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computer fight『suburban blues』 暴走する社会のサウンドトラック by 長谷川文彦

KKV Neighborhood #163 Disc Review - 2023.3.28
computer fight『suburban blues』review by 長谷川文彦


computer fight『suburban blues』

以前ここでも紹介したPsychoheadsが2月に解散した。アルバム1枚と数年の活動、その一瞬の煌めきで消えていく美学。そんなものがロックにはインストールされていることを我々は了解している。その典型を作ったのはセックス・ピストルズであり、そうなれなかったのはマニック・ストリート・プリーチャーズだ。Psychoheadsはその記録を更新したということだろう。
しかし、こういうことがあるといつも思うのは「もう少し見ていたかった」ということだ。一瞬で消えてしまうからこそ輝くということもわかっているが、もっと聴いて・観ておきたかったと思うのである。

computer fightというバンドのことを知ったのはいぬん堂のツイッターの「めちゃかっこいいな!」というつぶやきだった。それがなんとなく気になって、3/15にリリースされるアルバムは聴こうかなと思った。つい最近のことだ。どんなバンドなんだろうかと思ってネットで探ってみたけど、情報が少な過ぎてよくわからない。少ない情報の中で例えに出てくるバンドが、Gang Of Four、This Heat、MELT-BANANA、フリクション、RAPEMANなどであって、それだけで期待しかなくなってくる。
一番詳しい情報は小野島大氏がnoteに書いた文章だった。それでも詳しいバンドのプロフィールはわからなかったし、闇雲に期待感だけがさらに高まるような内容だった。聴いてみた方が早いなと思い、すでにサブスクに上がっているアルバムの一曲目を聴いて、最初の20秒でそっと閉じた。これ、とんでもないものかも知れない。
とんでもないバンドはちゃんと聴くべきだ。CDを予約して、座して待つことにした。

到着したCDを心して聴く。一瞬でその世界に引き込まれる。これはもう「凄い」としか言いようがない。いわゆるポストハードコア/ポストパンクであるけど、そんな枠におとなしく収まっているような音ではない。例えに挙がっていたバンドは確かに間違いがなく、フガジ以降のワシントンDCのポストハードコアや、80年代後半のアメリカのオルタナティヴとも通じるような激しい音である。ただし、もっとぶっ壊れていて、ずっと突き抜けていて、攻撃的に高揚している一方で冷めた視線で世界を見ている。性急で止めようのないスピード感と冷たい感触が音に同居している。
音の感触はどこを切ってもガリガリに尖り切ってささくれていて、特にギターの切れるような音が凄い。時々パンクに走ったアート・リンゼイのごとくフリークアウトする。
彼らは自分たちの音を「加速する社会のサウンドトラック」と言っているらしい。むしろ「暴走する社会のサウンドトラック」と言いたいぐらいだ。2023年の我々の社会は本当はこういう音を必要としているのではないか。

わかった範囲でのバンドのインフォメーションは、2019年結成で東京近辺で活動中ということ。シングル1枚とライブ音源がBandcampにアップされている。悲観レーベルからアナログ盤のシングルをリリースした後、デジタルのみでアルバムを去年リリース。そのアルバムが今回改めてCDでリリースされている。配信のみのリリースの時は情報が伝わってこなかったけど、CDをリリースすることになってツイッターでCD屋たちが一斉に騒ぎ出した印象がある。フィジカルのリリースは大事だなと思う。

Psychoheadsじゃないけど、パッと光って消えてしまうかもしれない危うさを持っているような気がしてならない。そうなる前に観ておかないといけない。4月のライブは予約した。そのライブの告知に彼らは[O.A]と記載されている。PANICSMILEやトリプルファイヤーには悪いけど、自分にとってはcomputer fightの方がメインだ。

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