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Sunny Summer Day『Dreams and Memories』今も消えないトゥイー・ポップの灯火 by 管梓(エイプリルブルー)

KKV Neighborhood #179 Disc Review - 2023.8.3
Sunny Summer Day『Dreams and Memories』review by 管梓(エイプリルブルー)


Sunny Summer Day / Dreams and Memories

 ○○○でしか得られない栄養素がある、なんて言い回しがインターネット上には存在するが、ネオアコやギター・ポップ、トゥイー・ポップなんかはまさにそれでしか得られない栄養素がある音楽ジャンルだと思う。メジャー・シーンはおろかインディ・ミュージックの世界においても技巧や情報量の詰め込みが当たり前となった現代においてはなおさら、複雑さや難解さとは無縁のシンプルないいメロディと演奏、ちょっと拙い歌唱に実家のような安心感すら覚えてしまう。
 2000年代後半から活動するインドネシアのインディ・ポップ・シーンのベテラン、Sunny Summer Dayの最新EP『Dreams and Memories』は、そんなトゥイー・ポップの栄養素を存分に摂取させてくれる作品だ。このバンド名の時点でトゥイー・ポップ・バンドでなければ嘘になるだろう、とすら思ってしまう絵に描いたようなバンド名からもある程度音楽性の予想がつくが、果たして再生ボタンを押すや否や、1曲目の「Memories」からその予想を裏切らないサウンドが鳴り響く。軽く歪んだギターとSarah Recordsのバンド群を思わせるDicki Hermansahの完璧なギター・ポップ・ボイスが合わさったときのイノセントなきらめき。下支えするというよりかは思いのほか動き回るベースラインも80~90年代のUKギター・ポップ然としていて好ましい。このバンドならではの個性、と言えるものは正直薄いかもしれない。でもそれでいい。それがいいのだ。公園をぼんやりと歩き回っているときに目に映る風景を少し輝かせてくれたり、机に頬杖をついて物思いに耽るときに切ない気持ちを少し増幅したりしてくれるような、ささやかで慎ましく優しい、ひと言で言えば「ちょうどいい」音楽が、以降計7曲にわたって展開される。
 The Pains of Being Pure at Heartを思わせるほんのりシューゲイズ風味の疾走ナンバー「Pearl of Orient」、Teenage Fanclubのようなゆるさのある「There is a Way」を経て流れ出す「Dusk and Moon」は、先行シングルにもなった一曲。なんと日本のインディ・シーンが誇るべき才能のひとり、Charlotte is Mineのnana furuyaがゲスト・ボーカルと作詞で参加した日本語詞の楽曲だ。furuyaの清涼感溢れる歌声がCharlotte is Mineの新曲と言われても信じるくらい違和感なく乗っていて実に清々しく、同時に改めてその歌声の魅力にも気づかされる。
 ラストを飾る「Tomorrow」は今作でもっともシューゲイズ色が強く、テープ・ディレイのかかった少しくぐもった響きのアルペジオの絡みとやや激しめのドラムが印象的。作品全体で見ると若干異色ではあるが、そういえばBlueboyやThe Field Miceなんかにもこんなシューゲイズ風味の曲があったよな、と思い出させられる。フェードアウトで終わるアウトロは今時少し珍しいのではないだろうか。
 2023年にもなってこんなトゥイー・ポップまっしぐらな作品を求める人間がどれだけいるのかは定かではない。だからこそこの作品が存在することが嬉しい。バンドのプロフィール文には「Proud to be Unpopular(不人気であることを誇る)」というキャッチコピーがあるが、これはまさしく彼らの音楽が体現するステートメントと言えるだろう。一点の曇りもないポップネスの灯火を守り続けるSunny Summer Day。昨今の音楽シーンのトレンドに疲れたときには、ぜひその名を思い出していただきたい。


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