもって民族楽器を使っていて。立ち返ってもいるんだけど、それ以上に継承しているという意識の方が強いかもしれない。ただ、古い楽器を「これいいでしょ」と聴かせるよりCANにD'Angeloを混ぜるように、違うエッセンスを入れることで、現代的な形で継承しようと試みたし、それでいて、色んな楽器を入れすぎないように抑制したことで、逆に映像的なイメージを想起させる作品になっているのかなって。
─ネットが発達したグルーバルな時代にあって、家にいながらにして、古今東西の音楽要素を取り込むことは容易になったと思うんですけど、今回の作品で治安状況が不安定なアフガニスタン、パキスタンに赴いたように、Moochy君が実際に足を運んで現地のミュージシャンとセッションしてきた経験は特筆すべきものがあると思います。
俺には数年前に流行った“辺境”という言葉が意味分からなくて。自分は人が行ったことのないところに行くのが趣旨ではなく、自分にとって縁があったり、意味があるところに行っているだけ。そして、そうやって作った自分の音楽がリスナーとしても一番好きなんですよ。何故かといったら聴いたことがない音楽だから。自分が出会ったミュージシャンと予想を超えたところで作られていく音がなにより興奮させられるんですよ。余談だけど、LIFE FORCEという日本では老舗のレイブ/ハウスパーティーのオーガナイザーMASSAさんが昔、映画『ブレードランナー』で一番好きなシーンは最後にボスのバッティが死ぬ間際にハリソン・フォード演じる主人公のデッカードを助けて、「俺はお前らが見たことのない世界を見てきた」って箇所だって言ってたんですけど、アートというのはそうものだと思うんですよ。みんなが行ける領域で表現したら、「あー、はいはい」ってことで終わっちゃう。でも、ジミヘンやジャニス・ジョプリンをはじめ、行き過ぎちゃったやつはみんな死んでしまうけど、誰も行ったことがない領域に突き抜けて、生きて帰って、それを表現した時にみんな感動するし、価値があるんじゃないかなって。
─そして、今回のアルバム『FRAGMENTS』は発展形のコラボレーションが進行中ということで、ご説明いただけますか?
今回のアルバムのトラックを用いて、シンガーソングライターのYUIMA ENYA、ラッパーの愛染eyezen、Hidenkaがそれぞれ自分たちの楽曲として、リリックを書き、歌を乗せ、ラップを乗せた作品の制作が進行中ですね。音楽は器楽と声楽に分けられるんですけど、インストゥルメンタルの『FRAGMENTS』が器楽の作品であるのに対して、自分が裏方となって彼らと取り組んでいるのが声楽の作品。ZEN RYDAZでひさびさに声を扱った制作を経て、器楽の作品だけでなく、声楽の作品にも取り組みたかった。器楽の作品としては、今回の作品だけでなく、自分のレーベル、COUNTERPOINTSからZEN RYDAZの作品や『FRAGMENTS』の「HIDDEN ESSENCE」にノンクレジットで参加している尺八奏者のKENJI IKEGAMIの12インチシングルやZEN ENSEMBLEのLP「Garden Of Time」のリリースを予定していますね。自分はダンスミュージックを50歳までやり切ることを決めていて、今年、まさに50歳になるんですけど、無理に若作りしてダンスミュージックをやり続ける必要はないと思っているし、もしニーズがあるなら今後もダンスミュージックに取り組もうとは考えているけど、音楽には動と静があるとして、静の音楽は年取っても出来るというか、むしろ、年取ったからこそ出来るものだと思うので、この先、そういう作品にも説教的に取り組もうと考えていますね。
ZEN ENSEMBLE / GARDEN OF TIME
KOKO-128 CROSSPOINT
Release on Sale 13th Nov 2023
on Bandcamp
"FRAGMENTS Release Party"
2024.2.23(fri)
88block
東京都新宿区高田馬場2-14-7 B1F
OPEN 22:00
ENTRANCE ¥2000/w1D
◆Release Act
J.A.K.A.M. (JUZU a.k.a. MOOCHY)
feat.HIDENKA,YUIMA ENYA,愛染 eyezen
◆DJ
MaL
snuc
◆FOOD
スナック胡麻純
アフリカの東に位置するタンザニアにて現在レコーディング中のJ.A.K.A.M.の帰国後すぐに開催されるリリースパーティーでは先述されたHIDENKA,YUIMA ENYA,愛染 eyezenが声で参加する。
タンザニアのレポートはInstagramをチェックしてほしい。
https://www.instagram.com/juzuakamoochy/
NOW ON SALE
J.A.K.A.M. / FRAGMENTS
CD ¥3,300 (TaxIn)
日本のみならず世界中からも評価の高い、アンダーグラウンド·ダンスシーンのDJ、プロデューサーの、JUZU a.k.a. MOOCHYによるJ.A.K.A.M.名義では、実に3年半ぶりの新作「FRAGMENTS」は、近年の彼の充実した活動が反映された重厚かつ、自由な空間性が強調された、どこにも属さないがトライバルなダンスビートに、どこか記憶の片隅では覚えているようなエスニックなメロディラインが乗っかった、組曲のようなアルバム。
全12曲が夢見心地のまま、流れていく。いや、ただ流れていくだけではなく、あくまで目線は土着で、生活音に混ざり、そこではっきりと意思となり蓄積されていく音が存在している。
2020年にインド、2023年にパキスタンに出向き、土地土地で人びとと生活を交えながらフィールドレコーディングや伝統楽器を収録。それらを国内の腕の立つ演奏陣を交えミックスし、またダブ処理することにより産まれた、オーケストレーションの妙というべき作品。さながら、ON-Uの伝説的アルバム、CREATION REBELのStarship Africaにも似た感触が味わえる、2023年アジアから産み落とされた強烈なアンサーとしても愛聴して欲しい。まさにストリートから逸品の誕生である。
なお、今回のアルバムのデジタル配信に合わせ、JUZU a.k.a. MOOCHYが90年代末から2000年代初頭に在籍、プロデュースしていたグループ、「NXS(ネクサス)」「Tulululus」の過去のタイトルも同時に、初デジタル解禁となる。
新作「FRAGMENTS」のリリースに合わせ、1月11日にはDOMMUNEにて、新作のトピックを中心としたスペシャルプログラムもオンエアされる。1月28日に下北沢SPREADに於けるリリースパーティーも決定。
収録曲
01. JUSTICE
02. MOON DANCE
03. HIDDEN ESSENCE
04. PURPOSE OF LIFE
05. CHAIN
06. NEUTRAL PLACE
07. ME & COUNTRY
08. PLANET OF DREAM
09. WIND
10. NIGHT
11. FAMILY
12. NEW ASIA
各サブスクリプションサービス、各配信サイト、BANDCAMP
J.A.K.A.M. (JUZU a.k.a. MOOCHY)
東京出身。15歳からバンドとDJの活動を並行して始め、スケートボードを通して知り合ったメンバーで結成されたバンドEvilPowersMeの音源は、結成後すぐにアメリカのイラストレイターPusheadのレーベル等からリリースされる。DJとしてもその革新的でオリジナルなスタイルが一世を風靡し、瞬く間に国内外の巨大なフェスからアンダーグランドなパーティまで活動が展開される。 ソロの楽曲制作としても米Grand RoyalからのBuffalo Daughterのリミックスを皮切りに、Boredoms等のリミックス等メジャー、インディー問わず様々なレーベルからリリースされる。2003年にキューバで現地ミュージシャンとレコーディングツアーを敢行したのを皮切りに、その後世界各地で録音を重ね、新たなWorld Musicの指針として、立ち上げたレーベルCROSSPOINTを始動。
2015年から始まった怒濤の9ヶ月連続ヴァイナルリリースは大きな話題になり、その影響でベルリン/イスラエルのレーベルMalka Tutiなどからワールドワイドにリリースされ、DJ TASAKAとのHIGHTIME Inc.、Nitro Microphone UndergroundのMACKA-CHINとPART2STYLEのMaLとのユニットZEN RYDAZ、Minilogue/Son KiteのMarcus HenrikssonとKuniyukiとのユニットMYSTICSなど、そのオリジナルなヴィジョンは、あらゆるジャンルをまたぎ、拡散し続けている。また音楽制作のみならず、映像作品、絵本や画集 のプロデュース、野外フェスOneness Camp"縄文と再生”を企画するなど活動は多岐に渡る。
http://www.nxs.jp
https://linktr.ee/JAKAM