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KONCOS『Music Is Love』少しかもしれないけれど、それでも、確実に愛はある。

KKV Neighborhood #81 Disc Review - 2021.4.2
KONCOS『Music Is Love』(AWDR/LR2)
review by 松島広人AIZ

2020年から2021年にかけて、何か良い出来事があったとすれば、それは「今年も素晴らしい音楽作品が世界に一つずつ増えていること」ぐらいかもしれない。(残念ながら、それほど「良いこと」を見つけにくい時代を生きている、とも言い換えられてしまうのだけど。)

そんな不穏な時代に風穴を開けるべく2021年3月にリリースされたのが、KONCOSの4年8ヶ月ぶりとなる待望の最新アルバム『Music Is Love』だ。2019年当時のインタビューでも言及されていたように、サブスクリプション・サービス時代のフレッシュな音楽に影響を受けた〈オルタナティブ・ソウル〉な雰囲気に溢れている。

東京を拠点としながら、日本全国の〈街〉をくまなく駆け回るパワフルな活動を続けてきた彼ら。最新作は、現場にレコードショップ、そしてサブスク、あらゆるチャネルから貪欲に音楽を吸収し、自身の更新を試みてきた数年間の集大成とも取れる、圧巻の1枚だと断言できる。

作品はパイプ・オルガンの音色によって、ゴスペル調のフィーリングを伴う”Intro”にはじまり、即座に後半部を彩る“Everyday(Short Ver.)”へと接続される。そしてすぐ〈歌〉と〈世界〉への愛を伝える“Sing”、生きることすべてを愛に置換する“All This Love”~“Magic”へ繋がり、ジェットコースターのような展開を見せる。荘厳さも感じさせる切り口を、即座にポップスへと接続する表現の強度は、全方位へ愛を振りまいてきたKONCOSにしか出せない味わいだ。

続く中盤の“Never Been Better”~“Eisbahn”~“Nites Like This”から成る展開には〈クラブ・ラヴァー〉としての彼らの一面を見ることができる。ディスコ、ハウス、ポスト・パンク、トラップを想わせるリズミカルな展開には〈激しい重低音に合わせてドリンクを流しこむあの時間〉への確かな信頼と愛情を感じざるを得ない。

その流れにブレイクとして挿入されるのが、西海岸周辺のインディーミュージックに着想を得て誕生した“Feelin'”だ。スウィートなメロディはThe Cureのアンセム“Boys Don't Cry”を連想させ、重厚なリズムは2019年の話題を攫ったTyler,The Creater『IGOR』をイメージさせる。2020年代以降のミクスチャー感覚が詰まったソングライティングの好例と捉えられるだろう。

感傷的な気分もつかの間、続く“Bongo Song”の野性的なグルーヴが再びダンス・カルチャーの香りを呼び起こす。Zongaminによるトライバル・ファンクの名曲を、KONCOS流のパワフルな解釈で再構築したものだ。ああ、クラブに行きたい…という気持ちになること、間違いなし。

そしてアルバムの終局を飾るのが、ショート・バージョンとしてイントロと共に提示された“Everyday”。〈みんな歌え〉という歌詞には、声を出せない現代への抵抗と新たな表現を模索する姿勢を感じる。最後を結ぶのは、もはやアンセムとして定着しつつある極上のソウル・ナンバーである“I Like It”。過去から現在、そして未来に至るまで、時間軸を超えて説明できる〈愛〉の普遍性を、LoveでなくLikeとするところにKONCOSの魅力を感じられるだろう。人はもちろん、街やモノ、体験に至るまで。あらゆるところに愛が存在することを証明してくれる、これ以上無い名曲だ。

パンデミックの発生を皮切りに、世界中の音楽家が現場のアクトを第一としたスタイルからの脱却を余儀なくされた。そのような社会情勢と折り合いをつけつつも、やはり持ち味の〈現場の息遣い〉を重視する姿勢を貫き通したのがKONCOSだった。

そもそも、KONCOSの楽曲の多くは週二回以上のタイトなスタジオリハーサルと、年100回以上にも達する各地でのライブ活動を原動力に生み出されていた。そのスタイルは対面の場を超えてオンライン上にも伝播しており、Instagram配信番組「KONCOS FLAVA」の開始や各シングル曲をイメージしたコーヒーやTシャツ、フラワーアレンジメントの販売など枚挙に暇がない。
リリース情報だけを見ると、前作『The Starry Night EP』(2018年)や代表作の『Colors & Scale』(2016年)から長い沈黙を保っていたようにも思える。しかしながら、KONCOSを知る人であれば、彼らがいかにアグレッシブな活動を続けてきたかをご存知だろう。アルバムのほぼ全曲が次々とシングル・カットされ、スピーディに配信されていく。リリースと同時に、当人たちはもちろんファンメイドによるイメージ・プレイリストがシェアされる。
この流動性とスピード感は、すべてオンライン上で展開されていたものだ。にもかかわらず、きわめてフィジカル的な、確かな〈KONCOSらしさ〉を感じさせてくれる。

最新作『Music Is Love』を、これまでの作品群や、KONCOSの活動と照らし合わせながら聴き込む。そうすれば、表面的な軽快さ、清涼感の内に秘められた激情、希望を掴み取るためのアグレッシブな姿勢を必ず感じ取れるだろう。

愛をもってカウンターであること。優しく背中を押してくれるメッセージ。心の底から訴える〈希望〉。それこそが、パンデミックの時代のレベル・ミュージックの在り方なのだと信じたくなる。春の日差しの中で抱く〈もしかして、なんとかなるかも〉という希望のように。

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